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ロジック  作者: なかじまこはな
123/135

過去7

朗は頷きも返事もしないでただ黙っている。


「俺だって、最初は逃げてた…自分の罪からも、凜からも…けどお前が前に進めと言った、ちゃんと向き合えと言ったんだ」


崇は朗の手を握ると、


「俺はこの手で父親を殺した、この血のついた手で凜を守れるか不安だけど…それでも前に進む、お前の手は汚れていないだろ?不安がらなくてもいい、ちゃんと手を繋いでくれる人は側にいるから」


崇はそれだけ言うと立ち上がる。


「また来ます、それじゃぁ」


エディにも軽く会釈して部屋を出て行った。




◆◆◆



「お母さん、話があるの」


お粥を作り直しているマキコに華が、改まったように話をきりだす。


「何?お母さんも華に話があるの」


「本当?お母さんから話して」


「華からどうぞ、何?」


「あのね…アタシ、アメリカ行くの止めようと思うの…だって、ずっと日本に住んでるし、アメリカの風習についていけないかも知れないし、英語だってネイティブみたいに話せないし、あっ、別に凜ちゃんと朗が別れたからってわけじゃないからね」


華は一生懸命に行けない理由を作った。


朗を看病している間、弱り切った朗を置いてアメリカに行けない…そう考えていた。


「つまりは朗を一人に出来ない…そうでしょ?」


華は焦りながら頷く。


「それでいいじゃない?」


マキコには嘘も何も通じないようだった。


「でも、お父さんに何て言えば…」


「正直に言えばいいのよ、嘘や誤魔化しなんかせずに娘の幸せを願わない親は居ないわ、ちゃんと言葉で伝えてね、親は子供を愛してるから」


そう言うと華の頭を撫でる。


チエコは伝えられなかった。朗の思いも伝えられ無かった。生きている間にしか出来ない行為だ。


「うん、分かった、お母さんの話は?」


「山本君と要君が大学卒業だからロジックを辞めるの…だから2月か3月に新しい人を入れるわよ華が一から教えてあげてね」


「そっかぁ、二人共大学卒業なのかぁ…新しい人もやっぱり大学生?」


「いいえ、オジサンよ…しかも覚えが悪い…働けるのかしら?」


「オジサン?リストラにでもあったの?」


「今の仕事を辞めるそうよ…しかも住み込みで働きたいって華、どうする?」


「はっ?住み込み?ヤダよ!知らないオジサンと住めない」


華は首をブンブン横に振る。


「あら、本当に?じゃぁ本人に断ろうかな、泣くわよあの人」


「あの人?」


「そうあの人…」


とエディが居る部屋を指差す。


「えっ?お父さん?嘘!いいに決まってるじゃない」


華は飛び上がって喜ぶ。


「えっ?じゃぁアメリカ行きは無し?」


「そうナシ」


とマキコはウィンクした。




◆◆◆



「俺…逃げてますか?」


崇が出て行った後、黙り込んでいた朗は口を開いた。


エディは優しく朗の手を握る。彼の手は小刻みに震えている。きっと…心の中で現実と戦っているのだろう。


「そうだね…逃げてるかな」


「逃げてるつもりはありません」


「じゃぁ…どうして泣かない?」


朗は泣くと言う言葉にピクリと反応した。


「泣く?泣いてどうなるんですか?何か変わるんですか?誰の為に泣くんですか?アイツですか?アイツは元々家にあまりいなかった、可愛がられた記憶がないのにどうして泣けるんですか?」


「君の為だよ」


「俺の為?どうして?」


「私には君が泣くのを我慢しているように思える…泣いても何も変わらないかも知れない、でも君の中で何か変わるかも知れない…君は悔しいんだよ、母親をどこの誰か分からない人に奪われて…ずっと憎んでいた人が本当は君を捨ててないなかった事に…そんな母親じゃないと信じてあげれなかった自分が悔しいんだ…それで怒っている」


「知ったような口聞かないで下さい」


エディの言葉を拒否するかのようにそう言って俯く。体が震えてくるのが分かる。


竜太朗が席を外したかと思うとすぐに何か手にして戻ってきた。


「朗…これ」


朗の手に袋を渡す。


「お前の気持ちが落ち着くまでと思って渡さないでおいたんだ」


「何?」


「チエコの遺品だよ、大事そうにバッグの奥に厳重に包まれていたから綺麗だぞ…中見てみろよ」


ドクンッ―と心臓が鼓動した。


震える手で袋から品物を取り出した。


中から出て来たモノは。


あの日、喧嘩の原因になった玩具だった。


チエコからのメッセージもあった。


朗。誕生日おめでとう


大事にしてね。


お母さんより―




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