過去4
朗はその場に座り込んだ。
支えるように竜太朗と蓮が側に来た。
「気持ち…悪い、吐きそう」
朗は真っ青な顔で口を押さえた。
◆◆◆
『ずっと探してくれてたんだってね、エディに聞いた、ありがとう』
病室のベッドで点滴をうけているウォンは、側で見舞いの品のリンゴの皮をむく崇に改まったように礼を言う。
『なんだよ、突然』
崇はくすぐったそうに微笑む。
『でも、ドノバンさんが主犯だったのはショックだった』
少し、落ち込んでいるようにも見える。
『ウォン…話、聞いた?その…』
崇は彼の兄や友達が殺された事を知っているのかを聞くべきかを躊躇う。
『兄さんの事?…うん、エディに聞いた…殺されたって…崇と別れたあの日に俺、兄さんと会ったんだ…その時にSDを預かったんだ…自分にもしもの事があったら警察に行けって…兄さんが悪い事していたのは何となく知ってたんだ、大丈夫?って聞くといつも大丈夫だと笑うから、それ以上何も言えなかった…』
ウォンの目から涙が落ちる。
『そっか…こんな時、なんて言葉をかけていいのか分からないんだ』
『気にしないで、側に居てくれるだけでいい』
『うん、側に居るよ』
崇は優しく微笑む。
『崇…』
『ん?』
『崇はちゃんと凜に好きだと言えた?告白するって言ってたよね?』
『えっ?突然何言って』
崇は顔を赤くしてアタフタしている。
『ちゃんと言えよ!約束だからな!じゃなきゃ、俺が口説く!俺の担当は凜なんだぜ、英語話せるのが凜しか居ないから、凜の白衣姿エロくて可愛い、襲っちゃうかも』
『ふざけんなバカ!』
ウォンの意地悪な言葉に崇は思わず大声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。
『お兄ちゃんうるさい!病室で騒がないで』
凜が勢いよく入って来た。
『いや…、だってウォンが』
凜の突然の登場で崇はあからさまに動揺している。
ウォンはからかうに崇を突く。
『ウォン、うるさい』
『だから、うるさいのはお兄ちゃん!もう、訪問時間過ぎてるんだから出て行って!』
凜に叱られ崇はシュンとなる。その二人の姿にウォンは嬉しくなった。
「お兄ちゃん今度騒いだら出入り禁止にするわよ」
病室を出た崇の後を凜がついて来た。
「分かったよ、大人しくすればいいんだろ?」
「分かればいいの!今日は帰って来る?」
「来ちゃ悪いか?」
「悪くないよ、すぐ意地悪言うんだから…じゃぁ、何食べたい?」
「なんでもいいよ」
崇はぶっきらぼうに言うとエレベーターのボタンを押す。
「すぐなんでもいいって言うくせに食べないんだよねお兄ちゃんってさ、だいたいお兄ちゃんは好き嫌い多い…」
「凜」
凜の言葉を遮るように崇は名前を呼ぶ。
「何?」
「お前、お兄ちゃんお兄ちゃんってうるさい、俺はお前のお兄ちゃんじゃない」
冷たくそう言うと止まったエレベーターに乗り込む。
「なんで…そんな意地悪言うの?」
凜は泣きそうな顔をしている。
「俺はずっと凜を妹だと思ってない…ずっと一人の女の子として見ていた…だからお兄ちゃんなんて呼ぶな…頼むから」
開のボタンを押したまま、凜の顔を見つめる崇は優しい表情をしている。
「じゃぁ…なんて呼べば…」
凜は戸惑いながらに聞く。
「崇」
そう言って微笑むと開ボタンから手を離す。
ドアが閉まる中、「チーズオムライス」と崇は微笑んだ。
ドアが閉まってエレベーターが動きだした。
「崇」
エレベーターが下へと向かう数字を見つめながら凜は呟く。
ずっと、ずっと呼びたかった名前だった。
◆◆◆
ドアがノックされ、エディはドアを開けると、訪ねてきた崇を部屋の中へと招き入れる。
『座って、コーヒー飲むかい?』
『はい』
崇は上着を脱ぐとソファーに座る。
『ウォンはどうだい?』
コーヒーをカップに注ぎながらに聞く。
『元気ですよ、明日には退院出来るそうです』
『そうか、それは良かった』
コーヒーを崇に渡す。
『あの…ドノバンは』
『アメリカに引き渡すよ、だから私も急遽アメリカに発つんだ』
『えっ?』
崇は飲もうとしたカップを口から下げた。
『しあさってくらいに発つよ』
『そんな…急に』
崇は途端に悲しそうな表情になる。
『けど、すぐに戻ってくるよ…今の仕事は引退するんだ…ドノバンを捕まえたら辞めるつもりで頑張って来たから…佐世保で仕事に就こうかと思って』
『本当ですか?』
さっきまでの悲しい顔はどこへやら…嬉しそうに笑う。
『そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな』
エディは照れ笑いをする。