過去
「企業秘密」
エディは意地悪っぽく笑う。
「ケチ!どうせ、暗闇でも見えるゴーグルか何かなんでしょ?前にテレビでFBIの人が使ってたヤツ」
朗は拗ねたような口調だ
「朗、私からアドバイス…君はジェイにずっと後をつけられてたんだけど、全く気付いてなかったんだよね…探偵は向いてないと思うよ」
プッ…エディのアドバイスに崇が吹き出して笑った。
「崇!何笑ってんだよ!さっきまで泣いてたのに」
笑われた事とエディのアドバイスで朗は一気にテンションが上がったのか声がでかくなる。
「静かにしなさい、病院だよ」
エディに嗜められた朗は慌てて口を塞ぐ。
◆◆◆
ウォンを診察した医者が待合室に来た。
「ウォンは大丈夫ですか?」
真っ先に医者の元へ行ったののはもちろん崇だった。
「大丈夫ですよ、脱水症状を起こしてますが点滴うってますし、後は打撲と擦り傷ぐらいです、一週間くらいで退院出来ますよ」
医者の言葉に崇はホッと胸を撫で下ろす。
「あえますか?」
「もちろん、でも余り長くはダメですよ」
医者はそう言って微笑んだ。
崇は医者に軽く会釈するとウォンが居る病室へと急いだ。
「竹野内先生、婦長が探してましたよ」
崇が出て行ってすぐに、凜が医者を呼びに来た。
朗は急に現れた凜にドキッとした。そう言えば、凜はこの病院に勤めていたな…。
凜も朗に気付いて一瞬目を伏せたのが分かった。医者が朗達に会釈をして待合室を出て行った。
凜も医者の後を着いて行くそぶりを見せたので、朗は思わず、彼女の名前を呼んだ。凜も朗に声をかけようか迷っていた。
さよならをしたのはちょっと前なのに、何日も逢っていない感覚だった。
朗は笑って凜の名前を呼んでくれた。その朗の笑顔で凜も笑顔になった。
気まずくなるのは無し!それを実行してくれるのが朗…。
「朗…元気?」
いつもの自分の笑顔で朗と会話が出来た。
凜は少しの間でも朗と付き合えて良かったと思えた。
◆◆◆
「偉かったね」
車の中、エディがそう切り出した。
朗は、竜太朗の家までエディに車で送って貰っている途中で。崇はウォンの病室に置いて来た。
「何が?」
「凜が待合室に来た時、君は泣くかと思ったんだ…実際、泣きそうな顔してたし」
「泣かないよ…泣いたら凜が傷つく」
「そうか…イイコだね」
エディは朗の頭を撫でる。
「すぐ子供扱いしてさ」
朗は口を尖らせる。
「悪い、朗は小さい時から知ってるからさ、なんか自分の子供みたいで」
「華と崇だけでいいじゃん」
「朗だって、華と結婚すれば私は義父になる、華はオススメだぞ、可愛いし、家事は出来るし」
「冗談~、華は妹みたいだからさ」
「崇は妹だと言い張っていた凜を愛してる…将来は分からないだろ?」
「まぁ…確かに」
複雑そうに笑った。
エディの車が竜太朗の家の駐車場に入った時に、華の姿が朗の視界に入る。
「あれ?華…、オジサン…マキコさんも居るよ」
と駐車場を指差した。
駐車場にはマキコと竜太朗が真剣な顔で何かを話合っているようだった。
何してるんだろう?車が止まると、「朗、どこにいたんだ!散々、携帯に電話したんだぞ」竜太朗が真っ先に車に駆け寄り、ドアを開けた朗に怒鳴りつけた。
「えっ?ごめん…竜太朗さん何か怖い」
車から降りるのを躊躇したほどだ。
「どうしたんだ?」
エディも車から降りる。
「貴方も一緒だったの?貴方の携帯にも散々電話したのよ」
マキコも竜太朗同様、怒鳴る勢いだ。
「う、すまん…電源切ってて」
迫力に後ずさる。
「電源入れてなきゃ携帯の意味ないでしょ!」
「ごめん、何かあったのか?」
マキコと竜太朗の様子は明らかに変だし、華は今にも泣きそうな表情で朗を見つめている。
「朗、お前に会いに警察が来てる、もちろん江口君も一緒に」
竜太朗が真剣な面持ちで切り出す。
いつものオチャラケた竜太朗ではない。
「警察?江口さんまで…何で?あっ、待って、もしかして…いや、あの場合は仕方ないし、確かに銃刀法違反だけどさ」
朗は銃を一発撃った事が頭を過ぎり、急にしどろもどろで弁解を始める。
「お前、何言ってんだ?とにかく行こう」
竜太朗は朗の手を掴むと引っ張るように歩き出す。
「だから何?待ってよ」
朗は嫌がるように踏ん張るが力で負け、嫌々歩く。
「…身元確認だ」
竜太朗は振り返りもせずに答えた。
その声のトーンは低く、一気に不安が過ぎる。
「身元確認?…何言ってるの?」
竜太朗はその質問には答てはくれない。