届かぬ思い4
ウッ、男達のうめき声が薄暗い部屋の中で響く。
ドサッと何かが倒れる音もする。
『どうした?』
周りを把握出来ないドノバンは焦ったのか崇を掴む腕が緩んだ。
瞬間、誰かが素早い動きでドノバンの手から崇を引き離した。
『誰?ジェイ?』
誰かの腕がしっかりと自分の体を抱いている。
ジェイ?違う…その腕を崇は知っている。
『エディ?』
『うん、大丈夫だから安心して』
その優しい口調は紛れも無くエディの声だった。
『エドワード?何故だ?殺したのに』
ドノバンの声は少し震えているようだった。
『それは残念だったね、私はしぶといんだ』
『ならばまた殺すだけだ』
ドノバンは声がする方へ銃を撃ちまくる。
エディは崇を庇いながらジェイの元へと行く。
「崇、朗、ここから動くなよ」
エディは崇を朗の側へ座らせるとジェイと共にドノバンの後ろへ回った。
『残念ながら私の勝ちのようだな、ドノバン、降参しろ』
エディが挑発するように叫ぶ。
『ほざくな』
エディの声のする方へ、また銃を撃ちまくるが、カチカチと弾切れの音がする。
『ドノバンさよならだ』
エディは天井に向けて、銃を一発撃つ。
それが合図のように明かりが一斉に点いた。
明かりがつくと、ドノバンの周りを囲むように警察が銃を構えていた。
薄暗い中で何があったのか、ドノバンは理解出来ないのか、茫然としている。
『私を即死だと言った男は、買収してたんだ…仲間は選んだ方がいい』
と銃痕後の上着をめくり、下に着込んでいた防弾スーツを見せた。
『お前…潜入捜査官だったのか』
ドノバンは悔しそうだった。
エディは笑うとドノバンを取り押さえるようにと指示を下す。
「オジサンカッコイイ!」
捕物帳を見ていた朗は感動のあまり、拍手をしている。
「全く…君は」
エディは微笑み。
座り込んでボンヤリとしている崇の目の前にしゃがみ込む。
「あいつは…エディは死んだって言った…」
「死んでないよ」
「俺を騙してるって…」
「うん、警察だって黙ってた」
「なんで…ここが?」
「君を守ると約束したから…崇、我慢しなくていいよ…怖かったね」
そう言うとエディは崇の頭を撫でた。その手の温かさに崇は涙が零れた。
迷子になった子供が親を見つけ、ホッとして泣き出すようにポロポロと涙が落ちる。
エディが自分のせいで死んでいたら。もう、生きて行くことさえ出来なかっただろう。
ずっと恐怖と、不安と、悲しみを我慢していた。
エディの手の温かさはそれを一気に取り去ってくれた。
「大丈夫だよ」
エディはそう言って抱きしめてくれる。素直に声を上げて泣く事が出来た。
◆◆◆◆
朗達はウォンを病院に連れて来ていた。
「オジサン、どうして殺さた事になってたの?」
ウォンの診察を待合室でエディや崇と待つ朗は引っ切りなしにエディに質問ばかりを繰り返し聞いていた。
ジェイはドノバンをアメリカ政府に引き渡す手続きの為に米軍へ先に戻って行った。
「崇があの時点ではどこに居るか分からなかったし、奴が約束を守るとは思えなかったし、…ドノバンの部下にね、組織を抜けたがってたのが居たから、罪を軽くする代わりに協力して貰ったんだ…けど、粋なり撃たれた時はさすがにビックリしたけどね…死んだ振りした方が動きやすいんだ」
「じゃ、どうしてパチンコ屋が分かったの?ジェイは連絡してなかったのに」
「簡単だよ、崇、携帯持ってる?」
崇は頷くと携帯を上着のポケットから出してエディに渡した。
「前に崇にあげたストラップは発信機なんだよ」
エディはストラップを外し、丸い球体部分を開け、小さい機械を取り出した。
「すげぇ」
朗は手品のタネ明かしを見る子供のように目をキラキラさせ、身を乗り出し見つめている。
「崇はいつ誘拐されてもおかしくない状態だったからね、内緒で持たせてた…後は私が側に居れば守れるし」
そう言ってエディは崇の掌にストラップを返した。もちろん、機械は取り除いた状態で。
エディはいつも崇の側に居た。いつも守ってくれていたんだと実感が湧き、泣きそうになる。
「いいなぁ…崇はオジサンみたいな人にいつも守られてさ」
父親が居ない朗には、崇を守るエディはまるで頼もしい父親みたいに見えて羨ましかった。
「朗の事はジェイに頼んでたからね、一度に2人は守れない」
「うん、ジェイに聞いたよ、ありがとう…それからもうひとつ聞いていい?どうして、暗闇でオジサンは崇を助けられたの?」
これを1番知りたかった。