届かぬ思い3
「崇、大丈夫?」
朗が崇の目の前に手を出してくれた。少し前の崇ならその手を跳ね退けたはず。けど、今は出された手を握った。
一緒にドアの方へ向かおうとした時に運悪く、ドノバン達と鉢合わせになってしまった。
『表に見張りが倒されてたからね…もしやと思ったが…エドワード君の仲間だろ?よくここが分かったな』
ドノバンは朗に気付き、『君は殺されたんじゃなかったのかな?…まぁ、嘘だろうとは思ってたけどね』と微笑む。
『オジサンの部屋に盗聴仕掛けた人?』
『そうだよ、どうしても携帯の中の情報が欲しくてね』
『オジサンを呼び出したのもあなたなの?オジサンは?』
朗は不安が頭を過ぎった。呼び出した者がここに来ているって事は明らかにエディに何かあったって事になる。
『エドワード君かい?彼なら死んだよ…呆気なく』
感情も込めずにアッサリと朗の問い掛けに答えた。朗はその後の言葉を失い、思わず崇を気にした。
『エドワード君はね、最後まで崇を心配していたよ…私が約束を守らないのを承知で一人で来たよ、その勇敢さは誉めよう』
『ふざけるな!』
朗が止める間もなく崇はそう叫び、ドノバンに掴み掛かった。
怒りに満ちた目でドノバンを睨みつける。
フッ、ドノバンは口の端だけで笑うと素早い動きで崇の腕を掴んだ。
「崇」
朗が助けに行こうと前に出ようとしたのをジェイが止める。
『君みたいに可愛い顔をした子供に睨まれても怖くはないね』
そう言いながら、崇の手首をひねる。
「痛っ」
痛みで眉を寄せる。
『何…でエディを殺したんだよ…』
痛みに耐えながら崇は言う。
『邪魔だったからかな?君だって要らなくなった本や服は捨てるだろ?そうしなきゃ部屋は片付かない…それと同じだよ』
『同じじゃない!アンタ頭おかしいんじゃないか?』
『おかしくはないよ…おかしいのは寧ろ君の方だよ、何故泣く?』
泣く…そう言われ、自分が泣いているんだと気付く。
『友達だったのに…』
悔しい…どうしてこんな奴に…。
俺が…俺がエディの名前を言わなかったら、エディは死なないで済んだのかな?
親友になれるよ…。そう言って笑ってくれた優しいエディにはもう触れる事は出来ない…。
ジェイはドノバン達が崇に気を取られている隙に棚の後ろへと入り込み、朗に目配せをして棚の後ろへと促す。
「電球を狙え」
朗の手に銃を無理矢理持たせる。
「やだ」
朗は小声で答、首を振る。
「5つ数えるから」
ジェイは有無も言わさずにカウントを始めた。
『友達ねぇ…その友達が君を裏切っていたとしたら?』
『裏切る?』
ドノバンの問い掛けに崇は怪訝そうに眉を寄せる。
『君に近づいたのはSDが欲しかったからだよ、エドワードは私達の仲間だ…あの暗号を作ったのも彼だ』
『信じない』
崇は即答した。
信じない、信じるもんか!
ドノバンを睨みつけたのと同時に朗が上に向かって銃を撃った。
パンッ―という激しい音と共に明かりが半分落ちた。
ドノバンが崇の体を自分の方へ引き寄せ、彼の頭に銃を突き付けるのと、それは同時だった。
『随分、舐めた真似をしてくれるな、銃を渡して3人共出て来い、さもないと崇は殺す』
ドノバンの声が部屋中に響く。
銃を突き付けられた崇が視界に入り、朗は気が気ではない…ドノバンを援護するように数人の男達も銃を構えている。
今、出て行けば自分も崇も殺されるかも知れない。
『10秒だけ待ってやる』
ドノバンが10から逆にゆっくりとカウントを始めた。
出て行かないと崇が危ない。彼の言ってる事は本当だろう…沢山の人を殺して来ている。
邪魔だから処分した。そんな冷酷な感情で人を殺せるのだから。
朗が前に出ようとするのをジェイが止めた。
「崇が」
もう待っていられない。
「大丈夫だから待って」
「何が?オジサンだって殺されたのに!全然大丈夫じゃない、華に…華やマキコさんに何て言えばいい?」
朗は泣きそうだった。
銃を撃った事と、エディが死んだと聞いた事で動揺していた。
『…3、2、1、可哀相だがサヨナラだ…天国、いや地獄かな?エドワードに逢って、裏切っていた事を本人の口から聞けばいい』
ドノバンは崇の頭に突き付け、シリンダーを回す。
恐怖の余りに崇は目を閉じた。
「待って!崇!」
朗が叫んだ!
ドンッ―!!一瞬、崇に突き付けられた銃の音かと思ったが、
停電なのか部屋の明かりが完全に消え、再び、薄暗い部屋に戻った。