届かぬ思い2
「じゃぁ、どうして?」
「だって、銃刀法違反じゃん」
朗はキッパリと答えた。
「はっ?」
ジェイは予想外の言葉に一瞬、キョトンとなる。
自分を守れる銃は人を殺せる武器でもある。本気で怖がっていると思っていたジェイはキョトンとなり、次の瞬間。
爆笑した。
「朗、本当に君は緊張感なくていいね」
大笑いするジェイに。
朗はムッと口を尖らせながら、「だって、本当に銃刀法違反だもん…警察に捕まっちゃう」と文句を言っている。
◆◆◆
崇は今までウォンに話していなかった事をポツリポツリとウォンに話出した。
父親を刺し殺した事、凜を愛している事。
何も隠さずに…ウォンは黙って聞いてくれた。
そして、何より。ウォンに事実を話すのが怖かった事も話した。
『崇…辛かったね』
話終わるとウォンがそう言ってくれた。
『俺…崇がそんなに辛い思いをしてるなんて知らなかった…ごめんね、気付いてあげれなくって、友達なのに』
ウォンはそう言って泣いてくれた。崇の為に泣いてくれた。ウォンは自分を嫌いにならない…一緒に泣いて一緒に笑ってくれる
そう確信出来た嬉しくて言葉が出て来ない。
『崇…ここを出よう、一緒に…そして凜に気持ちを伝えなきゃダメだ』
『うん』
崇は力いっぱいに頷いた。
外に出たい。凜に会いたい…
気持ちが溢れそうになった時に拉致されている部屋のドアが激しく叩かれた。
ウォンと崇は息をのむ。
ドノバン達か?
そう思った時に、『ウォン、居るんだろ?』
と朗の声がした。
「朗…?」
希望の光りが射したように思えた。崇は立ち上がるとドア近くまで行き、「朗!俺だよ」と叫んだ。
「崇?何で崇が居るんだよ、ウォンは?」
少し驚いたような朗の声が返って来た。
「ウォンも一緒に居る、お前一人なのか?見張り居ただろ?」
「居たけど、ジェイが倒した」
「ジェイ?」
「うん、オジサンの相方」
「朗、それを言うなら相棒、漫才コンビじゃないんだから」
朗と一緒に聞き覚えのあるような声がした。彼が言うジェイの声なんだろうと崇は思った。
『崇、ウォン聞こえるか?今からドアを爆破させるから10秒以内に何かの陰に隠れてて』
『分かりました』
崇は回りを見た、事務所後のような部屋には机や棚が少し残されている。ウォンは上手い事に棚の陰に居る。
自分もウォンの側へ行くと彼の盾になるように上から覆い被さった。ウォンは動けないし、自分より遥かに衰弱している。
カチ、カチ、と合っているのか分からない部屋に置き去りにされた時計の音がやけに響いた。崇が自分の中でカウントしていた数が10になったと同じくして。
バンッ――ッとドアの方から音がした。
衝撃が余りなく、一瞬だった。薄暗い部屋の中が急に明るくなる。
「崇、ウォン、大丈夫か?」
朗が入口近くの電気のスイッチを押し、部屋の中へ入って来た。
『ウォン、大丈夫か?』
崇は体を起こし、ウォンの無事を確認する。
『うん…かばってくれてありがとう…』
そう言って微笑むウォンにホッとした。
「二人共大丈夫?」
朗が崇の側に座り込み、手を縛ってあるロープを解いている。
「朗…何でここが?」
「ウォンの携帯の写メだよ…天井が写ってただろ?天井の模様に見覚えあってさ、この中に一度入った事があるから」
『大丈夫?』
ジェイがウォンを抱き起こしている。
『はい…』
問い掛けに返事は返せるものの、ウォンは自分で体を動かす事さえ出来ないでいる。
『崇、君は大丈夫みたいだね、歩ける?』
ジェイの顔を改めてジッと見てみるとやはり見覚えがあった。
たまにエディと会話をしていた…目が合うと微笑んでくれて、感じがいい人だと思っていた。
『歩けます』
そう返事を返した。
『じゃぁ、急いでここを出よう、ウォンを病院に連れて行かなきゃ』
ジェイはウォンのロープを急いで外す。
『あの…エディは?』
携帯の所持者の名前を無理矢理吐かせられた。エディに危険が及んでいるかも知れない。凜を取るかエディを取るかで悩んだ末に、凜を取った。それが心に突き刺す。
あんなに心配してくれて、大事にしてくれた人を結果的には売った形になった。
『エディ?彼は大丈夫だよ』
ジェイはいつも崇に微笑んでくれていた顔で笑ってくれた。
大丈夫と言う言葉とその笑顔で少しは罪悪感が薄れた気がした。
「朗、ウォンを背負うから手伝って」
「うん」
ウォンの体を気遣いながらジェイの背中へ背負わせた。