隠された謎4
長いアーケードを走り抜けた時に、二人の目の前に車が横付けされた。
万事休す…!!二人は覚悟した。
『早く乗って!』
運転席から顔を出したのはエディだった。
助かった…と急いで車に乗り込む。車が走り出すと追って来た男達はようやく諦めたようだった。
『二人共大丈夫か?』
後部席で息を切らしている二人に声をかける。
「大丈夫…ありがとうオジサン…助かった」
朗は息を切らしながらに礼を言う。
『崇は?』
『大丈夫です』
崇もゼーゼーと息を切らしている。
「朗…頬どうした?奴らに殴られたのか?」
ミラーに映る朗の頬は晴れ上がり血も滲んでいる。
「これ?崇だよ」
チラリと崇に視線をやる。
「崇?」
ミラー越しに崇を見た。
それに気付いた崇はばつ悪そうに目をそらす。
「理由は後で聞くよ、とりあえずホテルへ戻ろう、傷の手当もしてあげるから」
エディはアクセルを踏んだ。
◆◆◆
「これはまた…随分と派手に殴られたな」
ホテルについたエディはフロントから救急箱を借り、部屋で朗の手当をしてくれている。
「痛っ、オジサンもうちょっと優しくしてよ」
触られる度に痛みが増すのか朗は、眉間にシワを寄せている。
「後は冷やしておこう、もっと腫れると思うから」
エディは朗に冷やしたタオルを渡す。
「さて、この頬の原因は?」
「冗談が通じなかったんだよ、本気で言うかよあんな事…」
朗は、2発殴られた恨みをまだ持ってるのか、嫌味っぽい口調で言う。
「冗談?」
エディは、崇に確認するかのように視線を向けた。
崇は、殴った理由を話し始めた。
「なるほどね…朗の冗談はちょっと質が悪いな…特くに崇みたいな真面目な子にはね」
エディが崇の味方のような言葉を言ってくれたので、ほらね…と言わんばかりの顔をする。
「そりゃぁ…そうだけどさ、でも、いきなり殴らなくてもさ」
朗は頬を押さえながらブツブツと文句を言う。
「ちゃんと謝っただろ?」
ブツブツと文句を言う朗に、カチンときたのか。崇は、ちょっと怒った口調で言い返した。
「何だよ逆切れかよ」
「こら、喧嘩しない」
エディが、二人の間に入ってくれる。
「あ、コイツ、ウォンの携帯持ってます!」
先生にチクる小学生か?朗はそう言いたかった。
「だろ?朗は嘘つけない子だからね…じゃ、携帯出して」
エディは朗の前に手を出す。
「何で?」
「何でって、お前が持ってても仕方ないだろ!」
エディの代わりに崇が答えた。
「崇が持ってても仕方ないって言ってるだろ?これのせいで誘拐されそうになったのなら尚更渡せない!」
「なんでだよ」
「凛が悲しむ…これがあったら凛も巻き込まれるってさっきも言っただろ、だから渡せない」
朗の目は真剣で…本気で凛を守ろうとしている。崇だって…凛を巻き込まれるのは嫌だ…でも、それ以上に他人を巻き込むのも嫌だった。
「俺には家族居ないし…恋人居ないし…心配する奴いないから…大丈夫…」
朗は悲しそうに俯く。
「君にも…心配してくれる人達は居るだろ?」
エディが優しくそう言ってくれる。
心配してくれる人達は竜太朗や蓮や…華だろう。朗にもそれは分かる。
「そうだけど…でも、崇には渡せない」
「いいから渡せよ」
崇は無理矢理に朗のポケットに手を入れようとする。
「嫌だってば!」
朗は崇を突き飛ばす。
エディが上手い具合に崇をキャッチしてくれた。
「本気にムカつく!凛がどれだけお前を心配してるか知らないくせに!」
朗は叫ぶと崇を睨む。
「崇が自分と居ると笑わないから…姿を消すとまで覚悟してた…寂しいって、崇と心が通じなくて悲しいって泣いてた…泣かすなよ!大事なんだろ?俺を殴るくらいに大事なんだろ?だったら泣かすな!」
黙って聞いていた崇は間を空けて口を開くと。
「しょうがない…だろ」
と小さい声で言う。
「しょうがない?」
「俺は凛に幸せになってもらいたい…だから一緒に居てはダメなんだ…」
「なんでだよ?」
「妹だから…だから」
「あ~、もうムカつくバカ!」
崇の言葉を遮り、怒鳴りつけた。
「お前バカだろ?何が兄だよ、好きなくせに…何が妹だよ、そんな風に思ってないくせに、遠回りなんかするな。その度に凛が傷ついてるんだよ、お前が何かを見落とす度に泣くのは凛だ、お前が笑わないのは凛が好きだからだ… 笑って暮らせば凛を手放したくなるからだろ?離さなきゃいいんだよ!もう、愛してるのは凛だけだと言ってやれよ!」
「言えるわけないだろ!」
崇も負けずに叫び返した。