変わった依頼3
「分かった!分かったから、でも絶対に依頼内容は口外するなよ」
と朗は承諾をした。
竜之介の涙なんかみたくない。
本気でそう思うから…、でも…全ては竜太朗の作戦だったのだ。
朗の弱点は竜之介の涙だと…彼は知っているから。
彼がテーブルの下で小さくガッツポーズをしたのを朗は知らない。
次の日の朝、朗はいつものように開店前のロジックのドアを開けると、
「朗、おはよう。」
マキコの笑顔が出迎えてくれた。
「マキコさ~ん」
朗は嬉しそうにカウンターの席に着く。
「あら?今朝はカウンターでいいの?」
マキコはチラリと奥の席を見る。
「うん。竜太朗さんと待ち合わせなんだ」
「朝ご飯は食べて行かないの?」
「う~ん、昨日…、華にタダ飯食いって説教されたから頼みづらい」
「あの子の説教はいつもの事でしょ?それに華は居ないし」
そう言われ、いつもの華の元気な説教が無く、静かだ。
「休み?」
「違うわ、朝から帰したの」
「えっ?何で?具合悪いとか?」
朗は少し驚いた顔になる。華はいつも元気過ぎて…手に余るくらいなのだから。
「似たようなもんね…、ところで、昨日…可愛い女の子が仕事依頼しに来たんでしょ?」
そう言いながらマキコは朗にココアを渡す。
「うん。華から聞いた?」
朗はいつも通り、スティックシュガーをココアにサラサラと落とし込む。
「山本君と要君からよ」
マキコの横でハンバーガー用の肉を焼く二人を見た。
「可愛かったですよねぇ~あの子!あんな可愛い彼女がいたら自慢する」
と要。
「朗さん、美少女ちゃんの電話番号とか聞きました?」
そう聞いたのは山本だ。
「そりゃ、聞くよ…仕事だし」
「いいなぁ~ところで彼女いくつなんですか?彼氏とか居るのかな?」
山本が目をキラキラ輝かせ、興味津々に聞いてくる。
「教えられるかよ」
二人に羨ましがられている朗は何だか得意げな顔で甘ったるいココアを飲む。
「二人とも、手を動かして!仕事しないなら、給料減らすわよ!」
マキコに叱られ、二人は慌てて、仕事に専念する。
「そんなに可愛い女の子だったの?」
マキコに改めて聞かれ、朗は凛の可愛い笑顔を思い出し、ニヤニヤしなから「可愛かったよ」
と答えた。
「成る程ねぇ…華の態度の意味が分かったわ」
マキコはニヤニヤしている。
ロジックの小さいドアが開き、
「お待たせ朗。」
と竜太朗が入って来た。
「竜太朗おはよう」
「おはようマキコちゃん、昨日は休みだったんだな、珍しい。何してたんだ?」
親しげに話すマキコと竜太朗は幼なじみだ。
「彼とデート」
マキコは意味深に答える。
「え!マキコさん俺が居るのに彼氏?」
朗は焦った顔でカウンターから身を乗り出す。
「バカだな~マキコちゃんが朗みたいなガキは相手しないよ、それにマキコちゃんからすればお前は同級生の息子だしさ…」
「竜太朗!」
竜太朗の言葉を遮るようにマキコが叱るように名前を呼ぶ。
「ごめん…」
竜太朗もマズイと言う顔で朗に謝った。
「何で謝ってんのか分かんねぇ~、それより…調べて来てくれた?」
朗は場の雰囲気を変えるように話題を振る。
「もちろん!」
竜太朗は上着のポケットから紙を取り出す。
「席、移動する?」
そう言いながら朗は椅子から立ち上がる。
「店、出よう」
と竜太朗。二人で歩き出そうとした時に、
「待ちなさい、朗。朝ご飯抜くのはよくないわよ、すぐに出来るから」
とマキコはハンバーガーを手際良く作り、袋に詰めてくれた。
中を見ると、ちゃんと二人分あった。
「俺もいいの?いくら?」
竜太朗はサイフを取り出す。
「いいわよ、どうせ余ったやつだから」
「ありがとうマキコちゃん」
二人はハンバーガーを受け取ると、ロジックを後にする。
二人が出て行った後、
「朗さんのお母さんってマキコさんの同級生なんですか?」
と山本が聞いてきた。
「そうよ、私と竜太朗とチエコ…幼なじみなの」
チエコは朗の母親の名前。
「朗さんのお母さんってどんな人なんですか?朗さんカッコイイから美人なんでしょう?男の子は母親に似るって言いますし」
マキコは何か考えているかのようにしばらく間をあけて、
「うん。美人よ…凄く良い子でね、一途で…絶対に朗を幸せにするんだって言ってたのに…」
マキコの言葉は過去形だ。
そして、寂しそうな表情にも取れる顔で目を伏せる。
「…あの、もしかして、亡くなったんですか?」
山本は罰悪そうにしている。