第八話:真夜中の庭で
『ご、ごめん。人がいるなんて思わなくて。痛かった?』
シャーミはおろおろしながら、何度も謝った。
『いや、僕がここにいたのが悪かったんだよ・・ってそんなことないか。うん。すっごく痛い。』
モネは正直に言うと、少し笑った。
ここは王宮だけど、突然生垣から飛び出してきた少女に対してそんなに気を使うこともないかと思い直したのだ。
『そうだよね。本当にごめん。』
シャーミは相手があまり気にしていなさそうなのに、胸を撫で下ろした。それにふんわりした癖毛がなかなかかわいらしい男の子だ。
『君は何してたの?召使って格好じゃないし。パーティーに来てる人だよね。』
クリスマスパーティーに来て生垣に飛び込む人なんて聞いたことがない。
『ええ〜と、そうなんだけど。』
シャーミは困ってしまった。とても、見ず知らずの人に話せる事情ではない。
迷っていると、後ろのほうからスーラの声が聞こえてきた。
『シャーミ。どこにいるんですか?シャーミ。』
どうしよう。
『あなた、名前は?』
シャーミは慌てて、モネに向き直ると尋ねた。
『モネだけど。』
『じゃあ、モネ。お願いがあるの、ちょっとしたらここにきれいな女性が来るから、わたしは向こうに行ったっていってくれない?追われてるの。事情は後で話すわ。』
『うん、まあいいけど。』
モネは少し面食らいつつ、頷いた。
『ありがとう。』
シャーミは礼を言うと、近くの生垣の後ろに隠れた。
*
『ここに16歳位の少女を見かけませんでしたか?』
少女の言ったとおり、5分後美しい少女が現れた。清潔で質素がいでたちは彼女が高貴な家の侍女であることを示してる。
『クリーム色のドレスの子ですか?』
モネは一応確認する。
『!はい!』
『その子なら、向こうに走っていきましたけど。』
美人に嘘をつくのは辛いな。でも、あの子本当に困ってたみたいだし。
『あの、失礼ですがパーティーのお客さまでしょうか?どうしてこのような場所に?』
暗い中庭に佇む少年を怪しく思ったのだろうか、侍女は怪訝そうに尋ねた。
『僕、パーティーとか苦手で。逃げ出してちゃったんです。』
嘘ではない。
『そうですか。お風邪など召されませんように。』
モネの返答には別段興味がそそらなかったようで、侍女はお辞儀をすると、モネの指した方へ走っていった。
『・・もう出てきても大丈夫だよ。』
モネはシャーミが隠れているはずの生垣の方を見た。
反応がない。
まさか。
モネは生垣の後ろを覗き込んだ。
誰もいない。
『ああ〜あ。なんだか面白そうだったのに。』
モネは小麦色の髪の少女を思い浮かべた。暗闇で光る猫みたいな青い瞳。
美人だったのは、侍女の方なのに気になるのは彼女の方だ。
『今度会ったら名前を聞こう。僕だけ教えたんじゃフェアじゃない。』
彼女の姿を見たとき、モネの心が微かに疼いた。
何か始まる予感がした。
今後のストーリー進行に迷っています。テストもあるので、更新が遅くなるかもしれませんが、よろしければ読んで下さい。もう一つの連載「リトルプラム」もよろしくお願いします。