第7話:シャーミ
閉じて開いて閉じて・・・。
何度も目を閉じてみるけど、目の前の状況は変わらない。
派手な格好をしたおじいさん・・もといおじさん。玉座に座っているから多分王様。
『そなたがシャーミであるか。どれどれ、こちらに来て顔を見せてくれ。いや、なかなか可愛らしいじゃないか。』
『・・・。』
シャーミは状況が飲み込めず、ポカンと口を開けたままだ。
『はい。トルテ王国第3王女、シャーミ・コクトー様にてございます。ご無礼を申し訳ありません。シャーミ様は長旅でお疲れになっていて。』
シャーミは、はっとして耳慣れた声のする方を見た。
声の主はシャーミの視線に気が付くと、その美しい顔にうっすらと微笑を浮かべた。
長く垂らされた黒髪をみつあみにして、上品で地味なベージュのドレスを着たスーラは、どこから見ても模範的な侍女だった。
『どうして。』
シャーミの声が震えた。
どうして、スーラ。わたしはまだ、あなたと旅を続けたいのに。シャーミは涙が溢れるのを我慢して、唇を噛んだ。
『おっと、こちらこそ気が付かず悪いことをした。話は明日にしておこう。今日は、城でクリスマスパーティーをやっているから騒がしいと思うが、ゆっくり休んでくれ。』
シャーミの心情とは、裏腹に国王の声はどこまでも陽気に広間に響いた。
『シャーミ。待って。シャーミ!』
『嫌だ。なんで?こんなことってないよ。』
『シャーミ、待ちなさい。』
険しい声にシャーミは立ち止まった。自分がどこにいるのか、どこへ向かおうとしているのか分からない。
ぬぐってもぬぐっても溢れてくる涙で、視界が見えない。
『話を聞きなさい。もう分かっているはずですよ。一ヶ月前、叔父から手紙を受け取りました。シャーミ・・王女の身の振り方についてです。
ここはとても平和な良い国です。あなたはここでなら、一生幸せに生きることが出来ます。あなたのお父上が悩みに悩んで見つけてくださったあなたの生きる方法です。』
スーラは無情な言葉を優しく告げる。
『嫌!だって、あなたはいなくなってしまうんでしょう?わたしを置いていくんでしょう? 嫌だ、絶対や。もう、家族に捨てられるのは嫌。』
何を言っているのかも分からなくなった。
『私はあなたの家族ではありませんし、陛下はあなたを捨てたわけでもありません。それに家族ならここでもつくることできます。国王があなたを一生守ってくださる方を紹介して下さいます。あなたはその方と一生幸せに暮らすのです。』
『それってどうゆう・・。』
『明日、ババロア王国の第2王子の婚約発表がされます。相手は、トルテ王国第3王女シャーミ・・・』
スーラが言い終わる前にシャーミは駆け出した。
真っ暗闇の中、シャーミは無我夢中で走った。
頭の中では、スーラの言葉がグルグルと回っている。
『逃げなくちゃ、もうスーラも味方じゃなくなった。逃げて逃げて。』
気が付くと、シャーミは大きな生垣の前にいた。どうやら、庭に入りこんでしまったようだ。
周りを見渡したが、行き止まりになってしまっている。
『シャーミ、シャーミ。どこにいるの?』
スーラの声がだんだん大きくなってくる。
『え〜い。』
シャーミは、生垣に手を伸ばした。