第五話:僕の回想1
『私のかわいいスーラ。お前は本当にかわいらしい。まるで女の子のようじゃないか。愛しい私の娘。』
母親のことが嫌いだった。
母親は僕がまだ生まれる前に僕の父親である夫に置いていかれた悲しみで、男を嫌悪するようになった。
自分の子供の性別が男であることさえ、彼女は受け入れようとしなかった。
女の子のような格好をさせられて、いつもままごとや人形遊びを強いられた。
本当に幼い頃はそんな母親に疑問を持たなかったが、時が経つにつれておかしいと思うようになった。
僕は、男だ。
10歳の時、フェンシングを習いたいと言ったら、大泣きされた記憶がある。
『ダメよ、絶対に許さないわ。女の子が剣を習うなんて。母様はあなたにいつもおしとやかに女らしくしていてほしいの。』
そんな母親を目の前にして、頭の中で何かがプツリと音を立てて、切れた。
12歳の時、僕は家を飛び出して、憲兵学校に向かった。
門の前で何度も何度も頭を下げた結果、下働きをしながら訓練や授業に参加させてもらえることになった。
居所探し当てた母親が何度も帰ってくるように言ったが、入学を許してもらえないのなら縁を切ると言ってなんとか許可を得た。
華奢で女らしい顔をした僕は他の訓練生や教師に馬鹿にされながらも、死に物狂いで努力をした。とにかく自立しなければと強くなりたいと切に願った。
僕が憲兵学校を最年少で卒業したのは15歳の秋だった。武術において、学校の中にはもう僕に勝てる者がいなくなったからだ。
とにかく卒業すれば、職にありつけるだろうと思っていた僕の考えは甘かった。教師に媚びを売らなかったのが悪かったのか、卒業が早すぎたのか。
どちらにせよ、僕は家に帰る他なかった。
家に帰って1ヶ月、僕はとにかく自立資金を溜めることにした。母親に黙って便利屋のようなものをやっていた。
そんな頃だ。数えるほどしか会ったことのない叔父からあの手紙が届いたのは。
報酬はもちろん、旅をしながらの警護というのが魅力的だった。母親からこの家から離れることが出来る。
叔父の用心ぶりから推察できるのは、命の危険もあるということだったが、死など今更怖くないというのが僕の本音だった。
そして、僕はシャーミに会うことになった。
暗いですね。