第三話:雨雲
モンブランの町はその名の通り、緩やかな坂道が螺旋状に上に向かってのびており、城壁や道路に黄色がかったクリーム色の大理石がふんだんに使われた町は外から見ると、モンブランのように見える。
その影響か市民もお菓子好きが多く、町にはいつも甘い香りが溢れている。
モネを乗せた馬車は少しずつ、モンブランの頂上、つまりバレンタイン城へ近づいていく。
バレンタイン城の城主であるルノワール7世は首都モンブランを含む7都市を治める、ババロア王国の現国王である。ちなみに、大の甘党で齢70にして、大好物はショートケーキ。
大陸の3分の1を占める大国にもかかわらず、ババロア王国は現国王の暢気な気性をくんで、戦争や他国への侵略行為などからは無縁なのどかさを保っている。もっとも、大陸自体、小国が自国内での支配権を巡って小紛争が起きる位で、大陸を揺るがせるような大きな戦争はここ100年一度も起きていない。
馬の足音が止んだ。ようやく、馬車は頂上に着いたようだ。
モネの目に緑地に白い一角獣が描かれた国旗がはためくのが映った。
城門の上に重ねて取り付けられた二つの旗が揺れるたび、モネの心臓はどくんどくんと音を立てる。
城門の前に立つ兵士の着ている真鍮の鎧や彼らが持っている先端がキラキラ光る槍は少年の心を奪うのに十分すぎるほどだった。
安穏とした日々をそれなりに楽しく送っているつもりだが、モネも他の少年と同じく兵隊や戦争に対して漠然とした憧れを抱いていた。戦場で手柄を立てて、英雄となる。戦争を一度も味わったことのない者の幼い考えである。
平安の100年という年月はこのような者を多く生み出す。
『いいから、早く入りなさい。』
スーラの有無を言わさない口調に、シャーミは肩をすくめると、はあいと言って浴室に入っていった。
後に残されたスーラはため息をついた。
『もう6年か。』
もうすぐ、あの無邪気な金髪の少女ともお別れである。6年は長いようで、短かった。
僕の初めての仕事が終わろうとしている。
スーラは手に持った漆黒の長いかつらを見つめた。彼の短い地毛と同じ色のかつら。あまり好きな色ではない。スーラはその長い髪をかぶり始めた頃のことを思い出していた。
ゆっくりですが、良いラストが迎えられるようがんばって書いていきます。今日のテストが悲しい結果だったので、三話はちょっと暗い感じです。