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「それで、冒険者ってのは一体何をするんだ」
「簡単に言えば、何でも屋みたいなものよ。普通は依頼を受けてそれをこなしていくんだけど、その依頼内容も多種多様でね。モンスター討伐から、要人警護まで幅広くやってるから」
「全然冒険してないじゃないか」
「まぁ冒険者って呼ばれているのは、開拓時代の名残みたいなもんよ。昔は今よりもっと、前人未到の地ってやつがゴロゴロあったらしいからね。それに、今だって冒険してないわけじゃないわ。まだまだ誰も攻略出来ていないダンジョンがいくつもあるのよ。そこに潜って生計を立ててるのもいるし」
「つまり冒険者ってのは、荒くれ者の総称ってところか」
「はーん、アンタには私が荒くれ者に見えるってわけ? 冒険者に危ない奴が多いのは事実だけど……。私までそう見られるのは心外だわ」
「それはいいが、俺たちはどこへ向かってるんだ?」
「それはいいがってアンタね。まぁいいけど、冒険者になるんでしょ。とりあえずギルドに登録して、装備も必要だから適当に見繕って、活動は明日からにしましょうか」
「あの、私達。手持ちが銀貨5枚しかないんですけど、足りるんでしょうか」
アリサが心配そうに、レベッカの顔を伺う。
「ギルド登録に銀貨1枚、装備をできる限り安いのにして銀貨3枚。ギリギリ予算内で足りるかもってところだけど、アテはあるから私に任せといて」
「おいおい大丈夫なのか」
レベッカは自信満々だが、どこか抜けてそうなので、そこはかとなく心配なんだが。
宿から歩いて数分で、俺たちはギルドまでたどり着いた。
レベッカは、冒険者ということもあって出来るだけギルドに近い場所に宿を取っていたようだ。
「おーいオヤジー、筋肉ハゲだるまー。麗しのレベッカ様がきてやったぞー」
「チッ、うるせぇ。お前みてぇな小便臭いガキが、イキってんじゃねーぞ」
「あ、あの。さっきはどうも……」
さっきの受付にいたおっちゃんにアリサがおずおずと挨拶する。
おっちゃんはアリサを見ると、驚いたような顔をした。
「おお、マルベアの嬢ちゃんか。レベッカと一緒ってことは……」
「アリサちゃんがねー、冒険者になりたいってもんだから。登録しにきたのよ」
「登録料は銀貨一枚になるが、そもそもそんなちっこい嬢ちゃんが、冒険者なんてやってけると思ってんのか?」
「どの口がそれを言ってんのか。アリサちゃんにあの二人けしかけたのアンタでしょーに」
「なに!?」
そいつは一体どういうことなんだ。
この人の良さそうなおっちゃんが二人をけしかけてきた?
「あー、ここじゃ人目がある。奥の部屋で話そうか」
おっちゃんは鋭くレベッカを一瞥するとそう言って、カウンターの奥にある部屋に入っていく。
「おい、レベッカ。あのおっちゃんが二人の仲間だとしたら部屋に行くのは危ないんじゃないのか」
「大丈夫よ、ここは私に任せときなさい。悪いようにはしないから」
「わかった」
安心させるように笑うレベッカに、不安が無かったと言えば嘘になるが、ついていく事を決める。
アリサは無言のままだった。
部屋の中は、執務室のようだった。本棚がいくつかと、机に書類が乗っている。
「自己紹介が遅れたな、俺はこのギルドのマスター、アインドックってもんだ」
机の向こうに座ったおっちゃんが、そう言って身分証のようなものを机の上に置いた。
「まさかギルドマスターだったとは……」
俺がそう漏らすと、アインドックの視線が俺に向いた。
「そこのしゃべるコウモリは一体何なんだ?」
「俺はパラサイト、血吸いコウモリだ。このアリサの使い魔をやってる。よろしくなアインドックさん」
最近の使い魔はしゃべるようになったのか。と首をかしげるアインドック。
「まぁそれはいいでしょ。それよりさっきの話の続きだけど、この狸親父があのチンピラをアリサちゃんにけしかけたのは本当のことよ。それについては本人から聞きましょ」
「そうだな、そこの小娘がいうことは事実だ」
「一体どうしてそんなことを……」
アリサの呟きには、言外に返答次第では許さないという思いが込められていた。
「まずマルベアだが、白の森で拾ってきたと言っていたな。その割には、毛皮は丁寧に剥ぎ取られていた、そこの嬢ちゃん、アリサだったか。アリサが、そんなことをできるようには見えない。つまり、盗んできたか。奪い取ってきたか。どちらにせよきな臭い。そこで俺は、銀貨5枚と相場より上の値段を提示して――」
「あの二人を動かしたわけね。この筋肉のでかい声は、ギルド中に響いてたから」
あのでかい声は、そう意味があったのか。
周りに聞こえるように、でかい声を出して、それに反応したチンピラにアリサを襲うように誘導したと。
アリサは見た目からして華奢で非力そうで、チョロイ獲物に見えただろう。
「白の森は、ここらでは一番危険な場所だ。水蜜草を取りに行くなんて、シルバーランクの冒険者でもやりたくない仕事だ。そんなところに行って無事に帰ってきた嬢ちゃんの実力を確かめるという意味もあった、レベッカが動いてたのも確認していたから、大事には至らないとわかっていたしな」
この親父、人の良さそうな笑顔の裏にそんなことを考えていたとは。
「そゆこと、ちなみにだけど、アリサちゃんあのチンピラの一人を片手で吹っ飛ばしてたわよ。そんなアリサちゃんが、冒険者登録したいとのこと! もちろんギルドマスター様は、少しは融通してくると思っていいのよねぇ?」
なるほど、レベッカが言っていた。アテがあるというのはこの事だったのか。
「わかった、登録料は無料に――『あと、アリサちゃんの装備の代金も』 ぐっ……わかった。そこら辺も俺のポケットマネーから出させてもらう」
アインドックは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、自業自得だろう。
「ねっ私に任せて正解だったでしょ」
こっちにウィンクして見せるレベッカは、なかなかイイ女だった。