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「私はレベッカ、冒険者よ」
俺たちはレベッカが止まっているという宿の一室にいた。
「おれはパラサイト、こっちの女の子はアリサだ。助けてくれてありがとな」
「助けたかどうかは微妙だけどね」
レベッカはそう言って苦笑いを浮かべる。
アリサがチンピラを一蹴したのを思い出しているのだろう。
「ってコウモリがしゃべってる……?」
「そうだよ」
「まぁいいか」
いいのか。
本当にそれでいいのかレベッカよ。
「これでも今までに色んなことを経験してきたからね。今更コウモリが一匹しゃべったところで驚かないわよ」
「そうなのか」
冒険者ってのは、俺が想像するより大変そうな職種なんだな。
「それに、さっきのアリサちゃんの一撃の方が私にはインパクト強かったわね」
「まぁさっきのは火事場の馬鹿力みたいなもんだよ。もっと力を使いこなせるようにならないとな」
俺がアリサを見ていうと、アリサは叱られた子供のように小さくなったる
「でも驚いた、私より小さいのにすごい力なのね。もしかして祝福を受けてる? 」
「祝福? 」
「なーに、祝福も知らないのパラサイト。祝福を受けしもの。神格者なんて呼ばれたりもするけど、特別な力を持った人たちのことよ。有名どころだと。マスターランクの冒険者のノイン。教国のマリア様。この国の将軍キリエなんかもそうね」
「全然知らんな」
「あっきれた、コウモリの癖になにも知らないのね」
「コウモリなのは全然関係ないだろ! 」
というかコウモリがしゃべってることに対する順応性が高すぎるだろ。
「あのレベッカさん、冒険者ってどうやったらなれますか」
ずっと黙っていたアリサが、おずおずとそんなことを質問する。
「簡単よ、ギルドで登録するだけ。それだけでみんな冒険者になれる。もっともランクを上げるのは並大抵のことじゃないし、命の危険もある。その分当たった時の稼ぎはすごいけど」
レベッカはそう言いながら、クルクルと手元で短剣を回す。
その手並みは鮮やかで、レベッカの実力の高さを証明しているような気がした。
「レベッカさんのランクは……?」
「私はシルバー5ランクね。ブロンズから上がったばっかりだから、これからってとこかしら。でも、ま。私ならすぐに、クリスタルまで上がるわよ」
よほど自分に自信があるのだろう。
しかし
「どうして、マスターランクじゃないんだ? 」
さっき聞いた話じゃマスターランクが一番上っぽいが。
「え、いやー。マスターランクは人外っていうか。努力だけで到達できるか甚だ疑問なのよね。昔一度だけクエストでマスターランクが戦ってるのを見たことがあるけど、もうとにかくすんごくて、すんごいしか言えない」
化物みたいな奴らってことか。
出来ればそういうのとは出会いたくないな。
化物そのものである俺が言うのもなんだが。
「あの……パラサイトさん、私、冒険者になりたいです」
「いきなり、どうしたんだ? これから仕事を探さなくちゃいけないのは分かるが、別に冒険者じゃなくてもいいんじゃないか。もっと安全な仕事をしてくれた方が俺としても安心できるんだが……」
先程から、冒険者について質問していたから薄々そんなことじゃないかと予想していたが、まさか本当にアリサがこんなことを言い出すとは。
確かにレベッカみたいな女の子でも冒険者をしていると聞けば、アリサにもできるような気がしてくるが、こう見えてレベッカのステータスはかなり高そうだ。
亜人になったとはいえ、レベル上げもしていないアリサでは、レベッカに大きく劣っているだろう。
「力が、力が欲しいんです。さっきみたいに大人の人に襲われても、余裕を持って撃退できるような。大切なものを守るだけの力が欲しいんです」
「なら、冒険者ってのはオススメできるわよ。兵士になって騎士を目指すとか、そういう選択肢もあるけど、自力で生き抜く力ってのは間違いなく冒険者が一番つくわ。今なら私も力を貸してあげる」
「レベッカ!」
「なによ、女の子が自分で決めた道を進もうとしてるのよ。黙って頷くのが、男ってもんじゃないの」
「それとこれとは別だ。俺は冒険者について何も知らないし、出来れば普通の道を進んでもらいたい。危険があるなら尚更な」
「パラサイトさん……」
アリサがうるうるした目で必死に訴えかけてくる。
や、やめろ、そんな目で俺を見ないでくれ……。
「俺だって何も意地悪でこんなことを言ってるんじゃないんだ。ただアリサが心配で……」
「あーもう、頭かったいわねーじゃあこうしよ。とりあえず冒険者登録だけして、しばらくは簡単なクエストで様子見、アリサちゃんに見込みがありそうだったら本格的に仕事を続けていく。これでどう? 」
「いや、でもなぁ……」
「コウモリの癖に、いつまでもうじうじと……わかった! 私がアリサちゃんを一人前にしてあげるから。アンタはずっとここで待ってればいいわ」
「レベッカさん、出会ったばかりの私にそこまで……」
「いいのいいの、私は頑張る女の子味方だから。どこぞのコウモリとは違うのよ」
いつの間にか、俺が悪役にされている。
まぁでも反対はしてみてものの、本心からアリサがやりたいと思っていることに対して異を唱えるつもりはなかった。
宿主の望みを叶えるのもまた、寄生生物としての本懐。
仕方ない。ここは折れるしかないようだ。
俺はヤレヤレと首を振ると、レベッカに手を引かれていくアリサの肩に飛び乗った。
全然投稿スピード守れてねーじゃねーか。ほんまつっかえ。
本当にすいませんでした。(コイツ毎回謝ってんな)