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パラサイトワールド   作者: 猫の口
7/13

代償

「いやー思ったより高く売れたみたいだな」

ギルドから出て、俺たちは町中を歩いていた。

「マルベアはブロンズランクのモンスターなんですけど、ブロンズの中では強い方ですから、元々高いとは思います。でも、流石に銀貨5枚は……水蜜草を合わせても、だいぶお釣りが来ますね」

「ギルドのおっちゃんなかなか気さくでいいやつじゃないの。この世界の人間ってどんなもんかと思ったけど、やっぱり義理と人情だな」

「そうですね……」

答えたアリサだったが、何か釈然としない様子だ。

しきりに首を捻っては何かを考え込んでいる。

「何か気にかかることでもあるのか」

「いえ……気にしないでください」

そう言われると、余計に気になるものだが、あまり詮索して邪険にされるのも困る。

「さて、これからのことだが、とりあえず宿を探そう」

なのでここは話題を変えることにした。

「宿ですか、私は別に野宿でも」

「ダメダメ、女の子なんだから。俺がついたからには人間らしい生活を過ごしてもらう。まぁ最も、金策はアリサに任せる部分が多くなると思うけど」

「パラ・サイトさんには、もう返せないほどの恩を受けてますから。気にしないでください。むしろ私の方が返せるモノが何もないのに、こんな―――」

「あーストップストップ」

俺は、ヒートアップしそうになるアリサを止めた。

「もうそれはいいっこなしってことで、俺たちは運命共同体なわけだし、苦楽は分け合うってことで」

「わ、わかりました……」

まだ納得はできていないようだが、アリサは一応頷いてくれた。

俺と話す時のアリサはどうも堅い、なので少しばかりフランクにしてみたんだが、手応えはあまりよくないな。

「私はこの町に来てからはずっと野宿でしたから、宿に泊まるなんてどうしても贅沢なことのように思えてしまうんですよね」

「この町に来てからってことは、来る前はどうしてたんだ? 」

「それは……」

何気ない質問だったが、アリサにとってはそうでは無かったらしい。

何かを堪えるように唇を噛み締めると、顔を見られたくないというように俯いてしまった。

「あーいや、悪い忘れてくれ。デリカシーの無い質問だったな」

その時俺たちは、前から来る人影に気づいていなかった。

「きゃっ」「いってぇ!」

足早に歩く、二人組の男。その片方が、アリサに肩をぶつけてきたのだ。

「いででで゛で、肩が肩がぁ!」

「だ、大丈夫すか兄貴ィ!」

大袈裟に痛がり出した兄貴と呼ばれた男は、どう見てもチンピラといった風情で、肩を抑えてうずくまる姿は、大根役者もいいところ、もう一人の男も同様で、俺は目の前で繰り広げられる茶番に半ば感心してしまった。

(こういう奴は、どこの世界にもいるんだな)

「こ、こりゃ骨が折れちまってる。おいコラァ!クソガキ、この落とし前どうやってつけてくれんだぁ!?」

「落とし前って、貴方達から当たってきたんでしょう」

「なんだぁ、その態度は? こちとら、穏便に金で済まそうとしてやってんだぞ。痛い目見たくなけりゃ、銀貨5枚置いてってもらおうか」

最初からそのつもりだったのだろう。

それにしても、銀貨5枚とは。

こいつらは、冒険者ギルドからついてきていた奴らなのだろうか。

それとも―――。

「…………」

漂う暴力の気配の中、俺はアリサの様子がどこかおかしいことに気づいた。

怖いくらいに、静かなのだ。

もしかしたら、怯えているのかもしれない。とも思ったが、これは違う。

嵐の前の静けさのような、今にも爆発しそうな危うさがある。

「クズが…………」

ボソッと呟かれた言葉は、俺以外には誰にも聞こえていなかっただろう。

「あ、アリサさん……?」

これは、やばい。

アリサは今まで見たこともないような、冷たい表情で二人組を睨んでいた。

「って、てめぇ何睨んでやがる! どうやら少しわからせてやらねぇといけねぇみたいだな」

「貴方達! そこで何して―――」

一触即発の空気の中、第三者の声が響いて―――。

アリサが動いていた。

腰だめからの強烈な拳打が、先ほどから凄んでいたチンピラの弟分の溝内を抉り、浮くほどの衝撃を受けた

体は、ボロ雑巾のように吹っ飛ばされ、転がった。

「…………」

その場を沈黙が支配した。

アリサの瞳が、チンピラ兄貴分を捉える。

次はお前の番だと、その瞳は雄弁に語っていた。

「う、うわあああああ! 生きてるか!? くそってめぇら覚えてやがれ!」

生命の危機を感じたのか、呆然としていたチンピラは正気に戻り、弟分をひきずって逃げていく。

その姿が見えなくなるまで睨んだ後、アリサはふっと体の力が抜けたように座り込んでしまった。

「あはは、私お邪魔だったかしら…………」

そう言って苦笑しながら、歩いてきたのは、一人の女の子だった。

ブロンドの髪を二つに結び、切れ長の双眸は、淡いダークブルー。タンクトップのようなものを着ていて、皮のズボンにはベルトを巻き、そこには小さな腰袋がいくつかぶら下がっている。

「すいません、ちょっと腰が抜けちゃって……」

アリサはまだ起き上がれないようで、肩で息をしている。

さっきのは火事場の馬鹿力みたいなものだろう。

亜人になってからの力を制御出来ていないせいだ。

「それなら、せっかくだし。休めるところに行かない?」

女の子はそう言うと、アリサの手を引いて立ち上がらせた。






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