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パラサイトワールド   作者: 猫の口
4/13

4

(まずい……)

分体を呼び寄せ、少女に治療を施すように指示を出すと同時に、俺はスキルポイントを消費し、『進化』と『共有』を取得した。

これは出来れば取るのを後回しにしたかった。

大量のポイントと経験値を消費する感覚に体から力が抜けそうになる。

経験値は全てダガーウルフに流れ、そして変化が起こった。

体躯が、2回り以上大きくなり、全てのステータスが著しい上昇を開始する。

種族『ソードウルフ』 レベル『12』スキル『暗視』『聴力強化』『健脚』『切り裂く』『頭突き』『筋力強化』etc……。

恐れていた事が起こった。

種族名が変わるほどの大きな進化、これほどの成長を遂げればリスクが増えるのはまず間違いない。

力を持てば持つほど、世界はそれを放っておかない。

スキルポイントを保持したまま、新しく手を出さなかったのは、いらぬ危険を避けるための意味合いが強かった。

しかし―――。

(俺もまだ人間だったということか)

「ガアアアアアァ!!」

勝ち目が無かったのは、もはや過去の話だ。

今や戦いは互角、いやそれ以上。

ソードウルフの名に恥じない。威容、脚力、膂力で大熊を圧倒する。

そして、共有によるスキルの共有によって、俺が寄生してきた生物のスキルを全て使用可能にする。

これによってソードウルフの強さはレベルだけでは計り知れないほどの力を持つ存在になっていた。

ソードの名を冠する爪を振るえば、容易く相手を切り裂き。

白銀に煌く毛皮の下に隠れる重厚な筋肉が、敵の攻撃を通さない。

決着がつくのに時間はかからなかった。

先ほどまでの苦戦は嘘のように、大熊の首を切り飛ばし、俺は大急ぎで少女に駆け寄った。

ソードウルフに分体を残し、少女に乗り移る。

(これはひどい……)

分体に治療させていたが、助かる見込みはほぼないと言ってよかった。

傷が深いのはもちろんだが、栄養失調のせいで免疫力の低下が激しく、彼女自身の生きる力がほぼないと言っていい。

逃れられない死という現実。

それを前に俺の中にある選択が生まれた。

力を持つものは、世界に放って置かれない。

そして、自分が放っておけないのだ。


私は、人間が平等ではないことを知っている。

生まれた時から、不平等。

親もいない。

魔法の才能もない。

剣の才能もない。

どんくさくて不器用で―――。

でも、それでも。

諦めきれなくて、入った森の中。

そこで私は―――。


「目を覚ましたか」

パチパチと爆ぜる焚き火の傍で、串焼きの魚が数匹、うさぎの丸焼きが1羽、香ばしい匂いを漂わせていた。

「えっと……なにがどうなって……」

起きたばかりで、現状が認識できていないのだろう。

「とりあえず、腹が減っただろう。ちょうどいい頃合だ。食べながらでも話そう」

と言ったものの、彼女の視線は飯に釘付けで、まともにこちらの話を聞いているのか怪しいところだ。

「これ、私が食べていいんですか」

「そのために用意したものだからね」

「本当に? 後ですごい代金払えとか言わない?」

「疑り深いな。君が食べないなら私が食べてしまうよ」

「い、いえいえ食べさせて頂きます! いえ、食べさせてください!」

といいながら、彼女は既に魚にかぶりついていた。

「お、おいしいれす……」

程よく焼きあがったリル・サーモンは、皮はカリカリ中はボリュームたっぷりで、空きっ腹にさぞかし響くだろう。

少女は涙をボロボロ流しながら、おいしいおいしいとどんどん平らげていく。

「そのホーンラビットの丸焼きも食べてみるといい。俺の力作でね。こっちに来てから料理などしたことはなかったんだが、初めて人に食べさせるということもあって、つい気合を入れて作ってしまった」

「それじゃ頂きます!」

少女はうさぎが吊り下げられた棒をむんずと掴むと、肉汁溢れるうさぎ肉にそのままかじりついた。

「お、おいひぃ~!!」

少女の感嘆の声に思わず、心の中でガッツポーズを取る。

「こ、これなんなんですか!うさぎ肉ってもっと臭くて、こんなにおいしくないのに!」

「よくぞ、聞いてくれた。ソルト・プラントという塩分を含む植物があってね。それをベースに味付けして、数種類の香草で肉の臭みを消しているんだ。元々、そのホーンラビットは、香草を食べていたのもあって、臭みが薄かったというのもあるけどね」

俺が人間だったらさぞかし、いいドヤ顔をしていただろう。

料理は人の心を豊かにする。

その証拠に、死にかけのリル・サーモンみたいな目をしていた彼女は、いまやうさぎを追いかけるダガーウルフみたいに活き活きとしているではないか。

うさぎの丸焼きを、あっという間に腹の中に収め、少女は満足そうに腹をさすった。

そこでやっと余裕ができたのだろう。

違和感に気づいた。

「ところで……私はさっきから誰とお話してるんでしょうか……」

ゆっくりと辺りを見回すが、少女の周囲には誰もいない。

それもそのはず。

俺は彼女の中に寄生しているからだ。

「俺は君の中にいる」

「わ、私の中に!? 」

「そうだ、正確に言うと君の脳の中にいる」

「脳の中……もしかして私、死んじゃうんですか」

「これから死に逝く相手に、ご馳走を振舞うと思うか? 」

「ハッ!も、もしかしてアナタは神様!? 脳の中っていうのも、神のお告げ的な何かですか」

「いや物理的に中にいる」

「やっぱり私死んじゃうんだ……」

「諦めるのはやいな」

「だって私、今まで生きてきて良かったことって、ほとんどないんですもん……。このおいしい料理食べられただけで、もう十分かなって」

よほどひどい暮らしをしてきたのだろう。

えへへと笑う姿には、涙を禁じえない。

「なるほど確かに、君は今まで不幸のどん底にいたかもしれない。そして、そんな君に一つ重大なことを告げなければならない」

「え、な、なんでしょうか。もしかしてやっぱり代金払えとか……」

「君は、もはや人間ではなくなった」


前回から間隔が空いてしまって、申し訳ありませんでした。

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