7.0
罪の多い人生を歩んできました。
私はアラド帝国の下級貴族の次女として生を受け、厳格な父と和やかな母、才気溢れる姉に囲まれ不自由のない生活を送っていました。
私は父と姉と同じ道を選び、帝国の士官学校に通い始めました。
自慢ではないですが、優れた姉ほどではないにしろ、私は優秀な生徒だったと思います。
座学、実技共に、学年では上位の成績を収め、姉と同じエリートとして輝かしい未来へと進むと当時の私は思っていたのです。
風向きが変わったのは、父の不正が発覚してからです。
もちろん、父が不正を働いたなど、私は毛ほども思ってはいません。
父は敵対派閥に嵌められたのです。
お家取り潰しは免れたものの、以前の栄光は見る影もなく、姉は僻地へと飛ばされ、私も特殊工作員の一人として、使いつぶしの捨て駒になりました。
それでも、私はうまくやっていたと思います。
次々と上から出される無理難題にも応え、部下からの信頼を勝ち取り、もしかしたら功績が認められて、表舞台に戻ることも夢ではないかもしれないと、裏の汚い仕事に手を染めながらも、夢を見たものです。
そんな私を嘲笑うかのように------
私の目の前に現れたソレは。
全てを蹂躙していたったのです。
なんかとんでもなく悪いことをしたな。
女軍人に寄生し終えた俺は、彼女の頭から記憶の一部を読み取っていたのだが、なんとも言えない気持ちになる。
「いや、俺が言えた義理じゃないが、元気だして? 」
気持ち明るめに声をかけるが、俺が寄生した軍人たちはみな一様に目が死んでいて、絶望と恐怖の嗚咽を漏らしながら、自分達の父母に今生の別れを告げたり、信仰する神に怨嗟の声を投げかけたりしている。
「殺して……殺して……」
俺の分身たちが封じている為に、自死を選ぶことすらできない為、自らの死を望む声が後を絶たない。
俺は自分がさながら、無限の地獄に人々を叩き落とす閻魔にでもなったかのような心地を味わったが、考えて見れば被害者はこっちで、彼女らは加害者である。
俺は自衛の為に戦って、その結果寄生しただけなのだ。
とはいえ彼女達も社会の歯車の一つとして逆らえない上からの命令の犠牲者。
生前の我が身を思えば、十分情状酌量の余地があるわけで、サラリーマンってつれぇよなぁ。
「まぁまぁまぁ、ここは一つ落ち着いて俺と対話しよう。君たちはまだ死んだわけじゃないんだ。生きてさえいれば、いい事もある。俺は悪い寄生虫じゃないこれだけは、はっきりと真実を伝えたかった」
触手を上下させてなだめてみるが、逆効果だったようで女軍人は目尻を釣り上げた。
「寄生虫に良いも悪いもあるか! 汚らわしい、魔物が。私たちをど、どうするつもりなのだ」
魔物、魔物か。
そういえば俺は魔物なのだろうか。
自分の種族については考えたことがなかったが、そもそも魔物ってどこからどこまでが魔物なのかがわからない。
ソードウルフは恐らくだけど、魔物だよな。
俺はなんなんだろう。魔物なんだろうか。
まぁ見た目と能力からして、明らかに魔に属するモノだよな。
「どうするか、どうしようかな。まだ考えてないんだが、今後のことについて一緒に考えてくれないかな。もちろん、悪いようにはしないよ。俺はいい寄生虫なんだ。宿主を蔑ろにするロイコクロリディウム君や、マラリア原虫君たちとは違うのだよ。俺が目指すのはWINWINな関係を築くこと。宿主と寄生虫の共存共栄! 素晴らしいと思わないかね」
「それは寄生虫からの目線だわ。私たちからしたら寄生されないに越したことはないのだもの」
「そうかもしれないが、君たちの体にだって目に見えないほどの菌などの生物が共生しているだろう。悪さをするのもいるが、体の良いことをするものもいるじゃないか。俺もそういったモノの一つと捉えてもらえればだな」
「生理的に無理」
それを言われたどうしようもないよね。
まぁ女軍人さんには、殊更恐怖を煽るような演出をしたせいなのもあるだろうけど。
最初から言葉だけで、わかってもらえるとは思ってない。
誠意は行動で、示さなければならないだろう。
俺が寄生していることのメリットを体験してもらえば、きっと心変わりしてくれる。
「どうやら今すぐ分かり合うのは難しいらしい。君たちはもう帰っていいよ」
俺があっさりとそう言うと、女軍人が到底信じられないといった様子で疑問を口にした。
「私達を殺さないの」
「だーかーらー。俺は共生を望むタイプなの。国に帰って普段通りに過ごしてもらえれば分かると思うけど、俺に寄生されたことによるメリットは多岐に及ぶよ。特に戦闘を生業とする君たち軍人にはとっても有用なことがいっぱいある。そいつを実感してもらってからもう一度冷静に話し合おうじゃないか」
「貴方が、私たちを洗脳したりということは……? 」
「君たちが俺は体から消そうとしたり、自死しようとすることは俺の方から禁止してる。もちろん俺のことを誰かに話そうとすることもね。それを洗脳というのなら、洗脳ではある。ただし誤解しないで欲しいが、今こうしている間にも、俺は君たちの自我を崩壊させて、まっさらにしてから新しい人格を植え付けることだってできるんだ。それをこうして、ちゃんと生かしてる。俺を一方的に害そうとした君たちを生かしているという点だけを見ても、俺の誠意って奴を理解してもらえると思うんだが? 」
恐怖から立ち直りだしたのか、頭が回り始めた様子の女軍人は、俺の言葉を聞いて押し黙った。
少なくとも今すぐ俺が彼女らをどうこうしようという気がないのはわかってもらえたはずだ。
「それじゃあ君たち、ここで解散ね。速やかに本国へ帰還すること」
俺はそう言って、さっさとその場を立ち去った。
「ただいまー」
初の人間との戦闘ということもあってか、体力的には問題ないものの、精神的に疲れた俺は、サラリーマン時代のように心底疲れたといった体で、レベッカの部屋まで戻ってきた。
「パラサイトさん! 」
触手で扉を開けると、アリサが弾丸のようにすっ飛んできて、コウモリ形態に戻った俺は支えきれずに押し倒される。
「本当に、本当に心配したんでずがら゛ どこにも怪我はないですか!? 」
涙や、その他もろもろの液体でぐちゃくぢゃにした顔を擦りつけてくるもんだから、俺の体はあっという間にべとべとになる。
「悪かった、でも俺があれくらいで死ぬわけないだろう」
「理屈では分かってても心配なものは心配なんです! 」
そうか、と言ったきり俺は黙った。
自分よりもひと回りもふた回りも歳が離れた彼女に、こうして抱かれていると、不思議な安心感がある。
しばらく、彼女をあやした後に、俺はもう一人の姿がないことに気づいた。
「レベッカはどこに行ったんだ? 」
「レベッカさんなら、宿屋についた後にパラサイトさんの様子を見に行くと行ってから…………そういえば、まだ戻ってきていませんね」
アリサが可愛らしく首を傾げるのを横目に、俺は心の内で頭を抱えた。
俺はあれから一直線にここまで戻ってきたが、その途中でレベッカらしい気配はなかった。
レベッカに俺とアラド帝国軍人達のやり取りを遠目から見ていた可能性がある。
会話が聞こえるほど近くに来ていたとは思えないが、それもレベッカの能力次第だ。
どちらにしても、あの姿を見られていたとしたら------。
「帝国の軍人達は追い返しといたから、大丈夫だとは思う。それよりも、疲れただろう。今日は早く寝てしまおう」
内心の動揺を悟られないようにしながら、アリサを寝しつけ、俺はこれからどうするか方針を固めることにした。
深夜、足音を忍ばせて部屋に入る気配に気づいた俺は、浅い眠りから覚めた。
泣きつかれたアリサは、ぐっすり寝入っていて起きる気配はない。
「パラサイト、話がある」
それは小さな声だったが、内に秘める意志の強さを感じさせるものだった。
有無を言わせない。強い意志だ。
下手に突けば、破裂する緊張をはらんでいる。
俺はゆっくりとアリサの腕から抜け出し、レベッカの後について行った。




