二話 いちばんめのにっき
二月六日
ようちえんのせんせいが、じをかいたらいいっていってた。
ワタシも、じをかく。
となりのいえのおにいちゃんにもらったこのノートを、にっきにする。
二月十一日
おとうさんがかえってこなかった。
そしたら、おかあさんがおにみたいなかおで、おとうさんのへやをぐちゃぐちゃにしていた。
「うわきしてるの?」っていってた。
「うわき」って、なんだろう。おにいちゃんにきいてみよう。
三月四日
おにいちゃんも、にっきつけてるっていってた。うれしかった。
ワタシは、きょう、こうえんにいった。こうえんには、いつもみたいにおにいちゃんがいた。
わらってた。おもそうなバックをあしのうえにのっけて、ブランコにすわってた。ワタシもブランコにのった。
あと、おにいちゃんとひみつのアソビをした。
おかあさんとおとうさんにはナイショって、おにいちゃんがいってた。
たのしかった。
四月一日
おとうさんとおかあさんのなかがよかった。こわくないねって、すごいよろこんじゃった。
おとうさんとおかあさんさ、いっしょにあそぶやくそくだったんだって。
けど、おとうさんやくそくやぶって、かえってこなかった。おかあさんおこった。
こわーいかおで、ワタシのことをなぐった。
おとうさんのうそつき。おとうさんのせいだから。
四月七日
にゅうがくおめでとうって、おにいちゃんがいってくれた。
ワタシ、しょうがくせいになったって。すごいことなんだって。おにいちゃんがほめてくれるなら、なんかいでもしょうがくせいになりたいなぁ。
おにいちゃんが、やさしくわらっておかしをくれた。おいしかった。おにいちゃん、だいすき。
五月五日
かん字をかけるようになった。
お兄ちゃんのなまえをかん字でかいたら、お兄ちゃん、すごいよろこんでくれた。さすがだね、あたまいいねって。
わしゃわしゃーって、ワタシのあたまをなでてわらってた。お兄ちゃんがかいてないのに、ワタシがかいたのに、たくさんよろこんでくれた。
お兄ちゃんがわらうと、ワタシもうれしくなった。
お兄ちゃんが、ワタシのお兄ちゃんだったらよかったのに。
五月二十日
お兄ちゃんにバレちゃった。
お兄ちゃん、あざだらけで青くなったワタシのおなか見て、かなしそうなかおしてた。男の子なのにぽろぽろないてた。
つらかったね。いたかったね。って、ないてた。
どうしてなくの?もう、つらくもいたくもないのに、お兄ちゃんはきずがないのに。
でもね、お兄ちゃんのなみだ見てたら、きゅうになみだがでてきた。お兄ちゃんといっしょにないてた。
やさしい、お兄ちゃん。お兄ちゃんだけがやさしい。おかあさんもおとうさんもやさしくない。お兄ちゃんしかやさしくない。お兄ちゃん、だいすき。
五月二十一日
お兄ちゃんが、ワタシにバンソウコウって布をかってきてくれた。
かわいいネコのバンソウコウ。
これでいたくても、ぼくをおもいだしてねって、いってた。
うれしくってないたら、お兄ちゃんもないてた。へんなの、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、ワタシのお兄ちゃんじゃないのに。
ためしにきょうできたばかりの、おなかのアザにはってみた。
いたくなくなった。お兄ちゃんはまほうつかいだ! ワタシもお兄ちゃんみたいなやさしいまほうつかいになりたいな。
六月一日
いたい、いたい、いたい、いたい、いたいよお兄ちゃん。たすけてお兄ちゃん。
おとうさんがワタシに××したの。いまもいたいよ、きたない、いたい。こわいの。
こわい。おとうさんがこわい。いっしょにいたくない。いやなことされる。にげたいのににげれないの、たすけて。
アレならなぐられたほうがまだ、いい。もう、いやだよ、お兄ちゃん。
たすけて、お兄ちゃん。ワタシ、おとうさんとおかあさんに殺される。
しにたくないよ。しねないよ。しぬなら、お兄ちゃんにころされたい。お兄ちゃんといっしょにしにたい。
七月七日
お外にでようとしたら、おとうさんがおこった。
おさけくさかった。こわかった。
ぎゅって、ワタシのてをつかんでどなった。ワタシ、こわくてこわくてないちゃった。そしたら、たくさんなぐられたから、何も言わないようにした。
また、おとうさんが××してきた。
まえみたいにおかあさんがいないときに。いたかった。おとうさんは、わらってた。おとうさんはワタシとちがっていたくないみたい。ずるい。
さけんでも、だれもたすけてくれなかった。
きたないな、ワタシ。
お兄ちゃんにあいたいけど、あいたくない。あったらキモチワルイっていわれちゃう。
お兄ちゃんだけにはきらわれたくないの。
七月十三日
おかあさんがおとうさんをおこってた。
なんで、なんでってきいてる。たくさんワタシのなまえがとんでた。どうしてか分からなくて、こわくて、わたしはふとんの中でふるえてた。
そしたら、しばらくして大きなおとがきこえて、ワタシ、あわてておとのところへいった。
赤かった。まっか。トマトをつぶしたみたいな赤の中でおかあさんはてんじょうを見て、とまってた。
まったくうごいてない。こわくなった。なんで、うごかないのかな。お人ぎょうみたいだよ。
おとうさんはわらってた。ワタシのことを見て、大きな口あけてわらってた。たべられるかとおもったけど、おとうさんはくるったみたいにずーっとわらってた。
八月九日
お兄ちゃん、ワタシねわるい人にかったんだ。わるい人はいっぱい赤いのを出してた。はじめて、がんばったんだよ。ほめてくれるかな?
ワタシ、かたづけがにがてだから、そのままおいてきちゃった。っていったら、お兄ちゃんないてたね。
お兄ちゃんはなき虫だ。ボロボロ、ないて、ワタシの手をひいてくれた。どこに連れてってくれるのかな?
今日からワタシはお兄ちゃんと、ずっとずっと、いっしょにいられる。
やったね。わるい人をたおしたごほうびかな?
八月十日
おきたら、お兄ちゃんが横にいてうれしかった。
おかあさんもおとうさんも、わるい人もだれもいない。お兄ちゃんはえがおで、あさごはんをつくってくれる。
おいしかった、たまごかけごはん。たべたことなかったけど、一ばんすきなごはんになった。
きょうは一日じゅう、お兄ちゃんとはなしした。たのしかった。お兄ちゃんとたくさんあそんだ。
たのしすぎて、しんじゃったのかとおもった。
よかった、生きてた。
八月十一日
きょうはお外であそびたいっていったら、お兄ちゃんおこっちゃった。
お外はこわいから、あぶないからダメだよって。外に出たら、ぼくとはなれることになるよって。
お兄ちゃんがおこったのなんてはじめて見たから、こわくてないたらお兄ちゃんもないちゃった。
ごめんなさい。お兄ちゃん。なかせたいんじゃないの。おこらせたいんじゃないの。もう、にどとお外にいきたいなんていわないから、ゆるして。
あと、きょうは、お兄ちゃんといっしょにお絵かきをした。
お兄ちゃんは大きなお花をかいてた。ワタシ、だって。
ワタシ、お花じゃないのにってわらったら、お兄ちゃんがゆいかちゃんだからだよっていってた。
そっか、ワタシのおなまえに花が入ってるからね。
ーー以下、破れていて読解不可能。表紙に一番と書かれている事から、二番、三番と続く様に思われる。