プロローグ
R15は保険です。エロもグロもほぼほぼないです。
お兄ちゃんは優しい人なの。
ワタシの頭をなでてくれるし、お菓子をお腹一杯くれるし、何より暴力をふるわない。
メガネの奥の丸い目はたまに何かにおびえてるようにくもることはあるけど、ワタシにはずうっと優しく接してくれる。
お兄ちゃんは毎日お外のことを教えてくれたり、勉強を教えてくれるし、かっこいい人だからいつもワタシの側にいてくれた。
難しい算数もお兄ちゃんが教えてくれたら、すぐに分かった。すごいんだ、お兄ちゃんは。
ワタシはお兄ちゃんが大好き。
お兄ちゃんにずっと一緒にいたいって言ったらお兄ちゃんは、悲しそうな顔で、そうだなって笑った。
アレの意味はまだ子どものワタシには分からないけど、ワタシもお兄ちゃんにつられて笑った。うれしかった、知らなかった。こんな気持ちを教えてくれたお兄ちゃんもこんな気持ちを持ってくれたら良いな。
ずっとずっとこのまま二人っきりでいれたら良いのにね。
毎日、毎日同じ景色に同じ空気に同じ食べ物。でも、イヤじゃないの。お兄ちゃんが側にいてくれるから。
お兄ちゃんが笑えばワタシも笑う。
お兄ちゃんが泣けばワタシも泣く。
お兄ちゃんが死ねばワタシも死ぬ。
あの空間ではお兄ちゃんが全てで、お兄ちゃんが絶対だった。いや、今もそう。お兄ちゃんが教えてくれたことを懸命に思い出して実行している。
お兄ちゃんがいなければワタシは生きる意味がない。
離された今だからこそ、そう思う。
あの、短い五年間がワタシの人生の中で最も輝いていて、人の温かみがあった。
「お兄ちゃん……側にいてよ」
もう、お兄ちゃんはいない。ワタシを見て笑ってくれない。遠い場所に行ってしまったんだって、知らないおじさんが言ってた。
大丈夫って、知らないおじさんに言われても信じられるはずないでしょ。ワタシはアンタ達とじゃなくて、お兄ちゃんと一緒にいたいの。分かってよ。
お兄ちゃんがいなければ、ワタシは、ワタシじゃなくなるのに、大丈夫じゃないのに。ねえ、嗚呼、助けて。
「あれ?」
ワタシは何で泣いてるの?
ワタシは何で悲しんでるの?
何か、凄いショックがあったみたいに。思い出せないや。どうしてだろう。この激しい胸の痛みはどこから来てるのだろう。そして、ワタシの頭を支配するーー
「お兄ちゃんって、誰?」