表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよならのかわりに  作者: 夢羽
3/9

ホワイトアンニュイ

 霧でくもった世界に、空は太陽も出ずただただ雲に覆われて、白いタイルの道とつながっているように見えた。今なら、歩いて雲の上まで行けるだろうか。雲の上までの道があるだろうか。白く、朧気な薄い道。霧の道。雲の道。願いがひとつ叶うなら、雲の上まで行きたい。それくらいの願いなら、神は叶えてくれるだろうか。

 空を仰ぎ、それから私は目をこすった。ポラクス海岸の石畳の階段に腰を落ち着かせる。波が荒くてちらちらと白が見えるから。また白か、なんて思った。白は彼女を思い出す色だ。波の音に胸は騒ぎ、波の高さに背中を押されるような感覚を感じ、ふらふらと歩き出す。私の眼には霧でも空でも、雲でも波でもなく、彼女の姿がうつっていた。

「ボス!? そっちは海ですよ!」

 ぐいっと引っ張られた私の腕は、いとも容易く後方へ下がる。白から黒へ色が変わった。部下のカポレジーム、ダニエルが私の目をまっすぐ見据えていた。青く透き通った瞳で。アクア色のそれはフォリナ家の誇りと秩序を背負っていた。

「あぁ、すまない。少し、考え事をしていたんだ」

「そうですか、気をつけてくださいね」

 あまりにも真摯に私を引き留めるから、私は少し嬉しくなって笑ってしまった。こういう感情こそが、仕事に支障をきたすもとなのに。私は人に愛される喜びを、温かさを、幸福を知ってしまった。知ってしまった感情は、忘れられない。もう、この感情を捨てることはできない。

 彼は前に手を差しだし、前へと促した。私はすすめられた道を歩く。すれ違う時、ダニエルのネクタイにつけられたきらりと光るピンに目がいった。シンプルなシルバーのピンにはゴールドのダイヤの模様が印されていた。

「そのネクタイピン、ジェシカからの贈り物か?」

「え、はい。先日なにもない日に急にプレゼントされたんです」

「そうか、よかったな」

 ダニエルは複雑な顔をしていた。妹からのプレゼントを素直に喜んでいいのか微妙なようだ。彼とその妹は年頃だ。ぎこちない関係が少し羨ましい。大切な人の傍にいられる幸せは唯一無二だ。

 部下たちに指示を与えて、私はまた一人になる。ふと空を見上げると霧は少しずつだがはれて、雲の量も減っていた。雲の切れ目から太陽が顔を出し、きらきらと日が差す。太陽の光の向こうに彼女が居る気がした。

「そうか、君はそんなところにいたんだね」

 私のアンニュイな想いはいつの間にか消えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ