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武装少女と吸血鬼  作者: 黒いの
2 吸血鬼は首を落とせば息絶えるか
15/51

5 作戦会議は周到に

「第一回・切り裂き魔討伐作戦会議を始めます!」

 涼子は堂々と開会を宣言する。議長は涼子、書記も涼子。参加者は涼子と白銀の二名という、小規模すぎる会議だ。ツッコミを入れると、「少数精鋭と言いなさい」と涼子は口を尖らせた。

「昨日までに話を聞いた五人の被害は、髪を切られたのが三件と、肩を切られたのが一件」

 毛倡妓・黒木梓を筆頭として、喫茶店の葛、洋菓子店の栞奈、和菓子屋の鈴の四人が髪を切られ、花屋の花江は肩を切られた。

「ここにさらに、今日話を聞いた二人の情報を追加……本屋の文さん、薬局の望さんも、髪を切られた」

「髪を切られる被害が明らかに多いな」

「その通りよ。ここまで来ると、切り裂き魔の目的は髪を切ることにあるとみて間違いないわね」

「花屋の娘は、髪を切ろうとして失敗したってことだろうな。だが、なぜそこまで執拗に髪を切ることにこだわる? ロングヘアの女性に多大な恨みでもあるのか」

「まあ、昔ロングヘアの女性にこっぴどく振られたブサ男がその女に似た髪の長い女を見て昔の女を重ねえもいわれぬ衝動に突き動かされ凶行に走ってしまった説も、考えられなくはないわ」

 けど、と続けて、涼子はにやりと笑う。

「たぶん、犯人の狙いは、髪を切ることで女性にショックを与えることじゃないわ。私、もしやと思って梓さんに確認を取ったの」

「何を」

「切られた髪はどこにいったのか」

「あぁ」

 涼子が何を考えているのか、白銀はようやく理解した。切られただけなら、髪はその場に落ちている。だが、髪はどこにも残っていなかったのだ。つまり犯人は、髪を切って、回収した。

「つまり、犯人の目的は、髪を手に入れることか。髪ならなんでもいいから、適当に目についた女の髪を切った。被害者たちに恨みがあったわけじゃないから、被害者に共通点らしいものが見つからなかったのか」

「おそらく」

「だが、髪を手に入れる理由はなんだ? 怪しげな儀式に使うのか? 丑の刻参りでもするのか?」

「呪詛に使いたいだけなら、ばっさり持ってく必要はないでしょ。なんか、髪が大量に欲しくなる理由があるんでしょ。そういう怪しい衝動を持った妖怪に心当たりはないの」

「そういう知り合いがいるわけじゃないが……そういうことをしそうな種族に心当たりはある。髪切りだ」

「髪切り? なにそのまんますぎる妖怪は」

「まんまだ。気づかれないように近づいて髪を切る。それだけ」

「はあ……無害なような有害なような」

「だいたい髪切り連中は、妖怪と人間が堂々と共生するようになってからはさすがに表だって事件は起こせないから、無難に美容師になってく奴が多いんだがな」

「ああ、成程。合理的」

「そういう奴は、合法的に髪を切って満足してるから、事件は滅多に起こさないんだがな」

「でもねえ、最近は美容院は競争率激しいから。コンビニよりも乱立してるって話よ。油断してるとすぐ潰れる」

「ってことは、最近職を失った美容師が容疑者?」

「その線でいってみましょ」

 涼子は調査の方針を決定し、即座に動き出した。女子特有の情報ネットワークを駆使して、彩華町の美容院の情報をかき集める。梓たちが被害に遭った場所は、彩華駅からさほど離れていない範囲内だ。おそらく、犯人の主な行動範囲が駅周辺なのだろう。だとすれば、駅周辺で最近潰れた美容院が怪しい――そう考えたらしい涼子は、少し前に知り合って仲良くなった人魚の漁から早速有力な情報を掴んだ。

「漁さんが行きつけてた美容院、先月潰れたそうよ」

「だが、それだけで犯人とは決めつけられないだろう」

「勿論よ。だから、証拠を掴むために、一つ作戦があります」

 涼子は自信満々にそう言う。今にもにやにや笑いだしそうになるのをこらえている顔だ。こういう顔をするときは、犯人を陥れてやりたくて仕方がないと思っているに違いないと、白銀は経験から知っている。これからひどい目に遭うであろう犯人に一抹の同情を示しながら、白銀は作戦とやらの詳細を聞く。

「犯人かどうかの確証を掴むっていったら、囮作戦しかないでしょ!」

「囮?」

「そう。大丈夫、結構綺麗な髪してるし、ちゃんとお化粧して服を変えて胸に詰め物すれば、麗しロングヘアの女性に見えるから」

「待て待て待て」

 途中からおかしな具合になったので、白銀はたまらずストップをかける。

「それはもしかして、俺が囮になる話をしてるのか?」

「他に誰がやるの」

「お前がやれよ! なんで正真正銘の女がいるのに俺が女装しなきゃならないんだ。お前、俺に恥ずかしい格好をさせて嘲笑いたいだけだろ」

「エッ! そ、そんなことないわよ」

 完全に図星のようで、涼子はわざとらしく目を逸らす。

「だ、だってぇ、髪は女の命よ? それを、切られると解っていて囮になるなんて……あなたは別にいいでしょ、きざったらしく髪伸ばしてるけど、そんなにこだわりがあるわけじゃなさそうだし」

「あるかもしれないだろ、こだわり」

「何のこだわりよ」

「それは……願掛けとか?」

 涼子が途端に胡乱な目をする。白銀のとってつけたような言い訳にはまるで取り合うつもりはなさそうだ。確かに、別に願掛けなどしていない。

「犯人確保のためよ、多少の恥は我慢しなさいよ」

「い・や・だ! ただでさえ似てるのに女の格好なんかしたら……」

「え? 何?」

「いや、なんでも」

 ぼそりと呟いた言葉に涼子は怪訝そうに首をかしげるが、適当に誤魔化すとそれ以上追及しようとはしなかった。涼子は小さく溜息をついて肩を竦める。

「まあ、無理強いするのもよくないか。ほんとは、恥ずかしがりながらスカートの裾を押さえて顔を真っ赤にして身悶えている銀を舐めまわすように観察するのも一興かと思ったんだけど」

「嗜虐趣味全開じゃねえか。なにが犯人確保のためだ」

「仕方がない、私が一肌脱ぎますか!」

 やる気満々に腕まくりをする涼子。ほんとに大丈夫かよ、と白銀は内心では割と不安であった。


★★★


「さて、白刀。作戦のおさらいだ。よく聞いておけ」

 散らかりまくった小汚い部屋に戻って、ジャックは白刀に向かってそう言った。そして、新たに撮影した二枚の写真をテーブルの上に並べる。

「奴らの情報を整理しよう。まずは、こっち」

 ジャックが指すのは、銀色の髪と赤い瞳を持つ青年。隠し撮りしたものなので、当然カメラ目線ではない。

「吸血鬼の男、本名不詳。通称は『白銀』。妖怪相手にトラブルシューターをやっている変わり者。一之瀬家に住んでいる」

 それから、指をスライドさせて、黒髪の少女の写真を差す。

「で、こっちがその家の主、一之瀬涼子。年齢は十七、八歳くらいらしいが、学校に通っている形跡はない。白銀と一緒に妖怪の問題を解決している、助手みたいなものだ。吸血鬼と同棲して妖怪相手に仕事している、これまた変わり者」

「変人コンビってわけ」

「片方は人間じゃないがな」

「言葉の綾だよ」

 白刀は膝を抱えて座って、じっと写真の二人を見比べている。

「厄介な話だが、こいつらは二人とも、強い。妖怪絡みの仕事をしているだけあってな。吸血鬼の方は言うまでもないが、人間のくせに一之瀬涼子は当たり前のように武器を持ち歩いている危険人物だ。まったく、面倒な二人組だ」

「どうするの」

「二人一緒にいると、面倒だ。依頼人に頼まれたのは片方だけ。無理して二人殺すことはない。避けられる戦いは避けるべきだ」

「二人分のお金がもらえるって張り切ってたくせに」

「最初はそう思ってたが、調べた結果そいつは少々面倒だと判断したんだ。金に目がくらんで無謀な勝負を挑むのは三流だ。プロは引き際を弁える」

「じゃあ……」

「まずは二人を引き離す。いいか、白刀。お前はまず、邪魔者を引き離し、監禁しておくんだ。それが終わったら俺のところに戻ってこい。ターゲットを片付ける」

「監禁ったって……一人でも厄介な奴なんだろ? そんな簡単に言われても」

「簡単だろう。なにせ、妖怪相手に仕事している奴だ。なにか困ってるふりして、依頼人を装ってどこかへ呼び出せ。そして、隙をついて気絶させて、どこかに放り込んでおけばいい。相手がただの依頼人だと思って油断しているときなら、お前一人でもいけるはずだ。二人いると警戒されるから、お前一人でやるんだ」

「ジャックは見るからに胡散臭い顔だものね」

 白刀の軽口は無視して、ジャックは写真を回収して懐に仕舞う。

「決行は?」

「なんだ、昼間はぐちぐち言ってたくせに、乗り気だな?」

 ジャックがにやにやしながら言うと、白刀は不機嫌そうにそっぽをむく。

「乗り気なわけじゃない。でも、どうせ僕が何を言ったってジャックは斬るんだろ」

「無論だ」

「だったら、無関係な方を傷つけないで済むなら、それが最善だろ」

「はっ、道具のくせに同情か? まあ、いいが。……決行は明日、月曜だ」

「了解……」

 そう呟くと、白刀は静かにクローゼットを開けて、中に引っ込んだ。狭い部屋では、白刀が休む場所はクローゼットの中と決まっている。窮屈なことだが、なにせ白刀は道具である。ジャックがその待遇を申し訳なく思うようなことは、当然ない。

「明日……その首を落としてやるぜ……」

 ジャックはその様を想像し、舌なめずりをする。

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