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歌姫は40歳  作者: 甘味園
4/9

その一 ハードロックは辛くない?(4)

「オフクロって言わなきゃ、あんたは私の年下彼氏に見えるんだから。」

と古臭い喫茶店にはいったあけみは椅子に座りながら言った。

息子太郎は真顔で

「いや、見えないと思う。」

「なら、なにに見えるっていうのよ?」

あけみはイライラしてきた。

「息子。隠さなくたっていいでしょう。」

「だめなの!イメージってあるんだから!」

「そりゃね、オフクロがもう少し若ければイメージ気にしたほうがいいと思うけど、40にもなったらもういいんじゃないの?」

全く本当ににくたらしい奴。

と思いながら、あけみはため息をついた。


とっさに太郎をひっぱって喫茶店にはいってしまったけれど

ふたりで特にやることもないし...。

話題もないし。

あけみは昼間はテレフォンオペレーターをして働いてるし

夜はスタジオにいることが多い。

大学生になったばかりの太郎もコンビニでバイト始めたし、

やっぱり忙しい。

ふたりで家でゆっくりすごすことなんかないから、

全然共通の話題がなかった。


太郎は小さいときからほったらかされて大きくなったから

すごくしっかりしてる。

少なくとも母親よりもずっとね。


ちょっとすっぱいコーヒーをふたりで黙って飲んでいると

あけみの携帯が震えた。

電話。鉄からだ。

なんだろうこんな時間に?きょうはライブだって言ってあるのに。

たまには彼氏らしいことする気かな。

ライブききにくるって言うのかな?

「はい。」

「あけみ?いまどこ?」

「スコールライブハウスのそばだよ。もうすぐライブだもん。」

「あ、そっか〜。じゃ、いいや。」

「じゃ、いいやってなによ?」

「俺さあ、いまガソリンいれようと思ってスタンドに来たんだけど、ガソリンいれてから金持ってないことに気が付いちゃってさぁ。」

「は?」

「でもライブ前じゃね、いいよ。」

とは言ってるけど、鉄はここであけみがあ、そう。バイバイと電話を切れる女じゃないことを知っているのだ。

舌打ちしたい気持ちになりながらあけみは

「なに?どこにいるの?」

「xx駅の裏のスタンドなんだけど。遠いからこられないよな。」

そんなふうに言われると、なんとしてでも言ってあげたくなるのがあけみの悪いところ。

「わかった。じゃあちょっと待ってて。いまいくから。」

「え、でもスコールの駅からじゃ30分くらいかかるぜ。」

そんなことはわかってるわい。

さっさと電話を切ってあけみは伝票をつかんだ。


「ごめん、ママちょっと出かけなきゃ。」

「またあいつの呼び出し?いい加減にしたほうが良くない?」

太郎の言うとおり!と思ったけど、自分でもどうしようもないあけみなのだ。

「うん。今日だけ。もう行かないよ。」

「っていうか、オフクロ、出番に間に合うの?」

「当たり前じゃん。大丈夫。客席で待ってて。」

心配そうな太郎を残してあけみは駅まで走った。


出番まではあと一時間半。

往復一時間で行って来られるんだから大丈夫。

駅についたらちょうど電車がすべりこんできた。

あけみは10歳年下の彼氏のガソリン代を払いにいくために

電車に飛び乗った。



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