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歌姫は40歳  作者: 甘味園
2/9

その一 ハードロックは辛くない?(2)

と思いつつあけみはベーシストとギタリストを探したけど

まだいないみたい。

ドラマーは目立たなくて印象うすくてあけみはどんな子か思い出せない。

ギタリストと仲良しっていのは聞いてたけど。

だけどとにかく知ってる顔がどこにもない。

うろうろしてるのは対バンのミュージシャンらしきハイテンションのグループ。


ライブ前のライブハウスの空気って好き。

大勢の男たちが真剣な感じで

機材を運びこみ、ライトや音をチェックし、

「現場」って感じがする。


「お疲れっす」

さんざんぼーっと男たちの様子を眺めていたら

ベースのアキラが現れた。

しかしほんとに細いね。何食べてるんだろう?

そして今日も黒づくめ。

黒いTシャツに黒い長袖シャツ。黒のコットンパンツに黒い帽子。

スタジオにばかりいて日にあたっていないのか

顔だけが青白く、目ばかり大きい。


あけみが彼のベースを初めて聞いたのは最近だけど

即座に気に入ってしまった。

なんていうか...ストイック。


「アツキヨは?」

と聞くあけみにアキラはかぶりをふる。

なんでも小学校時代からバンド組んでたっていう

ドラマーアツシとギターのキヨシはいつもつるんでる。

あんまりつるんでるからいつもまとめて「アツキヨ」って

呼ばれてるらしい。

なんかどっかのドラッグストアみたいな名前だけどね。


「アツキヨ遅いね。」

今日の服装に全く似合わないゴッツイ男物の腕時計をちらっと見ながら

あけみはため息をついた。

本当はリハの回数少なかったから少し早めにはいって打ち合わせしようって言ってたのに。

イベンターがもう出演者を集め始めてる。

もうちょっとでリハーサル始まりそう。


アキラは何も言わない。

そっぽ向いてタバコ吸ってるだけ。


リハは逆リハで出番の遅い順。

あけみたちは今日出演の三バンドのうち最後に演奏するトリだから

本当は一番にリハしなきゃいけないんだけど...。


「ローリングスミスさ〜ん!」

イベンターが呼んでいる。

ローリングスミスってどうよ?とあけみは思っている。

ローリングストーンズとエアロスミスのカバーを演奏するために

今回限りで作られたユニット。

そのボーカルを女性ながら頼まれたののはあけみとしては光栄だけど

けど、合わせてローリングスミスってさぁ...。

まあいいけど。どうせ今日かぎりだし。


アキラはちょっと舌うちしてたばこをもみ消すと、

まだメンバーが揃ってない事をイベンターに告げにいった。

アキラって動きもきれい。流れるように歩く。


結局アツキヨが全く悪びれずにニコニコ登場したのは

ライブ開場の15分前。

アツシは本当にどこにでもいそうな顔のうすーい子。

これじゃ覚えてるわけないか。とメンクイのあけみは心の中で苦笑した。


時間ギリギリだけど、

イベンターに無理言ってちょっとだけリハさせてもらうことは

できない時間じゃなかった。

「ふたりともきのうバイトで夜遅くて〜。」と言い訳するふたりに

アキラは冷たく

「リハしないから。」と一言。






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