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スカッと

夫「今日、俺葬儀に行けない」私の親の葬儀に来られないという夫→私「わかった、じゃあ来なくていいよ」一晩放置した結果

作者: kiriko
掲載日:2026/07/10

「今日、俺葬儀に行けない」


父の葬儀を伝えたところ、夫はこんなことを言ってきた。


「は…?なんで…?」

「ちょっとさ、どうしても外せない用があってさ」


義理の親の葬儀より重要な用事なんて、あるのだろうか。


「前に話してた予定のこと?あれ、リスケジュールしたんじゃなかったの?」


初めて父の葬儀の日を伝えた時、夫は用事があると言っていた。

しかしその後言い分を撤回し、葬儀を優先するとも口にした。

どうして外せない「仕事」というならわかるが、ただの「用事」であるというのだから、混乱するばかりである。


「ごめんな、真澄。予定変更ができなかったんだ」


夫は悔しそうに舌打ちした。

いやいや、それはおかしいだろう。

どういう予定なのかは知らないが、義理の親の葬式には出るべきだ。

私だって、健吾の両親の葬儀にはちゃんと出たし、手伝いもした。

「嫁なら亭主の親に尽くすべき」とあの時健吾は言っていたが、私だって健吾に「夫なら妻の親に尽くすべき」だと言ってやりたい。

だが、私が次に口にしたのは、こんな言葉だった。

そんなに来たくないなら、来なくて結構だとも思っている。


「わかった、じゃあ来なくていいよ」






私の名前は鈴木真澄、三十歳。

近所の文具メーカーの事務職に就いている。

感情表現の乏しい私は、わりと「冷たい人」だと誤解されがちだ。

でも、付き合っているうちに、「本当は普通の人なんだね」と言われるようになる。

この場合の「普通の人」がどんな意味合いなのかはわからないが、「あなたって冷たい!」と面と向かって言われるよりはマシなのかなと思う。


夫の健吾は私より一つ年上の三十一歳。

学生時代からの付き合いで、今となっては住まいも会社も同じである。

「毎日ずっと一緒じゃん」と言われるが、健吾は営業職で外回りが多く、会社にはデスクだけがある状態なので、「ずっと一緒」という感覚は、他人が思うよりは薄いだろう。


健吾は営業職に就いているだけのことはあり、とにかく人懐こい。

初対面の人にもにこやかに話しかけるので、他人から警戒心を抱かれることもない。

私とは正反対で、正直ちょっと羨ましい。


そんな私達も結婚五年目を迎えたばかりだ。

ただ、新婚時代に話していた「マイホームを買おうね」とか「子供が欲しいね」という計画は、今のところ実現していない。

仕事が忙しくてそれどころじゃないのかもしれないとも思うが、最近の健吾は外出先から帰社するなり、さっさと帰宅してしまう。

じゃあ帰宅したら健吾の手料理が待っているのかと考えるが、生憎そうではない。

というより、彼が帰宅した痕跡がまるでないのだ。

例えば、彼は仕事から帰ると必ずコップで冷水を飲み、そのコップをシンクに置きっぱなしにするのだが、水を飲んだ形跡はない。


「浮気…?」


ちょっと飛躍し過ぎだろうかとも思うが、最近はこの線を疑っている。

私達は結婚五年目、そろそろ相手に飽きてきてもおかしくはない。


「そう言えば、ちょっと前まで私の前でスマホを見ていたのに、全く見なくなっている…」


もしかしたら、待ち受け画面に相手の女性の写真を設定しているのだろうか。

そう考えると、彼の微妙な変化に説明がつくというものだが、今のところ浮気を示す物証がない。


「興信所に、電話してみるとか…?」


浮気を疑うなら、まずは証拠を入手すべきだろう。

だが、積極的に連絡する気にはなれない。

帰りの時間がちょっとおかしい、妻の前でスマホをいじらない。

たったこれだけで、果たして浮気と決めつけていいのだろうか。

頭の中で堂々巡りをしていると、頭だけが疲れるのであった。




私達が倦怠期のような夫婦生活を送っていたある日のこと、実家の母から電話が入った。

かねてから病床に臥していた父が、とうとう逝去したというのだ。


「お父さんが…そうなんだ…」


患うようになってから、「いずれこういう日が来る」ということは覚悟していたが、実際に直面すると、心にぽっかり穴が開いたようで、喪失感がものすごい。

だが、落ち込んでばかりもいられない。

葬儀は三日後とされており、私も娘として参列すべき立場にあるからだ。


「え、お義父さんが亡くなった?」


会社を定時である午後五時きっかりに上がり、午後九時きっかりに帰宅した健吾は、私の話を聞くなり、目を丸くした。

いささか帰りが遅くないかとは思ったが、今日のところは聞かずにおく。


「なんで?なんか患ってたっけ?」

「病気だったって、健吾も知ってたでしょ?一緒にお見舞い、行ったじゃない?」

「ああ…ああ、そうだそうだ、思い出した!」

「大事なことなんだから、簡単に忘れないでよ」


恨めし気な声を出せば、彼は首をすくめて「ごめん」と言う。


「それで、いつ葬儀なんだ?」

「三日後だよ」

「え…三日後?」

「そう、三日後」


健吾はしきりに「三日後?」と聞いてくるが、そんなことをしたところで、葬儀の日程は変わらないので、私も「そうだよ」と繰り返す。

すると、彼がポリポリと頭をかいた。


「参ったなぁ、三日後か…」


一体、三日後にどんな予定があるのだろう。

何があったって、葬儀より優先すべきものではないだろうに。


「わかったよ、真澄。お義父さんには俺も世話になったし、スケジュールを調整するわ」

「そうして。ちなみに、どんな予定が入っていたの?」


私は特に何も意識することなく問いかけたのだが、健吾は目に見えて慌てだす。


「いやいやいや、お前にはちょっと…関係あるけど、ないっていうか」

「どっちなの?」

「関係ならあるよ?でもさ、今のところ無関係っていうのかな…?」


何がなんだかわからなくて、目を丸くするだけにとどめたが、私はこの時、初めて彼の「浮気」というのを、本気で疑ってしまった。




そうして迎えた三日後──。


健吾の朝はとても早く、午前四時には起きていた。

こっちが寝ているというのに、お構いなしでガサガサ何かを漁っている。


「健吾…何してるの?」

「ああ、真澄。悪ぃ、起こしちまったか?」

「それはいいけど…今日はお父さんの葬儀だよ、どこ行くの?」


寝ぼけつつもベッドに体を起こす。


「それなんだけどさ、今日、俺葬儀に行けない」

「は…?なんで…?」

「ちょっとさ、どうしても外せない用があってさ」

「前に話してた予定のこと?あれ、リスケジュールしたんじゃなかったの?」


問い詰めると、夫は予定変更ができなかったんだと、悔しそうに舌打ちした。

いやいや、それはおかしいだろう。

本当にどういう予定なのかは知らないが、義理の親の葬式には出るべきだ。

私だって、健吾の両親の葬儀にはちゃんと出たし、手伝いもした。

「嫁なら亭主の親に尽くすべき」とあの時健吾は言っていたが、私だって健吾に「夫なら妻の親に尽くすべき」だと言ってやりたい。


「わかった、じゃあ来なくていいよ」


思うことは多々あるが、私は多くを語らずして健吾の願いを聞き入れることにした。


「え、いいの?」

「うん、いいよ。行って」


すると、健吾は嬉しそうに「行ってくる!」と応じたが、やがて私に向き直った。


「真澄、キッチンにちょっと大事な書類があるから」

「大事な書類?なんでキッチンに置いたの?」

「キッチンは女の戦場なんだろ?」


ちょっと意味がわからない。

確かにキッチンのことを「女の戦場」と言う人はいるのだろうが、少なくとも私にはそんな考えはなく、健吾の前で口にしたこともない言葉だ。


「じゃ、行くからな!お義父さんによろしく!」

「はぁ!?」


今度こそ、変な声が出た。

今日は父の見舞いに行くのではなく、葬儀だというのに、「よろしく」はないだろうと思ったのだ。




その書類は、女の戦場たるダイニングキッチンのテーブルの上に置いてあった。

大事な書類なのかどうかはわからないが、私は茶封筒を手に取り、中を見て絶句した。


「これ…離婚届…?」


これには本当にびっくりした。

そして、二重にびっくりした。


「なんで…優香ちゃんの離婚届なの…?」


「優香ちゃん」というのは、私の会社の後輩で、明るくてとても元気な子だ。

だが、まだ結婚したばかりの彼女の名が、どうして離婚届に書かれているのだろう。

彼女から亭主の愚痴を聞いたことがないだけに、私としてはただ驚くことしかできない。

そこに、私の携帯電話が鳴っていることに気づき、離婚届を握り締めたまま寝室に戻る。

母からかと思われた電話だが、なんと優香からのものだった。


「優香ちゃん…どうしたの、まだ四時半だよ?」

「せ、先輩…!助けてください、ピンチなんですぅ!!!」

「どうしたの?」

「離婚届が…離婚届が逆でしたぁ!!!」


よくよく話を聞いてみると、やはり健吾は浮気をしていた。

しかも、浮気相手は電話の向こうで泣き叫ぶ優香である。


「ちょっと前に、一緒に離婚届書いたんですよ。お互いの相手に渡そうねっていう話になって」

「はあ…」


怒っていい場面なのだが、何だか怒り忘れてしまっている。

婚姻届を一緒に書くならわかるのだが、離婚届の方はあまり聞いたことがない。


「多分、書き終わって封筒に入れた時、間違えてバッグに入れたんだと」

「優香ちゃん、事情はわかったけど、どうして健吾と浮気したの?妻が私だってわかってたよね?」


少し声をとがらせれば、優香はすぐに謝ってきた。


「ごめんなさい!でも私、一つだけ言いたいんです!」

「何が言いたいの?」

「健吾さんが先輩の夫だって知ってたから…」

「知ってたから?」


優香は一呼吸置いてから、電話口で絶叫したので、私は思わずスマホを耳から遠ざけた。


「私達、プラトニックなんですぅぅぅぅ!!!!!」




健吾の浮気のことも、彼が離婚したいことも知った私。

葬儀には出たが、まるで集中できなかった。

お坊さんの読経も、お焼香の匂いも、父との最期のお別れの場面も、何一つ覚えていない。

心の中にあるのは、健吾に絶対報復してやるという決意のみだった。


葬儀が終わった日、私は自宅に帰らなかった。

後片付けがあるし、すっかり気落ちしている母が心配だったし、何より健吾の顔なんて見たくないと思っていたからだ。


「お母さん、元気出して」

「心配させて悪いね、真澄?」

「娘なんだし、当たり前だよ」


母が自室に入るのを見届けたその時、健吾から電話が入り、私は舌なめずりをする。


「あ、真澄?あのさぁ、あの…今朝出しておいた書類、どうした?」

「ああ、優香ちゃんの離婚届のこと?」

「うん、そうそう、じゃなくて…あれ、間違えてさ…」

「別に間違いじゃないわ。だってあの書類のお陰で、私はあなたと彼女の浮気に気づけたもの」


そう言って、私はスマホを耳から遠ざける。

健吾と優香は、ドジなところがそっくりで、だからこそ優香と同じことをするのではと身構えたのだ。

そして、案の定健吾はこんなことを叫んだ。


「俺達、プラトニックなんだよぉぉぉぉ!!!!」


二人とも声高にプラトニックであることを叫ぶが、じゃあメンタル面で妻や夫を裏切るのは、セーフだとでも思っているのだろうか。

だから私は報復すると決めた。

いつからプラトニックラブを続けているのかは知らないが、やられっぱなしは腹が立つ。


「健吾、私、今日は帰らないわ」

「へ…?お、俺が浮気したからか?だったら、考え直せ!こういう時だからこそ、夫婦で話し合う必要があんだろ?」

「こういう時だけ夫婦って言わないで。都合よく使われるのはごめんだわ。だから、私は帰らない」

「ま、待ってくれ、もう優香とは別れるから、真澄、電話を切るなぁぁぁ!!!」


実は、健吾は「葬式の夜に幽霊が出る」というのを本気で信じている男であり、そんな夜に家の中に一人きりという仕打ちは、拷問以外の何物でもないのである。




結局、健吾は私との電話を切ろうとしなかった。

何度切っても掛け直してくるし、電源を落とすと今度は家の電話が鳴りっぱなしになるので、私の方が折れた形だ。


「なぁ、真澄?俺さ、今レンタルビデオを借りてきたんだ」


さっき電話を切ってから、再び電話が鳴るまでの時間は僅か十分。

いくら自宅の近所にレンタルビデオ店があるからと言っても、いささか帰るのが早すぎないだろうか。


「そう、よかったね。それで、どんな話を借りてきたの?」

「それがさぁ、『十二日の木曜日』ってタイトルのDVDがあってさぁ。日付と曜日が一つ後ろの作品はあるけど、前ってのは新鮮で…」

「ああ、ホラーだね」

「は…?」


健吾の声から、覇気が抜け落ちる。


「知らないの?それ、アカデミー賞かなんかを受賞してる、評価の高いホラーなんだよ」


もちろん、嘘である。

そんなタイトルの映画なんて、観たことも聞いたこともない。


「え、マジ…?じゃ、返して来た方がいい…よな?」

「さぁ、どうだろう。それ、すごく残虐なホラーで、確か上映制限がかかったやつかも。ほら、血しぶきとかがすごいと、子供は観られないから」

「や、やめろよ、真澄…?俺、ちょっと返してくるから!お前、なんかギャグの効いた映画知ってるか?」


そんなもの、知るわけがない。

そもそも私は映画には興味がないので、まず観ないのだ。

健吾もこのことは知っているはずなのに、やはり幽霊に怯えるあまり忘れてしまっているのだろう。

段々、「この男のどこが良くて結婚した」のかがわからなくなってきた。


「じゃあ、アニメにする!それなら大丈夫だろ!?」

「何を借りるの?私のおすすめは…」


言いかけたところで、反応がなくなった。

きっと電話を繋げたまま、彼はレンタルビデオ店に走ったのだろうと理解した。


それから数時間後──。

私は眠くてベッドに入っており、健吾も就寝すると言っているのだが、電話の向こうからは彼のすすり泣きが聞こえている。

眠いのに耳元でグスグス泣かれると、こちらも眠れないではないか。


「なぁ、真澄?」

「何…?」

「さっきからさ、ヒタヒタって足音がするんだ」

「ああ、それ、お父さんだよ」

「ヒッ!?」


私は眠い体をベッドの上に起こして続ける。


「死者の魂は、悪人の元へと集う…聞いたことがない?」

「お、俺は悪人じゃないんだ!」

「いい加減にしてよ、浮気したじゃない?プラトニックだから許されるなんて思わないで」


その時、電話の向こうで健吾が「ギャッ」と叫んだ。


「今度は何?」

「き、消えたんだ!外廊下の電気が…!」


停電かと思いつつ、私はニヤリと笑う。


「それも、お父さんだね」

「な、何でだよ!?俺、今日はちょっと潮干狩りに行く約束してて!」


なるほど、潮干狩りに行きたくて、あんなに朝早く起きていたのか。

プラトニックというのは本当のようだが、それが「浮気ではない」という証明になるわけでもない。


「いいよいいよ、もういいの。私、もう疲れちゃった。だから、大人しく離婚してあげる。だけど、慰謝料はきっちり払ってもらうわ」

「へ、慰謝料…?」

「そう。もちろん、優香ちゃんにも請求する。だから、さよなら」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、真澄!電話はそのままにしてくれ!」


まだ何かを怖がっているのかと、私はかなり呆れたが、何か言いたいのであれば、聞く耳くらいは持ってやろう。


「まだ何かあるの?」

「…やらかした」

「え…?」

「だから、やらかしちまった…今の俺は恐怖と緊張で頭おかしくなりそうで…一人でトイレも行けなくて…だから、この場でやった」


それきり、私は電話を切った。

いい年をして、何が「やらかした」だ。

浮気で冷めつつあった心は、夫のやらかしにより完全に冷えてしまっていた。




翌朝、午前三時──。

誰もが寝静まっている時間帯に、私の実家のインターホンがけたたましく鳴らされた。

ついさっきようやく眠りに落ちた私。

やっと心の中で父の遺影と向き合えていたのに、束の間の静寂は健吾によりかき消された。


「開けてくれ、真澄!俺、怖くてもうダメだ!」


ドンドンドアを叩きながら、激しく叫ぶ健吾。

何の騒ぎかと、近所の窓に次々と電気が灯る。


「真澄、どうしたんだい?」


寝ていた母も起き出して、今にも壊れそうな玄関を不安げに見つめる。


「健吾さんよ。彼、浮気していたんだけど、開けていい?」

「浮気だって?」

「そう。相手は同じ会社の後輩なの」


そこで、母は顎に手を当て考える。

依然としてドアは叩かれているが、浮気という事実が許せないというのだ。

つくづく、私はこの母に似ているんだなと思う。

こう言う時に、泣いたりわめいたりして健吾に感情をぶつけられればいいのに、いつだって一歩引いて物事を見てしまう。

悲しくないわけじゃないし、バカにするなとも思うのに、どうしてもそんな気持ちをうまく伝えられないのだ。


「真澄?」

「うん?」

「確か、健吾さんはお葬式の類が苦手なんだったね?」

「ああ、うん、そう。覚えていたんだ?」


そこまで聞くと、母は内鍵を外して玄関を開け、涙と鼻水を垂れ流す健吾と相対した。


「健吾さん、こんな時間に…」

「お、お義母さん!葬儀に出られなくてすみません!こんな時間にすみません!」


謝るくらいなら、潮干狩りなんかに行かず、真面目に葬儀に出ればいいものを、何を考えているのだろう。


「お線香を、あげさせてください!眠ろうとすると、お義父さんの足音とか聞こえて、もう頭おかしくなりそうで…!」


頭なら既におかしくなっているのだろうが、健吾はそうは思っていないようだ。

何とも羨ましいことである。


「まあ、こんな夜更けにありがとう。じゃあ、上がってくださいな。夫の骨壺の前で、お線香をあげてください」

「は…?こ、骨壺…ですか?」

「ええ、うちはね、四十九日が納骨だからね。ああ、健吾さん、よかったらそれまでこの家で暮らす?夫も喜ぶ…」


母の言葉が終わらないうちに、健吾は走り出していた。


「まったく、情けないことだわね」

「ほんと、どういう頭してるんだか」

「浮気を許してはだめよ、真澄?徹底的に戦いなさい」


この母の言葉で、私の腹も据わった。

父の葬儀の一件では、百年の恋も冷める勢いだったし、「骨壺」と聞いただけで悲鳴を上げて逃げる男となんて、結婚していたくなかった。




半年後──。


あれから、私はすぐに会社を辞めて、別の会社に転職している。

優香は私に土下座をしてきたし、健吾も反省しているからと、優香とは完全に別れたという。

だが私は二人のことを許さなかった。

プラトニックであろうが、信じていた夫に裏切られたのはつらかったし、優香と同じ職場で働くこともできそうになかったからだ。


「キッチンは女の戦場…まさか、あんな意味だったとはね」


通帳記入をして、健吾からの慰謝料の着金を確認した私。

実はずっと気になっていた「女の戦場」発言について、健吾に問いかけてみたのである。


「戦場っていうくらいなら、毎日足運ぶだろ?戦場って気になるもんな?」

「だから何?」

「毎日絶対に行く場所に、離婚届を置くのがいいって思ったんだ。まあ、間違えたけどな」


あの時、キッチンに置いてあったのが健吾の離婚届だったなら、私は優香という愛人の存在に、まだ気づけなかったかもしれない。


「あなたの発想、ちょっとバカ過ぎるわ。葬式ごときでビビる男なんて、こっちから願い下げよ、さようなら」


そう言って背を向けた私は、もう二度と健吾に会わないと誓う。

そして、次に誰かと出会うことがあれば。「お葬式は得意ですか?」と聞くことにしよう。




(了)








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