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僕たちが見た巨大な世界【AI作品】

掲載日:2026/02/08

僕たちの家は暖かい場所にある。外の世界とは違って、ここは安全で静かで、そして家族がいる。

でも最近、食料が足りなくなってきた。

母さんがため息をついているのを、僕は何度も見た。小さな弟たちは、いつもお腹を空かせている。弟の一人が「お腹空いた」と泣くと、母さんは困った顔をする。

「もう少し待ってね」

そう言いながら、母さんは僕と兄ちゃんを見る。その目には不安と期待と申し訳なさが混ざっていた。

外はもう寒くなり始めている。冬が来たらもっと食料が必要になる。でもここには何もない。

だから僕たちは出かけることにした。


* * *


開いた玄関の入り口から、淡い光が差し込んでいる。

僕は兄ちゃんの背中を見つめた。 荷物を確認する背中。袋の口を結ぶ手つき。 まっすぐに伸びた背筋。

「五樹、準備はいいか」

振り向いた兄ちゃんの顔は、いつもの兄ちゃんの顔だった。

「うん、大丈夫」

僕は元気よく答えた。でも本当は少し怖い。父さんと兄ちゃんが出かけた時もこうやって出発したんだろうか。そして父さんは帰ってこなかった。

兄ちゃんが僕の肩に手を置いた。

「よし出発しよう」

僕は頷いた。

奥から母さんの声が聞こえる。小さな弟たちの笑い声も聞こえる。みんな僕たちを待っている。今すぐにでも食料が必要だ。行かなくちゃいけない。


* * *


外へ出ると、世界は広大だった。灰色の地面が延々と続く。遠くに巨大な構造物がそびえ立っている。青空は見えない。

「すごく広いね、兄ちゃん」

「ああ。だから離れるなよ」

兄ちゃんの声はいつもより低い。前はもっと優しい声だった気がする。あの日から兄ちゃんは何かに怯えているみたいだ。でも何に怯えているのか僕には分からない。

僕たちは歩き始めた。灰色の地面は平らでどこまでも続いている。目印になるものはほとんどなく、ただ遠くにいくつかの構造物が見えるだけだ。

兄ちゃんが前を歩いている。 その背中を見ながら、僕は後ろを歩く。

「兄ちゃん、まだ遠い?」

「ああ。まだだ」

兄ちゃんは前を見据えたまま答えた。その横顔は大人みたいだった。前はもっと無邪気に冗談を言って笑わせてくれたのに、今の兄ちゃんはいつも何かを考えているように見える。

「兄ちゃん」

「ん?」

「聞いてもいい?」

「どうした?」

「兄ちゃん、なんだかあの日から変わった気がする」

僕は思い切って聞いた。

兄ちゃんが足を止めて僕を見下ろす。その目は優しかったけれど、どこか遠くに感じられた。

「そうか……」

それだけ言ってまた歩き始めた。僕は慌てて追いかけた。

「あの日、本当は何があったの?父さんと一緒に出かけたのに、兄ちゃんだけが帰ってきて……」

兄ちゃんは立ち止まった。しばらく黙っていた。そしてゆっくりと口を開いた。

「あの日は、父さんといつものように食料を探しに出かけたんだ」

声が震えている。

「だがいつもと違い、なかなか食料が見つからなくて、今までいったことがないところまで遠出したんだ。そして、そこで大量の食料を見つけた。俺と父さんはすごく喜んだ。これで冬を越せるって……」

兄ちゃんは空を見上げた。その目にはあの日の光景が浮かんでいるようだった。

「でもその時だった。突然どこからともなく巨大な生物が現れたんだ」

「巨大な生物?」

「ああ。俺たちの何百倍もある。信じられないくらい大きい。そいつが俺達に何かを掲げた。そしてあたりは白い霧に包まれはじめた」

兄ちゃんの手が震えている。

「毒の霧だった。父さんが霧の中に飲まれ、偶然少し離れた場所にいた俺に『逃げろ』って叫んだ。俺は……」

兄ちゃんの声が途切れた。

「俺は父さんを置き去りにして逃げた……」

そう言って兄ちゃんは顔を伏せた。僕は何も言えなかった。兄ちゃんがそんな思いをしていたなんて……。

「でも、しょうがないよ。兄ちゃんは悪くない」

「いや」

兄ちゃんは首を振った。

「逃げるべきじゃなかった。父さんを助けるべきだった」

「でも兄ちゃんまで死んでいたら、母さんも僕たちも今まで生きてこられなかったよ」

兄ちゃんが僕を見た。その目には少し光が戻っていた。

「そうか……」

兄ちゃんが僕の頭を撫でてくれた。その手は温かかった。


* * *


どれくらい歩いただろう。時間の感覚が曖昧になる。足が疲れてきた。

「兄ちゃん、疲れた……」

「あともう少しだ。頑張れ」

兄ちゃんは優しく言った。

でもその顔には疲れが見える。兄ちゃんも疲れているんだ、でも頑張っている。

僕は兄ちゃんの真似をして、背筋を伸ばした。 少しだけ強くなった気がした。

やがて、前方に何かが見えてきた。

前を歩く兄ちゃんが足を止めた。

整然とした赤い屋根の建物。かすかに甘い香りが漂ってくる。

「兄ちゃん、見て!すごく立派!」

僕は興奮して、兄ちゃんを追い越して前へ出た。

「五樹、近づくな!」

「え?」

「危険だ!」

兄ちゃんの口調はいつもより強い気がしたけれど、僕にはあの赤い家が危険だとは思えなかった。むしろとても魅力的にさえ感じられた。

甘い香りが僕を誘っている。

「でも食料がたくさんありそうだよ」

僕は駆け出した。

「待て!!」

兄ちゃんが叫んだが、僕は止まらなかった。きっとあの中に食料がある。母さんや弟たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

赤い家の入り口に足を踏み入れたその瞬間。

「え?」

粘着質の何かが足を掴んでいて、僕を引きずり込もうとしている気がした。

「兄ちゃん!」

僕は叫んだ。

「助けて!」

兄ちゃんがこちらに向かって走ってきている。

赤い家の内部が目に入ってきた。そこには僕たちの仲間の死体がそこかしこにあった。朽ちた体と粘着質のなにか……。得も知れない恐怖が僕を襲う。

兄ちゃんが飛び込んできた。粘着質の何かが兄ちゃんにも絡みつく。だが兄ちゃんは止まらず、数歩進んで、僕の腕を掴んだ。

「掴まれ!」

「兄ちゃん!」

兄ちゃんは全力で引っ張った。粘着質の何かが抵抗する。兄ちゃんの体も引きずり込まれそうになる。

「放すものか!」

兄ちゃんは叫んだ。そして、僕の足を粘着質の何かから引き剥がした。兄ちゃんは後ろに倒れながら僕を抱えた。二人は転がるようにと外へ出た。

二人は赤い家の外で倒れた。息が切れている。体中が痛い。粘着質の何かが、まだ体に少しこびりついている。でも外だ。生きている。

「ごめん……兄ちゃん……」

僕は泣きながら言った。

「ごめんなさい……」

兄ちゃんが僕の頭を撫でた。

「いや、いいんだ。おまえが無事ならそれでいい」

その声は優しかった。兄ちゃんは本当に心配してくれている。僕は兄ちゃんにしがみついた。

「やめろ、ベタベタになる」

兄ちゃんは笑いながら嫌がった。

「いいじゃん、えへへ」

僕も笑いながら嫌がる兄ちゃんにくっついた。


* * *


粘着質の何かをすべて取り除いたらすぐに兄ちゃんが立ち上がった。

「行こう。本当の食料がある場所へ」

僕は頷いた。兄ちゃんが手を差し伸べて、そして僕はその手を取った。温かい手。大きな手。


* * *


赤い家からしばらく歩いた場所に岩陰があった。

「ここで少し休もう」

僕は座った。まだ少し震えている。兄ちゃんも座った。しばらく沈黙が続いた。

「兄ちゃん、さっきは……ありがとう」

「お前は俺の弟だ、守るのは当然だ」

兄ちゃんが優しく言った。僕は涙が出そうになった。兄ちゃんは本当に強い。

「兄ちゃん、かっこいい」

兄ちゃんが笑った。

「そうか?」

「うん」

二人は笑い合った。怖かったけど、兄ちゃんがいるから大丈夫だ。


* * *


突然の地響き。兄ちゃんが身構えた。

「隠れろ」

僕は岩陰に身を潜めた。兄ちゃんも身を低くした。何かが近づいてくる。地面が振動している。大きい。とても大きい。

それは突然現れた。

毛むくじゃらの巨獣。四つ足の獣。僕たちの何十倍もの大きさ。俊敏で獰猛で恐ろしい。毛むくじゃらの巨獣は、あたりを見回している。

こちらを向いた。まずい。

兄ちゃんが立ち上がった。

「逃げろ!!」

僕は走った。素早く。僕たちは足が速い。だが巨獣はもっと速い。あっという間に追いつかれた。

毛むくじゃらの巨獣が前足を振り上げる。

兄ちゃんが僕を庇おうとして僕を突き飛ばした。代わりに巨獣に攻撃された兄ちゃんの体は宙に浮いて、壁に叩きつけられた。

兄ちゃんが地面に倒れている。

「兄ちゃん!」

僕は叫んだ。兄ちゃんは立ち上がろうとするが、体が動かない。まずい。このままでは。

毛むくじゃらの巨獣が兄ちゃんに再び襲いかかろうとしている。

僕はどうすればいいのか。

その時、僕の視界に狭い隙間が見えた。あそこなら……。

「こっちだ!」

僕は叫んだ。そして小石を拾い、毛むくじゃらの巨獣に投げつけた。

「こっちだよ!」

毛むくじゃらの巨獣が僕を見た。僕は隙間に向かって無我夢中で走った。毛むくじゃらの巨獣が追いかけてくる。前足が僕の体に触れそうになる。

僕は間一髪で隙間に滑り込んだ。隙間は毛むくじゃらの巨獣には大きすぎる。怒り狂って爪を伸ばすが僕の体には届かない。

僕は隙間の奥でじっと待った。毛むくじゃらの巨獣が何度も爪を伸ばす。でも無駄だ。やがて毛むくじゃらの巨獣は諦めて、低く唸りながら去っていった。

静寂。僕は隙間から出た。あたりを見回して、別の隙間に逃げ込んでいた兄ちゃんのもとへ駆け寄った。

「兄ちゃん!大丈夫?」

兄ちゃんは痛みに顔を歪めながらも微笑んだ。

「……お前、すごいな」

僕は泣きながら笑った。

「いつも兄ちゃんが守ってくれるから、今度は僕の番だよ。えへへ」

兄ちゃんは僕の頭を撫でた。

「ありがとう」

僕は照れたように笑った。兄ちゃんを助けられた。僕も役に立てた。

兄ちゃんは体を起こした。痛そうだけど動けるようだ。僕が支える。

「立てる?」

「ああ」

兄ちゃんはゆっくりと立ち上がった。僕は心配そうに兄ちゃんを見る。

兄ちゃんは深く息を吐いた。そして前を向いた。

「行こう」

「うん」

僕たちは再び歩き始めた。兄ちゃんは少し足を引きずっている。でも進んでいる。兄ちゃんはやっぱり強いな。


* * *


そこは大きな空間だった。天井は高く壁は遥か彼方まで続いている。僕たちは慎重に進んだ。

「あった!」

僕は叫んだ。声が震える。信じられない。本当にあった。

隅に、食料の山。僕たちがずっと探していたもの。母さんや小さな弟たちの顔が目に浮かぶ。これで冬を越せる。みんな笑ってくれる。

「兄ちゃん、見て!すごい量だよ!」

僕は興奮して兄ちゃんを見た。兄ちゃんも目を見張っていた。

「本当にあった…」

兄ちゃんの声には、安堵と、喜びと、少しの信じられなさが混ざっていた。兄ちゃんの顔に、久しぶりに笑顔が浮かんだ。

「やったな、五樹」

兄ちゃんが僕の頭を撫でてくれた。温かい手。僕は思わず涙が出そうになった。

兄ちゃんは周囲を警戒しながら食料に近づいた。罠ではない。本物だ。

「兄ちゃん、これ持てる?」

僕は興奮していて、大きな食料の塊を持ち上げようとした。

「待て。重すぎる」

兄ちゃんは適切な大きさの食料を選んだ。

「これなら大丈夫だ」

僕も食料を袋に詰める。

二人は一心不乱に黙々と作業を続けた。家族のために食料を集める。

しばらくして、二人は座り込んだ。疲れた。でもやり遂げた。

「兄ちゃん、成功したね」

「ああ。お前のおかげだ」

「兄ちゃんもだよ」

二人は顔を見合わせて笑った。長い旅だった。危険もあった。赤い罠の家。毛むくじゃらの巨獣。でも乗り越えた。一緒に。

「早く母さんや弟たちの喜ぶ顔が見たいな」

兄ちゃんは頷いた。

「ああ。きっと喜ぶぞ」

静かな時間。幸福な時間。僕は兄ちゃんの隣で、心から笑っていた。

僕は立ち上がった。

「そろそろ帰ろうか」

「ああ」

兄ちゃんも立ち上がった。袋を持つ。僕も袋を持った。

「よし、行こう!」

「ああ」

二人は出口に向かって歩き始めた。

その時だった。

轟音。いや、轟音ではない。咆哮だ。空気が震えた。僕たちは凍りついた。何かが来る。

兄ちゃんの顔が蒼白になった。

「まさか……」

兄ちゃんが僕の前に立った。

彼女が姿を現した。遥か上方。信じられないほど巨大な存在。兄ちゃんが言っていた、あの生物だ。

彼女は二人を見た。そして悲鳴を上げた。空気が震える。耳をつんざくような音。僕の全身が総毛立つ。

「兄ちゃん……」

声が震えている。兄ちゃんが僕を抱きしめた。

彼女が何かを掲げた。あれだ。兄ちゃんが言っていた、毒を放つもの。

「五樹」

兄ちゃんが僕を見た。その目は穏やかだった。

「逃げろ」

「え?」

「あの隙間に逃げ込め。今すぐ」

「でも、兄ちゃんは」

「いいから!」

兄ちゃんが叫んだ。その顔は必死だった。

シュウウウウ。白い霧が噴き出した。毒の霧だ。徐々に空間を満たしてゆく。

兄ちゃんが僕を突き飛ばした。

「兄ちゃん!」

僕は転がった。隙間の方へ。兄ちゃんは僕の前に立った。白い霧が兄ちゃんを包みこんだ。

「兄ちゃん!兄ちゃん!」

僕は叫んだ。

兄ちゃんは隙間と反対の方向へと走っていって、そして振り返った。

その顔は微笑んでいた。

「五樹!生きろ!!」

そう言って、兄ちゃんは前を向いた。毒の霧がさらに濃くなる。兄ちゃんの体が揺れる。でも倒れない。

僕は隙間から見守るしかなかった。兄ちゃんを助けに行けなかった。涙があふれる。

「兄ちゃん…」

やがて毒の霧の中で兄ちゃんの体が大きく揺れた。そして倒れた。


* * *


しばらくして毒の霧が晴れた。僕は急いで隙間から出て兄ちゃんのもとへと駆け寄る。

「兄ちゃん!起きて!兄ちゃん!」

でも兄ちゃんは答えない。僕は泣きながら兄ちゃんにしがみついた。

「嘘だよ…兄ちゃん…」

兄ちゃんは微笑んでいた。穏やかな、安らかな顔で。

僕は理解した。兄ちゃんは、僕を守ってくれたんだ。父さんが兄ちゃんを守ってくれたように、今度は僕を守ってくれた。

僕は袋を見た。兄ちゃんが命を懸けて守ってくれた食料。母さんや弟たちにこれを持って帰らなければ……。兄ちゃんの想いを無駄にはできない。

僕は立ち上がり涙を拭う。しかしまだ体は震えていた。

母さんは泣くだろう。まだ小さな弟たちは……兄ちゃんが帰らないことに気づくだろうか。

袋を持つ。すごく重い。そして袋を持ったまま、僕は最後に兄ちゃんを見つめた。

「兄ちゃん、僕ひとりでも帰れるかな?」

足が震える。

「守るんだ」

自分に言い聞かせる声が震えている。

「兄ちゃん……僕、頑張るよ」

そう言って僕は前を向いて歩き出した。家へ。家族のもとへ。兄ちゃんの想いを抱いて。

兄ちゃんは教えてくれた。家族を守るということ。命を懸けて守るということ。そして今、それは僕に引き継がれた。

僕は振り返らなかった。振り返ったら泣いてしまう。兄ちゃんが前を向いていたように僕も前を向く。帰ろう。母さんと弟たちが待っている我が家に……。

袋を抱える手足が震える。灰色の地面が果てしなく続いている。

でも、進まなくちゃ。兄ちゃんが守ってくれた。この重さが、兄ちゃんの想いだ。

一歩、また一歩。背中をまっすぐに。兄ちゃんの背中のように……。



【完】





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