プロローグ
世暦1348年、国家間で進められていた地球規模の灌漑計画の失敗により、地球上のすべての海と河川が干上がり、砂の更地となった。翌年5月、砂の大地は突如としてかつて存在した海のような振る舞いをするようになり、浮力の概念が復古した。
以後、国際協調路線を辿っていた国家群は迎合して、“王国“と“帝国“の2つの勢力に分かれ、人類の生命線たる残された地下水源とオアシス、資源を巡り、二大勢力は血を血で洗う戦いを繰り広げるようになった。この戦争で地球人口の12分の1が死に至り、12年が過ぎた今も終結には至っていない。灌漑技術の乏しい帝国はその軍事力をもって王国に侵攻を繰り返し、オアシスや灌漑施設のある都市が集中的に狙われ、多くの民間人が犠牲となった。これに対し、王国は民と土地と資源を守るため団結し、国家総力体制に踏み切った。
資源を奪おうとする帝国と総力で猛烈に対抗する王国、その間に飛躍的に進歩していく軍事技術__
負の循環はもはや止められない状況に陥り、戦争が長期化する要因を生み出した。後の歴史家達はこの戦争を、“東西大戦”と呼ぶだろう。
いったい誰が、このような凄惨な状況を望んだだろうか。
人類はこの戦争で、砂漠戦の花形となるある切り札を生み出した。
そう、この世界の戦争の決戦兵器こそが、“砂上艦”である。
世暦1350年に生み出された砂上艦読んで字の如く砂の大地を疾走し、砲雷撃を駆使して戦う。この12年間で砂上艦は恐竜的進化を遂げた__
砂上艦は隊列を組んで最大船速で航行するとき、艦隊を覆う巨大な砂嵐が発生する。この砂嵐のために、航行時には視界が完全と言っていいほど遮られ、戦闘行動が困難になるという欠点を当初は抱えていた。
しかし、これを穴埋めすべく火器管制装置と電探の研究が急速に進んだ。レーダーによる敵艦隊の位置の特定とFCSの恩恵が合わさって、砂嵐の向こうにいる敵艦に対して、ある程度正確な砲撃が可能となったのである。
船外に出る必要のなくなった水兵達は、やがてCICに籠るようになる__