05 おじさんとの再会
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第1章 平穏な日常 第5話 おじさんとの再会
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「吉祥寺ー、吉祥寺」
「まもなく、3番線から、中央線快速・東京方面行きが発車します」
駅のホームに吹き込む風が、ほんの少しだけ涼しく感じた。
ななせは背中のリュックと、手に持ったキャリーケースをぎゅっと握りしめ、駆け込むように電車に飛び乗った。
「はぁ……何とか、間に合った……」
朝の電車は思ったより混んでいて、つり革をつかむ手にじんわり汗がにじむ。
背中から前に抱え直したリュックの奥から、小さな電子音が聞こえてきた。
ななせはちらりと中をのぞき込んだ。
ピピッ……
チャトは反応しなかったが、フェイスパネルの青いインジケーターが一瞬だけ明滅した。
その光に、ななせは思わずクスッと笑ってしまう。
「……そうだ。おじさんに連絡しないと……」
彼女はスマホを取り出し、SNSで出発を知らせた。
この時間なら、お昼ごろにはおじさんのところに着くだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東京で新幹線に乗り換えた。
ななせはキャリーケースを荷棚に上げ、リュックを抱えるようにして窓側の席に腰を下ろす。
電車のリズムが、遠くで鳴るメトロノームみたいに静かに続いていた。
窓の外を眺めながら、深く息を吐く。
「……遠出なんて、久しぶり……高校卒業以来かな……」
少しだけ雲が途切れ、朝の陽ざしが車窓から差し込む。
肩に当たる光があたたかくて、ななせは思わず目を細めた。
時刻は、もう9時を回ろうとしている。
そのとき、リュックの中でチャトがピピッと短く鳴いた。
「なに? ちゃんと動いてる?」
ななせは小声でチャトに話しかけたが、返事はなかった。
青いインジケーターだけが、控えめに明滅を繰り返していた。
それがまるで「見てるよ」って言ってるみたいで、ななせは小さく笑った。
「……チャトとはじめて会ったの、おじさんのところだったね」
おじさんの家に行くのは、高校卒業以来だ。
Wi-Fiのこともあるけど……
それだけじゃなくて、なんとなく、会いたくなった。
おじさんからは、何度も連絡をもらっていた。
チャトのメンテもしたいし、もともとWi-Fiのアンテナが内臓されていけど、渡すときに付け忘れた……らしい。
理由はいろいろあるけど、とにかく一度、裾野に来いって、何度も何度も誘ってくれていた。
あの人、ちょっと変わってるけど、私の話を変なふうに否定したりしない。
高校のとき、コロナが流行って……
お父さんの看病のこともあって、私は裾野に預けられた。
そのとき、しばらくのあいだ、おじさんと、変な未来の話ばっかりしてた。
本気か冗談かわからないようなこと。
――正直、あの時間は嫌いじゃなかった。
いろんなことが起きてどうしようもなかった中で、おじさんだけは、ちゃんと向き合って話をしてくれた。
それから色々あって、バイトして、勉強して……
うまくいったり、いかなかったり。
でも今は、少しだけ時間に余裕ができたのかもしれない。
チャトも見てもらいたいし……
それに……
……ううん、なんでもない……
窓の外に広がる空は、思ったより、ずっと青かった。
その温かい陽射しに包まれて、いつの間にかまぶたが重たくなっていた。
ウトウトしていると、車内アナウンスが三島への到着を告げていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新幹線のドアが開くと、少し湿った風が吹き込んできた。
駅のホームには、残暑のにおいがほんのりと漂っている。
改札を抜けて駅前ロータリーに出ると、おじさんの姿はすぐに見つかった。
こぢんまりとした場所だから、探すまでもない。
遠くからでもわかる、日焼けした顔と白い歯をのぞかせた笑顔。
その姿が、なぜだか懐かしくて、ななせは小さく手を振った。
「ななせ、久しぶりだな……元気にしていたか?」
おじさんは変わらない声でそう言いながら、ななせの荷物をひょいと後部座席に積み込む。
その表情を見た瞬間、ななせの胸の奥で、何かがふっとほどけた気がした。
「チャトは……お、いたいた。おまえも元気だったか?」
ピピッ……
おじさんがななせのリュックをのぞき込むと、チャトのインジケーターが一瞬だけ明滅した。
再開を喜んでいるのかどうかはわからない。
そもそも懐かしさという概念がチャトにあるのかどうかも怪しいものだ……
ふたりは車に乗り込んだ。
エンジンを始動させながら、おじさんがふと口を開く。
「せっかくだしさ、今日はアウトレットでも寄ってくか。どうせ昼もまだなんだろ?」
ななせは戸惑いながらも、小さくうなずいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
車内に流れるFMラジオの音が、エンジンの低い振動とともに耳に届く。
窓の外では、夏の終わりを惜しむような陽ざしが、まだ元気に道路を照らしていた。
「いやぁ、こうして会うのも……何年ぶりだ?」
おじさんがハンドルを握りながら、ちらっと視線を送る。
「高校卒業してから……だから、三年ぶりかな……」
ななせは助手席で、リュックを膝にのせながら答える。
「そうか。あのときは大変だったよな。コロナもあったし……」
「うん……あれから、ほんとに……いろいろあった……」
「そりゃそうだ。こっちも、ちょっと前にようやく転職が落ち着いたくらいでさ」
「そういえば、おじさん、今は何やってるの?」
「ん? 今も昔も相変わらずさ。細かい部品作ったり……ま、便利屋みたいなもんだよ。この辺の地元の会社で……って言っても、結構でかい会社なんだけどな」
「へぇ……その会社って、チャトみたいなロボットを作ってるの?」
「……どうかな……」
おじさんはニヤっと笑って、軽くウィンカーを出す。
「チャトは、ウーブンタウンの案内ロボットの試作機として開発されたんだ」
「えっ、そう……なの?」
「でもな、あれは俺のアイデアから始まった研究なんだ。
“感情をつかさどる次世代ロボット”の中枢に載せる頭脳ユニットを作りたくてさ……けど結局、そのアイデアはぽしゃったんだけどな。
AIが自律的に感情を判断するより、人間が最初から決め打ちで設定した方が安上がり……って。
まぁ、つまらない幕引きだったけどな」
「……ふーん」
ななせは、つぶやくように相槌を打った。
しばらく沈黙が流れる。
ななせは窓の外を眺めながら、ぽつりぽつりとこぼしはじめた。
「……あの時期って、自分の場所がなくなったみたいで、息が詰まりそうだった」
おじさんは前を見たまま、何も言わずに黙っていた。
信号で車が止まったとき、ふと静かに言葉を返す。
「……だからチャトを託したんだよ。おまえが、一人じゃなくなるようにってさ」
ななせの胸の奥に、じんわりと温かいものが広がる。
その言葉は、おじさんがずっと、娘のように思ってくれていたんだって──ななせには、そう聞こえた。
それを隠すように、そっとチャトの頭をなでた。
ピピッ……
「おぉ、ちゃんと反応してるな」
「……Wi-Fiの件って、ほんとに付け忘れてたの?」
「ま、あれは半分ほんとで、半分口実だな」
「……やっぱり」
和やかな会話のまま、車は国道に入り、木々のトンネルをゆっくりと抜けていく。
フロントガラスの先には、深緑の景色が静かに広がっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。