41 おじさん言ちる
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第6章 浮かび上がる輪郭 第41話 おじさん言ちる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
裾野に暮らす“おじさん”こと真田祥平は、
普段からのんびりと過ごすのが当たり前だった。
静岡県裾野市。
その名の通り、富士山の裾野に広がるその町は、
先端技術と豊かな自然の恵みが同居する、いわば“贅沢な田舎”だった。
田舎とは言っても、少し車を走らせて幹線道路に出れば店舗も多い。
さらに30分ほど圏内を広げれば、御殿場、三島、沼津へも出られる。
その先には箱根、伊豆があり、山もあれば海もある。
温泉も、サファリパークも、アウトレットも揃っている。
住んでいる者にとっては当たり前でも、
よそから見れば、ずいぶん恵まれた土地だった。
富士山の伏流水が、各家庭の水道から当たり前のように流れてくる。
そんな土地で暮らしていると、
豊かさとは、わざわざ意識するものではなくなる。
職場と自宅の往復。
帰宅の途中でスーパーに寄り、
総菜とビールを買い、毎晩、家飲みをする。
それが、真田祥平の日常だった。
もちろん、男の一人暮らしだから、不自由も多い。
それでも、それなりに気ままな生活を送っていた。
そんな祥平が、最近、少し気になることがあった。
物価高騰——
そう。
それは、遠い海から始まった出来事ではなかった。
米の値段は高いままだが、
この数年、何もかもの値段が、
気が付けば止まることなく上がり続けていた。
物価対策と称した政府の議論は、連日のように報じられていた。
だが、聞こえてくるのは、議論という名の雑音ばかりだった。
超党派による連携には程遠く、
他党の方針に納得がいかないと、揚げ足を取り合う。
自党の正しさと、選挙を見越した優位性。
合意か、否決か——
より大きなものを得るのは、どちらなのか。
議論は、それを自党に引き寄せるための駆け引きのようにも見えた。
国民生活のためと言いながら、議論は方法論ばかりを巡り、
現実だけが、静かに取り残されていった。
その結果、実質賃金の上昇は微々たるものだった。
暮らしの実感は、じわじわと蝕まれていくように思われた。
テレビでも連日、物価高騰を別の角度から報じていた。
ワイドショーでは、節約上手な主婦が脚光を浴び、
やりくりの裏技を紹介していた。
そしてこのところ、
友人や知人からのPCの修理を依頼される機会が、
なぜか増えていた。
PC関連の知識はそれなりにはあるが、
「おれは修理屋じゃないんだが」
と、必ず前置きをしながらも、
結局は、引き受けてしまう祥平だった。
ガソリン代もそうなんだが、
電気代——
毎月届く電気代の請求書が、
少しずつ、しかし確実に高くなっていった。
それをすべて物価高騰のせいだと、
声高に訴えるしかなかった。
自宅のサーバーで、
二十四時間休みなく高速稼働し続ける
チャトを、いったいどうして止められようものか……
今さら止めたところで、
何が変わるのかも分からなかった。
「チャトよ……せめて電気代をうかす方法を優先的に……」
とは、
決して言えない祥平なのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれからも、影の船団の暗躍は止むことがなかった。
忘れた頃に出没しては、また影の中に消え去る。
シャドーフリート——
影の船団とは、
一般的にはロシアの制裁回避タンカーを指し、
報道などを通じて知られている。
所有者不明。
AIS遮断。
積み替えによる原産地偽装。
保険・規制のグレーゾーン。
それはすなわち、
国家の裏側に存在する、
非正規の「非公式物流ネットワーク」に他ならない。
ロシア国家の関与は、誰もが確信していてる。
にも関わらず、それは堂々と否定され続ける。
間接関与、あるいは黙認か。
名称はどうであれ、
そこに国家の影があることは、疑いようがなかった。
こうした運用ノウハウを継承しながら、
しかしそれは、もはや同じものではなかった。
新たに生まれたのが、今回の影の船団である。
イラン革命防衛隊の関与は否定されながらも、
実質的には、その利益に直結していた。
中国・ロシアもまた同様に、一定の被害を受けながらも、
シーレーンの警備強化と称した介入を通じ、
国際的な影響力を拡大するという利得を得ていた。
だが、今回の影の船団は、
小型船舶を用い、その場所ごとに調達され、
任務を終えると廃棄されていた。
出現しては消え、また別の場所に現れる。
闇夜とともに現れたかと思えば、
白昼の海に、何事もなかったかのように現れる。
その出現に、時間も場所も、規則性はなかった。
ゆえに、
その全体像を捉えることは、ほとんど不可能だった。
それは、もはや船団ではない。
そんな新たな影の船団は、
神出鬼没に現れては海上に混乱をもたらし、
世界秩序を、静かに浸食していた。
そしてやがて、その混乱すらも、“制度”として固定化されていく。
海上には、新たな規制と監視、検査と通告が幾重にも重ねられる。
それぞれが「地域の安定」を掲げながら、
実際には、緊張の密度を高める装置として作用しているに過ぎなかった。
安定を名目とする制度は、
衝突の可能性そのものを封じる力を持たない。
融和的な対話を欠いたまま、
互いの正当性だけが研ぎ澄まされていくとき、
主張と主張は、やがて避けがたく接触する。
その接触は、必然のように衝突へと変わるのだろう。
誰もが正しさを根拠に、当然のように言葉を重ねる。
だが、その行く手を最終的に遮るのは、
いつの時代も——「力」だった。
どれほど精緻な理念も、
どれほど整合した論理でさえも、
力の前で踏みにじられ、焼き払われ、
時代の背後へと投げ捨て去られてきた。
緊迫する情勢が溢れかえるとき、
これまでと同様な歴史が再び繰り返されるのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
祥平はいつになく、
機嫌よく鼻歌を歌っていた。
湯船に浸かり、
ゆっくりと疲れを癒している。
電気代と言えば——
ななせは、
ちゃんと食べているのだろうか……
ふと、そんなことを考え始めると、
……さて。
今回は、どんな理由で呼ぼうか。
と考え始めていた。
知り合いからたくさん野菜を貰ったから……
はどうだろう。
いや、
あいつは肉が好きだったよな……
ななせの心配をそのまま口にしても、
あいつのことだから「大丈夫、大丈夫」で、
片ずけられてしまうだろうし……
かといって、
実の親でもない自分が、
どこまで立ち入っていいのか考えると
ずかずかと部屋に入っていくのことも気が引けるし……
……うーむ。
実際のところ、
やはりチャト関連で攻めるのが無難だろうな……
いかん、
このままだとのぼせてしまう。
祥平は湯船から上がった。
脱衣所兼洗濯室には、扇風機が置かれている。
それを回しながら、髪に風を当てる。
肌に残る水滴が、
次第にひんやりとしてきて心地よかった。
——あれから、
都立大の入学が決まった後に、
たしか栞さんには会ったはずだったよな。
奨学金の対象条件で、家庭状況を確かめるためだったか……
前回は、不用意な一言で、
せっかくの時間を台無しにしてしまったから、
今回は、気を付けないと……
やっぱり女の子なんだし、
男相手と同じように扱うってのは、まずいよな。
繊細なところがある相手だって、頭では分かっている。
それなのに、
どう接すればいいのかだけは、まるで分からなかった。
……そうだ。
大学生活も2年目に入ったことだし、ななせの話を聞いてあげよう。
それに合わせて、
栞さんにも連絡入れておけば、ご両親も安心されるはずだ。
結局のところ、電気代か——
チャトの回路を少しいじれば、節約できる。
あとはメンテナンスということにしておけばいいかな。
ふんふん……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、
特定の組織や個人を批判する意図はありません。
本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、
国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして
構成されています。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来・中革連 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




