表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/36

36 飛散した真珠の首飾り

日頃よりご愛読いただき、心から感謝しております。

当面のあいだ更新が不定期となりますこと、何卒ご容赦ください。

週1〜2回の更新を目安に努めてまいりますので、

今後ともよろしくお願い申し上げます。

第5章 分断化する世界  第36話 飛散した真珠の首飾り


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ホルムズ海峡の警備強化——

遠い北の海に落とされた爆発は、人命すら奪った。


その2つの事件のほぼ中央に位置する南の至宝。

かつて“真珠の首飾り”と讃えられ、自由と繁栄の象徴とされたその海域は、

いまや世界の海上貿易の3分の1を呑み込む巨大な回廊である。


——だが、ついに糸が切れた。


南シナ海という“真珠の首飾り”は、

手元を離れた瞬間に飛散し、

砕けた真珠はそれぞれ別の航路で弾け、

危険度だけを跳ね上げていった。


カムチャッカ近海で起きた輸送船の爆破事件。

海面に広がる油膜と、砕け散った破片は、

偶然や不運という言葉を静かに拒んでいた。

それは一隻の船を狙った行為ではない。

航路という制度そのものが殴られた——

そう解釈すべき、明確な政治的兆候だった。


さらに南の真珠が弾けた。

中国海警局との衝突事件が、公式発表として世界に流された。


南シナ海で“影の船団”と思われる不明船が確認された。

中国海警の巡視船が接近したが、

その船は、航路の誘導にも、停船命令にも、一切応じなかった。

それは逃走ではなく、挑発でもない。

制度そのものを無視する挙動だった。


追跡の過程で接触が生じ、双方に損傷が生じたが、

中国側はこれを「海賊活動への法執行措置の一環だ」と説明した。

しかし夜間だったことで拿捕には至らず、

“影の船団”は暗闇の中へと姿を消した——


その後、中国外務省の報道官が公式の見解を発表した。


「特定の国家による一方的な経済制裁は、

 国際金融と物流価格に恣意的な歪みを生じさせ、

 世界規模の混乱へと波及した。 

 西側金融圏が築いた格差構造は、

 犯罪経済の温床となり、

 その象徴たる“影の船団”の活動を一段と活発化させた。

 ついに南シナ海においても活動が確認され、

 さらに中国海警は法執行措置の過程で被害を受けた」


公式には「接触事故」とされたが、

曳航軌跡と衝突角度は、偶発的な事故として扱うにはあまりに整い過ぎていた。


海はもはやこれまでの海ではなかった。

報道では触れられなくとも、

影の船団の痕跡は世界の海で観測されていた。

真珠のように輝いていた海路は、

いつしかどす黒い政治色へと濁り、

滴る毒液のように航路へと飛び散った。


ホルムズ海峡の“検査強化”と、南シナ海の“法執行措置”。

海域は連続しているが、制度は連続していなかった。

それぞれの国家が独自の論理と主権認識に基づき、

別々の出来事として扱っていた。


続けざまに起きた“影の船団”による襲撃事件。

不可解にも東側諸国にしか被害が出ていなかったが、

その事件性は世界が知るには十分であり、

もはや無視できる規模ではなくなっていた。



「中国海警が実害を受けた以上、

 これ以上の事態を未然に防ぐための対応は避けられません。

 中国当局としては、

 自由貿易と安全な海上交通の維持を最優先とし、

 周辺国の“安全”を確保する目的で、

 検査体制の強化を実施する判断に至りました。

 これはあくまで安全確保のための限定的対応であり、

 ホルムズ海峡における先行事例に沿ったものです」



そしてついに、誰もが予測していた発表がなされた。

南シナ海の航行に対する規制強化である。


今度は承認など求められなかった。

国際社会は、制度が“先に発動された”という既成事実だけを知らされた。

中国外務省の報道官は、イランが適用した制度とほぼ同じ内容で、

事前申告のある軍艦は検査対象外とした。

ただし今度はホルムズとは違い、

広大な海域全体ではなく、チョークポイントを抑える方式が採られた。


対象は2ヶ所——

マラッカ海峡近海のリアウ諸島周辺、

そして南沙諸島周辺であった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ホルムズ海峡に続き、マラッカ海峡の出口で検査強化が実施された。

各国のメディアはそれを、事実上のシーレーン封鎖ではないかと酷評した。


影の船団の活動は不規則に続いていた。

アメリカ海軍をはじめ、どの西側諸国の海軍であっても拿捕に躍起になっていた。

しかし、僅差で先を越され、その手柄と被害は制度化の名目として吸収されていく。


どの国家も、どの組織も黙っていたわけではない。

外交筋では抗議が繰り返されたが、

制度そのものを反転させるほどの力はなく、

その決定を裏返す術もなかった。


航路規制によって海路は変更を余儀なくされ、

時間と燃料の追加は運搬コストを際限なく押し上げていた。

その事実は、もはや誰の目にも明らかだった。


東京では鷹内首相が中国に向けて会見を開いた。


「中国政府は海洋の自由と、

 周辺国が有する領域という主権、

 いずれも奪うかのような独善的政策を

 ただちに撤回すべきである」


そして続けた。


「日本の海洋における航路の安全は、

 自由で開かれたインド太平洋という理念のもと、

 諸外国との協調によって支えられてきました。

 リスクマネジメントの観点からも、

 アメリカとの綿密な関係構築は不可欠であり、

 その延長線上にあるアラスカ航路の開発は、

 まさに今回のような事態を想定した、

 先行的な備えに他なりません」


国内メディアはこぞって報じた。

日本経済が海洋ロジスティクスから瓦解しつつあることを。

ホルムズ海峡との違いは明白だった。

南シナ海の開運ルートは、日本にとって最大級のチョークポイントだからである。


しかし会見には奇妙な空白があった。


——アラスカ?

——南シナ海だろ?


つまり、いま目の前にある危機に対し、

打開策がないことを意味していた。


記者たちは、どこまで踏み込んで報じるべきか逡巡した。

視聴者にとっても、答えは明白ではなかった。

リスクマネジメントの将来像ではなく、

差し迫った危機への“即応”が求められていたのだ。


ホルムズ海峡の検査強化が発表された際には、

「世界動脈に携わることは、日本企業にとって新たなチャンスだ」

と誇らしげに語られていたことを、

誰もがまだ覚えていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アメリカの誤算があるとすれば、

世界の海すべてを掌握できなかったことだろう。


そして独裁的な政治の利点——

すなわち、政治的決定の速さである。


実際、アメリカはフィリピン政府と合意し、

南シナ海に面した軍港を軍事利用できるようにしていた。

だが承認手続きを踏む以上、

制度は時間を要求した。


——その時間こそが中国にとっての武器だった。


加えて、MECの成功のために見過ごした要素は、

今になって悔やまれることとなる。


論理は単純だった。

アメリカを殴れば、その数倍の痛みが返ってくる。

軍事施設を襲えば、それはたちまち戦争の領域に移る。


しかし影の船団が犯罪集団である以上、

中国は“安全確保”という名目で応対できた。

ここには法的・制度的な争点はなかった。


この段階で規制を止めるには、

もはや直接的な介入しかなかった。

すなわち軍事介入という選択肢である。


——だが、この選択肢はアメリカにしか行使が許されなかった。


国連でさえ、

NATOでさえ、

その領域には慎重にならざるを得なかった。


日本には、その選択肢の存在すら浮かび上がらなかった。


そして一旦崩れ始めた海路は、

もう誰にも引き戻すことはできなかった。


——だが、事態はそれだけでは終わらない。


海運業における最重要案件のひとつ。

海上保険の保険料が、この発表と歩調を合わせるように、

天井という概念を失ったかのように跳ね上がったのである。


特定の国家に対する制裁とは、一体何を意味していたのだろうか。

戦争を避けつつ、別の形で要求を呑ませるため——


その代償として、どれほど多くの市民の暮らしが、

制裁という名の圧力に押しつぶされてきたのだろう。

そして、対抗措置とでも言うべきか

今度殴られたのは航路ではなかった。


殴られたのは、世界の価格——

そして生活だった。


泥水のようなどす黒い液体は、

ついに生活圏にまで飛び散り、

それでも世界は、まだそれを戦争とは呼ばなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、

特定の組織や個人を批判する意図はありません。

本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、

国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして

構成されています。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来・中革連 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ