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35 海路に仕掛けられた錯覚

日頃よりご愛読いただき、心から感謝しております。

当面のあいだ更新が不定期となりますこと、何卒ご容赦ください。

週1〜2回の更新を目安に努めてまいりますので、

今後ともよろしくお願い申し上げます。

第5章 分断化する世界  第35話 海路に仕掛けられた錯覚


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アメリカ発の“新世界動脈”構想は、日本の報道番組でも盛んに取り上げられていた。

イランのホルムズ海峡における警備強化構想に対しても、

連日、ホワイトハウス報道官キャサリン・リープウィット氏が記者団の質問に応じていた。


キャサリン氏は落ち着いた口調で答えた。


「アメリカはペルシャ湾を含む中東海域の安全に深く関与しています。

 その状況については継続的に把握しています」


一瞬、記者団が間を置いた。

キャサリン氏は続けた。


「アメリカ海軍および同盟国の軍艦は、事前通知の手続きを経ることで検査対象外となります。

 運用に関しては、すでに関係国との調整が行われています」


映像は切り替わり、司会者はモニターに映る地図を示しながら話した。


「では、なぜアメリカはイランの行動を抑制しないのか。

 一つ鍵となるのは、現在アメリカが推し進めている“新世界動脈”構想の影響です。

 いわゆるMEC、地中海エネルギー回廊です」


画面には中東から地中海へ抜ける陸路が示された。


「MECはホルムズ海峡を経由せず、エネルギーを東地中海へ輸送する陸上ルートで、

 アメリカとイスラエルが共同で進めているとされています。

 もしホルムズ海峡が不安定化し、海上輸送のリスクが高まれば、

 陸の輸送ルートの重要性は相対的に高まります」


司会者は一度区切り、言葉を慎重に選んだ。


「つまりアメリカは、イランの行動を全面的に停止させる必要がないのです。

 少なくとも現段階では。

 封鎖ではなく通行規制に留まっている限り、制度上は戦争にはなりません」


司会者は指で地図をなぞりながら続けた。


「たとえイランの最高指導者ハーメニー師が、

 『これは西側による陰謀だ』と国内向けに語ったとしても、

 それを国際政治上の脅威と同一視する必要はありません。

 認識の切り分けが行われれば、戦争に発展させる理由にはならないのです」


画面下には“封鎖=戦争/規制=制度”という字幕が短く表示された。


「むしろ海路が“不安定”であることそのものが、MECの正当性を補強する可能性があります。

 アメリカが繰り返し『掌握している』と強調するのは、

 軍事ではなく制度の領域において、という解釈も可能です。

 一部の関係者の間では、イランへの経済制裁の段階からこうした展開を

 織り込んでいたのではないか、とする見方さえ出ています。

 それほどまでに、このポーカー大統領の行動は知略に富んでいるのです」


ここで番組は“新世界動脈”構想を日本国内の文脈に切り替えた。


「高市政権は、これまでも厳しい対外要請をうまく飲み込み、

 国内産業の活性化へ結びつけてきました。

 今回も同様の効果を期待できる——そう見られています」


ただ、不安視する専門家もおり、番組は賛否で揺れていた。

特に海運業界では、検査強化は航海日数の延伸と燃料消費の増加を招き、

配送遅延やコスト上昇を通じて物価高につながるとの見方が強かった。

ホルムズ海峡における“制度的な通行障壁”は、

軍事衝突ではなくても、物流にとっては十分なリスクとなる。


とはいえ、アメリカ軍艦が事前通知による“検査対象外”を受け入れたことで、

海峡は“封鎖されていない”扱いとなった。

日本は被害を理解しつつも、外交上受け入れるしかなかった。

全面封鎖ではなく、あくまで制度上の通行規制に留まる以上、

反対する理由も、制裁する理由も欠けていたからだ。


高市政権は淡々とした姿勢を崩さず、


「アメリカと共に新たな世界動脈を築くことは、日本企業にとって新たなチャンスだ」


と答える首相官邸前での質疑映像が流れた。


一方、霞が関の会議室では、同じ番組を横目に、担当官たちが目を伏せながら資料をめくっていた。


——本当に、これが日本にとって好機なのだろうか。


その不安は、まだ世論の表面には浮かび上がっていなかった。

日経平均株価は6万円台に乗り、国内経済は一定の安定を示していた。

世界が軍拡に向かう渦中で、日本の軍需産業も順調に成長し、アメリカ企業との協定締結が次々と報じられていた。


ただ、“政党争い”だけが激しさを増し、進められるべき制度改革は、“税制”と“社会保障”の議論に終始していた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


さらに5月末の台湾近海——


中国海軍による大規模な軍事演習が、実施されるという報道が国内を駆け巡った。

2027年は人民解放軍にとって建軍100周年という節目の年であり、

それは祝賀であると同時に、誇示でもあった。

演習規模はこれまでとは桁が違い、湾岸一帯の緊張を当然のように押し上げた。


中国の軍事演習は、国家の正統性を世界に向けて可視化する儀式であり、

外交筋や各国メディアの分析では、

このタイミングが、国際社会の歴史認識を塗り替えるためだとする論調が主流だった。



実施されると、保有する「3本の矛」を一度に抜いた。

3隻の空母の同時展開は、ことさら注目を集めた。


遼明りゃおめいは舟山海軍基地に新設された空母専用桟橋に停泊したまま、

戦闘機の発着を繰り返し、空域そのものの支配を誇示した。

艦隊を前進させず、空だけを押さえる手法は、

“防衛”と“作戦”のあいだにある曖昧な領域を意図的に選んだようにも見えた。


東山どうしゃん福成ふっちょんは空母打撃群を率いて宮古海峡を通過し、

まるで自国の海域であるかのように振る舞った。

2隻は距離を置いて進み、うち福成は台湾により近い位置へと航行した。


台湾を北側と南東側から挟み込むように艦載機が連続発進し、

演習は示威行動を越えて“範囲の宣言”としての性質を帯び始めていた。

誰に向けられた宣言なのかは、説明する必要もなかった。


李建平体制は“屈辱の100年”と呼ばれる国恥の記憶を洗い流そうとする国であり、

100隻を優に超える艦船の総数が、その意思を象徴していた。

その前提は、国際社会にとってすでに織り込み済みだった。


しかし世界が最も眉をひそめたのは、その後の動きだった。


ロシア海軍の潜水艦が日本海を南下し、中国艦隊と歩調を合わせるかのように行動したのである。

さらに北朝鮮は“ブルーウォーター作戦”と称し、二隻の駆逐艦を黄海から外洋へ展開させ、

小規模ながら軍事演習を敢行した。


表向きは演習——

タイミングも“たんなる偶然”とされた。

だが、その“偶然”を偶然と信じる専門家はほとんどいなかった。


行動の連続は、カムチャッカ半島から日本海を抜け、台湾海峡へ至る“海の回廊”を、

一時的に再構成する試みとして受け止められた。

ユーラシア大陸の極東における航路を、地図上で引き直すような動きにも見えた。


特に日本にとっては衝撃的だった。

専門家たちは、この密やかな回廊を

「リムユーラシア回廊(The Rim-Eurasian Corridor)」

と呼んだ。

それは、これまで“日本海”として認識されてきた航路が、

別の名前に再定義される——

まるで“日本海”が奪いさられ、そこに新しい航路が現れる錯覚のように。


すべてが示し合わせたかのように動き、偶然と呼ぶにはあまりに露骨だったからである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そして間もなく、海の騒動はさらに一隻の船舶が爆発炎上したという速報によって続けられた。


「このままでは終わるはずがない」——

そう語っていた専門家たちの焦燥は、

予告された未来の再現を前に、ただの警告から

“すでに始まっている何か”の追認へと変わった。


テレビは競うように声を高め、

どのチャンネルも同じ映像を執拗に流した。

爆発は“ひとつの節目”だった——

放送そのものがそれを認めているかのようだった。


カムチャッカ半島沖で、ロシア国籍の大型船舶が爆破された。

詳細は伏されたままだが、これが「影の船団」の実態だとし、

ウラスラフ・クーチン大統領は記者の前で語気を強めた。


「これこそが西側諸国の陰謀である。

 影の船団の名を借りたウクライナによる、我が国民への戦争行為だ」


数名の船員が死亡したためか、

その語調は威厳というよりも、憤怒を演出した熱に近かった。


「ロシアの栄光を支配する、我がウラスラフの名において、

 ウクライナを含むNATO諸国の

 ロシアを打ち砕かんとする野望を

 根絶やしにすることをここに約束する」


沈静化したかに見えたウロ戦争は、これを契機に再び熱を帯びた。

このところのウクライナ戦争はロシアが実効支配した地域が緩衝地帯となり、

実質的な交戦地は局所的となっていた。

停戦交渉が行われる度に、世界は停戦が実現することを期待したが、

それは一度も実現しなかった。



世界の報道はその“熱”を先回りして分析し、

市況はまた別の熱で値を跳ね上げ、

外交テーブルはどこかの部屋で静かに軋み始めていた。


——だが、誰もが恐れていた。

この爆発は、ただの爆発ではないのではないかと。

それが、誰かによって意図的に仕掛けられた、巧妙な事件に見せていること。

そして“連鎖”となり、影の船団が犯行を続けることで、

単なる連鎖の一幕にすぎないよう錯覚させること。


どんな錯覚なのだろう。

露骨な予兆が続いたことにより、

海路は、自由市場から明らかに遠ざかり始めているというのに。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、

特定の組織や個人を批判する意図はありません。

本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、

国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして

構成されています。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来・中革連 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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