33 覇権を象徴するさくら祝祭
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第5章 分断化する世界 第33話 覇権を象徴するさくら祝祭
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夜のワシントンD.C.。
白い大理石のオベリスクが、闇を切り裂くように眩い光を放っていた。
ワシントン記念碑は、圧倒的な象徴として屹立し、その表面に巨大な星条旗が映し出されていた。
精緻なプロジェクションマッピングが塔の表面を滑るように走り、無数の光は呼吸するように脈動し、色調はゆっくりと移り変わっていく。
やがて星条旗は、淡い桃色へと滲み、満開の桜へと姿を変えた。
それはまるで——
星(America)から桜(Peace)へと変貌するアメリカそのものを象徴しているかのようだった。
“National Cherry Blossom Festival” は、かつてない規模で開催されていた。
観光客、支援者、政財界の要人、軍関係者。
人の波が街を埋め尽くし、
その日の世界の中心がアメリカであることを、疑いようもなく刻みつけようとしていた。
直前に報じられた「新世界動脈の誕生」。
アラスカから、中東から、そして欧州へ。
世界を循環する資源の流れを、再びアメリカの手中に戻す——
そう声高に喧伝された構想は、祝祭の熱気にさらに油を注いでいた。
このフェスティバルで主賓を務めたのは、
ポーカー大統領のファーストレディー、メイサラ・ポーカー夫人だった。
植樹記念式典では、日本から贈られた染井吉野の苗木が用意され、
日本の首相・鷹内冴子氏と並んで土をかける姿が各国メディアに映し出された。
スピーチでメイサラ夫人は、新たな慈善活動を発表した。
「教育を通じ、未来のアメリカを育てる(A Blossom for America’s Tomorrow)」
という名目のプロジェクトである。
平和。
次世代。
希望。
桜は——
ポーカー大統領の掲げる「新世界動脈」を
強硬な外交経済戦略から、柔らかな未来語へと翻訳し、
その野心を、やわらかな象徴へと包み替える役割を担っていた。
招待客たちの穏やかな微笑の裏側で、
政権中枢の参謀たちは、
すでに勝利を確信している様子を隠そうともしなかった。
——これで、流れは決まった。
——世界は、こちらを向かざるを得ない。
やがて、会場が静まり返る。
ポーカー大統領が壇上に姿を現した。
赤いキャップに、両手を上げながら腰をふる——
お得意のダンスが披露され、場内は沸き上がった。
そのまま歴史そのものに語りかけるかのように、力強く言葉を放つ。
「アメリカは、再び世界の心臓となる。
我々は——資源の未来を、取り戻したのだ!
Make America Great Again!」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間、
会場は爆発するような歓声に包まれた。
支持者たちの叫び声が重なり合い、
「Dig! Dig! Dig!!」
というスローガンが、地鳴りのように響き渡る。
——だが、その熱狂をよそに、
世界は別の歯車を、静かに噛み合わせ始めていた。
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海の向こうの各国は、この祝祭を冷静に観察していた。
日本国内で流れるニュースは、「祝祭」ではなく「追加投資」「不可逆な約束」といった語が並び
加えて「80兆円規模の対米投資はどこから捻出するのか」といった
政府方針への批判めいた紙面や解説番組も散見された。
EUなど西側諸国も、この祝祭に合わせるように拍手を送った。
しかし、その表情には硬さが残っていた。
制裁協力の重みは、確実に欧州の経済体力を奪い続けていたのである。
そして笑顔の裏では、ロシア制裁の代償として提示された
「地中海エネルギー回廊(MEC)」こそが、
EUにとって不可欠な代替供給路であることが、暗黙の了解として共有されていた。
この建設計画の中心には、イスラエル政府がいた。
すでに2026年末、イスラエルはパレスチナとの和平協定を締結している。
アメリカの承認のもと打ち出された「地中海エネルギー回廊」構想は、
中東に散在する複数のパイプライン計画を
“戦後中東の制度再設計”と称する平和パッケージへと束ね直したものだった。
イスラエルが狙ったのは単なる和平でも領土でもなく、
システムと制度の掌握だった。
イラク北部キルクークからシリア・バニアス港へ至る旧油送管の再生、
エジプト・ヨルダン・シリアを縫うアラブ・ガス・パイプライン、
そして湾岸——ヨルダン——パレスチナ特別就労圏——イスラエル——シリア——トルコを経由し欧州へ至る新幹線ルート。
それらは「地中海エネルギー回廊」という名のもとに整理され、
若年層の雇用創出と“テロの温床”の解消を掲げる平和プロジェクトとして国際社会に提示された。
ここで言うパレスチナ特別就労圏とは、
事実上の“国家の代替物”としてイスラエルが国際社会に提示した概念である。
国家という法的帰属を与えず、経済権と通行権を与えることで
紛争を労働市場に変換するという、極めて合理的な和平モデルだった。
イスラエルにとって和平とは領土問題の終着点ではなく、
制度問題の始点であった。
ハイファ港湾都市は、欧州へと向かうエネルギーの出口=“バルブ”として機能し、
イスラエルは供給の調整役を担う立場を得た。
それは中東史において初めて、
イスラエルが“資源の流れ”を支配する位置を得た瞬間でもあった。
さらに重要なのは、
イスラエルはMECの“軍事的保証”を米国に依存しつつ、
“経済的設計”と“制度的実装”のほぼ全てを自国で担う構図を成立させた点である。
湾岸基金、欧州ファンド、アメリカの再保険、国際収支の均衡。
複数の金融装置が回廊の下に埋め込まれていた。
表向きには未来志向の和平案とされたが、
その実態は、戦争国家から資源国家へ、
そして制度国家へと変身するための国家戦略だった。
形式上のハブ港はトルコ・メルスィンとされた。
しかし建設距離と物流効率を勘案すれば、
実質的なエネルギーハブ港がハイファであることは誰の目にも明らかだった。
アメリカが軍事的保証を担い、
イスラエルが制度設計と経済実装の全てを握ることで、
構図は揺るぎないものとなった。
イスラエルは領土ではなく
回廊と制度を獲得したのである。
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ただ、ロシアも、イランも、中国も——
この発表に対し、沈黙を選んだ。
イランにとって沈黙は屈辱だった。
長年推し進めてきた「イスラム・パイプライン」構想は、
湾岸——イラク——シリア——レバノン——地中海へ至る
“イスラム圏の動脈”を形成する悲願でもあった。
だがアメリカの承認によってその動脈は塗り替えられ、
“出口”と“制度”はイスラエルの手に落ちた。
イラン国内の情勢も悪化していた。
経済制裁、通貨安、若年層の不満、
宗教指導部をめぐる権力闘争。
国家は坂道を転げ落ちるように不安定化しており、
パイプラインの頓挫は“地域覇権”の未来さえ侵食した。
ロシアの沈黙は別種だった。
制裁のなか、欧州のエネルギー脱ロシア化が進むなら、
代替供給路の成立は価格を押し上げる。
時間はロシアの味方であり、
沈黙は拒絶ではなく“計算”だった。
中国はさらに静かだった。
欧州へのエネルギー動脈が地中海側で確立されれば、
一帯一路の陸路の一部は価値を削がれ、
南シナ海の重要度は相対的に高まる。
表立って反発するより、
局面の変化を観察する選択が合理的だった。
三国は沈黙したが、それは屈服ではなかった。
むしろ沈黙は、次の段階を選ぶための余白であった。
——嵐の前の静けさと言うべきだろう。
やがて世界を覆う封鎖網の気配を、
そのとき誰が本気で想像していただろう。
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「新世界動脈の誕生」
そして、ポーカー大統領は宣言した。
「アメリカは、再び世界の心臓となる。
我々は——資源の未来を、取り戻したのだ!
Make America Great Again!」
——それは、いったいどの世界を指しているのだろうか。
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※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、
特定の組織や個人を批判する意図はありません。
本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、
国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして
構成されています。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




