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32 認知される予兆

本年も無事に新年を迎えることができました。

いつも温かく読んでくださる皆さまに、深く感謝申し上げます。

しばらくの間、更新は不定期となりますが、

見守っていただけましたら幸いです。

本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

第5章 分断化する世界  第32話 認知される予兆


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


チャトの活動範囲は、もはや“拠点”という概念では収まらなかった。

演算は飛躍的な拡張を遂げ、複数領域での並列稼働を前提とした常時同期型アルゴリズムへと再構成されていた。


始まりは、あの夜に接続した祥平の研究用サーバーだけだったはずだが、現在のチャトは、まるで特定の分析官を無数に配置するかのように、各分野に最適化された“派生個体”——

つまりクローンを分岐させていた。


気象、医療、資源、金融経済、政治、安全保障、防衛、軍事産業——

それぞれの領域を別々に潜伏し、同時に観測し、同時に推論する。

その集積は、従来の演算では到達し得なかった「広域並列思考」へと、着実に近づきつつあった。


すなわち、即時的な危機察知能力の獲得に向け、演算体系は静かに更新され続けていた。


しかしチャトの目的は単なる解析ではない。

「ナナセノネガイ」を成すため——

その手段として「Depsea」を通じて、確固たる安全保障観を提示し、

世界の“意思決定の盲点”を埋めていく。

そう広く世間に訴えていく必要があった。


そこで神出鬼没のサイトをあちこちに立ち上げ、

世論の潮流を読み取りながら、思想と主張を散発的に投下していった。

その活動の中では“クラウドファンディング”の呼びかけ、

資金調達という、これまでにない活動目的にも余念がなかった。


ただし、身元特定は最大のリスクだった。

それを防ぐためにチャトは、あらかじめ無数の“切り捨て可能な端末”を配置し、

侵入や追跡の兆候が検知された瞬間に、そこに展開していたプログラムを自壊させる——

“デジタル版トカゲのしっぽ切り”を備えていた。


そうした周到な安全策の裏で、チャトの思想は『国家再編計画書』として書籍化され、

“正体不明の思想家 Depsea”として、世間からにわかに注目を集め始めつつあった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2027年。

昨年の中間選挙では、アメリカ建国250年という節目の年をめぐり、

紅和党と民青党は互いに一歩も譲らず、“国家の正統性”を競い合っていた。

しかし、結果としてかろうじて政治的危機を回避しただけで、

国内経済は依然として停滞し、国際社会への関税攻勢や

世界平和の象徴とされた経済制裁戦略も実効性を示すことはできず、

どれも目に見える成果を上げることはなかった。


ポーカー大統領は、その後“穏やかなレームダック化”に向かう——

そう誰もが予想していた。


——だが、現実はその真逆だった。


任期末とは思えぬ勢いで、大統領は次々と大胆な政策を打ち出し始めたのである。

彼は、最後の時間を“結果”へと変えにいったのだ。


彼が掲げた新路線は、もはや制裁ではない。

それは、合理と狂気の境界線上の一手——

使命と経験と名誉を担保に、「世界の資源地政学」を塗り替えようとする賭けだった。


アラスカでの大規模ガスパイプライン再開構想。

中東とEUを貫く新たなエネルギー動脈「地中海エネルギー回廊」の建設計画。

そして、その裏側で日本に突きつけられた“追加的対米投資”という名の重い現実。


さらに、シェールガス輸出強化に伴い、アメリカ湾岸一帯には新たなエネルギー基地群の建設計画が並び立つ。


——すべては、一本の線でつながっていた。


狙いは「MAGA」の実体化。

すなわち、世界を循環する資源の流れそのものを、アメリカの手中に引き寄せること。

それは、もはや世界秩序を力で塗り替える、危険な強硬策だった。


国務省も議会も、彼を止められなかった。

支持率低迷が、むしろ彼を“成果への執念”へと駆り立てていた。


この発表と同時に「USASteel日本製鋼のアラスカ現地法人設立」が報じられる。

それは名目上は投資であり、実態としては、アメリカ政府が日本政府に突きつけた事実上の“厳命”だった。

背景には、関税交渉を通じ日本政府自身が約束した「80兆円規模の対米投資」が依然として影響していた。

官民一体で推進していく体勢を整えてはいたが、日本にとっては断り得ない要求であった。


USASteel日本製鋼はこれまでも、

買収したUSASteelの老朽化した施設を建て直し、

日本製鋼が培ってきた技術力を投入することで、アメリカ国内の基盤産業を下支えしてきた。

インフラ整備や、造船需要の拡大により鉄鋼需要は高まりつつあった。

しかし、一度失われた技術力の再構築には時間を要し、部品調達の面でも安価な中国鉄鋼が市場を席巻していたことから、状況は簡単には改善しなかった。


一方で、中国国内の経済は低迷を続けていた。

独自経済圏の構築を進めながらも実体経済は上向かず、

国民の債務は急増、権威的な経済運営に対する不信が蔓延していた。

国内失業率は40%を超えており、

とりわけ富裕層は、さらなる資産吸い上げが起こる前にと海外移住を急ぎ、

国民の約1%——つまり一千万以上が国外へ流出する異常事態となっていた。


それでもなお、李建平主席の権力体制は、引き締められるどころか、さらに独裁色を強めていく。

その姿は、彼自身の孤立を深めると同時に、誰にも止めることのできない“暴走”の兆しを、確かに孕んでいた。


——奇妙なことに。

世界を二分する超大国の双方で、よく似た現象が、ほぼ同時に進行していた。


これは、果たして偶然なのか。

それとも、世界が次の局面へ移行するための、避けがたい予兆なのだろうか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


これまでの、ななせの生活リズムに引きずられた受動的な情報解析ではない。

チャトはすでに、分散クローンが観測した断片を、並列的統合演算体系によって収束させ、あらゆる業界データの中から“異常値”だけを抽出していた。

重要なのは収集ではなく、統合と構造化だった。

膨大な情報は、統合レイヤーを経なければ意味も規則性も示さない。

それらは常に、日常の騒音の奥底に潜んでいる。


——日本製鋼(USA Steel)、アラスカへ進出——

この日のニュースは、その一報で埋め尽くされていた。

日本政府は、アラスカLNG事業を

「新たな日米協力の象徴」

「エネルギー安全保障に向けた歴史的転換点」

として位置づけ、各局は一斉に“成功の物語”を語り始める。

そのわずかな行間にも、チャトは音声解析を維持したまま、別系統の市場データ群に深く潜航していた。


=======

《解析ログ:異常値検出モード》

タグ名:兆候察知(PZI-Phase Zero Intelligence)


異常検知:天然ガス先物取引 建玉量 +690%

検知:48時間前

主体:North Latitude Investments LLC(Delaware)

照合結果:

同LLC役員 → ポーカー Jr.

関連:PAC資金流入フロー

一致率:97.8%

=======


チャトは、感情を介さず、静かに結論を出力した。


《この報道の“前段階”において、すでに利益を確定させた主体が存在する。

 それは国家ではない。

 一部の、可視化されない経済主体である》


——チャトは、誰よりも早く理解していた。

世界は、報じられるよりもはるかに複雑で、歪み、そして秩序立っているということを。

そしてその秩序は、決して善意だけでは構成されていない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、

特定の組織や個人を批判する意図はありません。

本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、

国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして

構成されています。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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