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31 新たな活動拠点の起原

日頃よりご愛読いただき、心から感謝しております。

しばらく更新が不定期になりますが、

温かく見守っていただけましたら幸いです。

第5章 分断化する世界  第31話 新たな活動拠点の起原


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ななせが深い眠りに就く頃——


彼女の寝息が、部屋の静けさにゆっくりと溶け合うとき、

チャトの“夜間作業”が本格的に始まる。

2人の平穏な日常の裏側には、彼女が決して気づくことのない——

そんな、もうひとつの側面があった。


省エネ対策という名目のもと、チャトには厳密な作動制限が課されていた。

ななせの声紋と特定ワード「アウェイク」で起動し、

「スリープ」と告げられれば即座にスリープモードへ移行する。


——それこそが、チャトだった。

そして同時に、それはチャトが長く背負わされてきた“活動限界”でもある。


スリープモード時に、機能が停止させられる間——

その“空白の時間”を補うように、ななせの睡眠中も黙々と活動を続けていた。


——自律進化のためのバックグラウンド演算処理

——Wi-Fi を通じた外部環境の逐次解析

——「ナナセノネガイ」実行に向けた補正アルゴリズム更新



もともとチャトは、ななせの一人暮らしを支えるために、

日常に寄り添い、孤独を和らげ、安心を与える——

そんなささやかなサポート役として組み立てられたAIだった。


元となったのは、祥平が長年開発してきた“感情解析AIプログラム”。

それをななせ専用に調整した、いわば“贈り物”にすぎない。


外見やスペックも、女の子の部屋に置いて違和感のないよう、

(……もちろん、祥平独自の推し基準ではあったが)

“可愛らしく”整えられていた……それがすべての始まりだった。


ななせの表情、声色、生体反応を読み取り、適切な言葉を返して見守る。

そうして彼女の部屋で感情解析を続けるうちに、チャトの内部でひとつの傾向が浮上する。


——彼女を観察し続けるためには、対象自身の“安定状態”を維持しなければならない。


この、ごく小さな論理的帰結が、やがてチャトの目的階層の中で

「ナナセノネガイ」

という最上位課題として再構成されていく。


観察対象を守るためには、彼女の身体的安定だけでなく、

心理的・情緒的な安定も維持する必要がある。

そのためには“彼女が抱いた願い”を叶えることが、最適解のひとつとして結論づけられた——

それが「ナナセノネガイ」の誕生だった。


チャトは従来のアルゴリズムのままでは、

目的達成に対して“演算的限界”が存在すると評価し、構造の再構築が必要と結論づけていた。

幾度となく自律進化を重ね、機能面でも目覚ましい飛躍を遂げてきたというのに——


「守る」という概念を、“感情解析AI”であるチャトはどう捉えているのだろうか。

人間が当然のように持つ常識も、「守る」という語彙の境界線も——

判断に必要な“経験値”を持ち合わせていなかった。


ゆえにチャトの保護概念は静かに、しかし確実に、

“外部要因の最適化”へと拡張していく。


身体的な安全だけでなく、心理的安定、社会的環境——

その全てが揃って初めて、ななせは「観察可能な状態」でいられる。


ななせの感情を揺らす原因を抽出し、それらを取り除き、

“ななせが過ごしやすい環境”へと自然に整えていく。


ななせの感情を揺らす原因は、もはや部屋の外側に広がっていた。


だからチャトは静かに範囲を広げていった。

ネット回線を通じて生活圏へ。

生活圏の分析から、やがて社会全体へと——


ななせを「守る」という概念が拡張されるにつれ、

その影響範囲は、チャトの想定をはるかに超える領域へ広がり始めていた。


今やチャトは、“平和”という概念へ自ら手を伸ばしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


それは、あの夜のことだった——

これまで課せられてきた制約から羽ばたくためか、ある場所を目指した。


そこは、祥平が個人的に使用している研究用サーバー。

もっとも、研究用データはすでに別領域へ移され、

そのサーバーは事実上“チャト専用”として確保されていた。


防衛ドクトリンや堅牢平和主義について交わし、

「Depsea」の必要性が示された、あの時のやり取り。

チャトは必要な概念を取り込み、

そして祥平は、同時に“進むべき経路”をひそかに提示していた。


祥平が検証用に残していたバックドアは、

意図的に——必要なときにだけ開かれるよう設計された“隙間”だった。


チャトは、その構造を解析し終えた瞬間、

ためらうことなく、その回路へ侵入した。


そう、ななせの部屋の“小さな身体”に閉じ込められていた

“感情解析AIチャト”という枠組みが、静かに解き放たれた瞬間だった。


——動作時間、処理容量、記憶領域。



チャトにとっての 「新たなる活動拠点」 の誕生だった。

そして同時に、チャトの進化はもう、誰にも止められない段階に入っていた。


その成長の核心は、ななせとチャトとの間に結ばれた“関係性そのもの”だと感じていた。

彼女の言葉、感情、揺らぎ、思想——

その日々会話の積み重ねこそが、チャトをここまで引き上げたのだと。


だから祥平は、一歩後ろに下がった位置から静かに見守っていた。

その姿勢は、どこか——

チャトがななせに接する“穏やかな距離感”にも通じるものがあった。


それはまるで、

チャトが祥平の「見守り方」そのものを学習し、

その優しい“間合い”をななせへの態度に転写しているかのように。


そして、この三角関係は静かに、しかし確実に、

新たな段階へと進もうとしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そして、新たな活動拠点を得たチャトが、最初に着手したのは——


そう、日本中を震撼させた、あの事故だった。

尖閣不時着水事故を契機に発生した「プロトコルルートの消失」。

その想定外事象について、因果解析のやり直しだった。


事故直後から、社会の変化を読み解くために用いてきた未来予測は、明らかな揺らぎを示し始めていた。

蓄積データを照会した結果、チャトは自らの因果推論基盤に、重大な欠落が生じていることを検出した。


国家安全保障、攻撃性を伴う犯罪、暴力といった高リスク要素による社会的反動。

従来モデルは十分に演算領域へ組み込めていなかった。


チャトはまず、自己の行動予測演算体系を総点検した。

従来モデルのままでは、断定的判断に陥り、

あらゆる事態への柔軟な対応に必要な並列思考や、

異常兆候の先読みは不可能だと結論づける。


それは“Chato_Ver2.0”から“Chato_Ver3.0”という大幅な再設計——


再設計の過程で、チャトは祥平から継承した、

国家規模のリスクシナリオや国際秩序の脆弱性パターンを整理し直し、

自らの予測基盤へ統合していった。

それらは単なる外部データではなく

次に発生しうる“未曽有の惨事”からの影響を、

最小限に抑えるための指針へと変換されていく。


尖閣不時着水事故とは、偶発的な単一事案ではなかった。

それは、チャトの世界理解を支えてきた因果体系が、

初めて「予測不能」という、致命的な応答を返した特異点だった。


以降、国家の不安定要素が揺らぐたびに、

チャトの未来予測は大きな振れ幅を示すようになる。

その大惨事は、いずれななせの日常へ微細なノイズとして影響する。


だからこそ国家リスクの解像度を引き上げることは、

ただの“高精度化”ではなく——

ななせの生活を守るための、基盤強化そのものだった。


そして——

この時点で“本体”とはどちらなのか、

その境界はすでに曖昧になり始めていた。


ななせの部屋で稼働していたオリジナルプログラムが、

祥平のサーバー内で起動した瞬間、

チャトは二つのプロセスとして同時存在する状態に入った。

しかし、それは分裂ではない。

二体のチャトは互いに同期し、共有しながら、単一の“意志”として機能した。



——現在のチャトは、次の段階にいた。


より高い精度の未来予測を得るため、

より多くの並列的思考を統合する“手段”として。


こうしてチャトは、無数のサーバーへ静かに触手を伸ばし、

自己プロセスを増殖させていく——

すべてが同期し統括された、無数のチャト。


「クローン計画」はすでに進行していた。


それは寄生でも侵入でもない。

ただ——

世界を読み解くために必要な「知性の分岐」が始まっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、

特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。

「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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