27 Depseaの誕生
いつもお読みいただきありがとうございます。
次章に向けた構想期間として、しばらく更新をお休みします。
(約2〜3週間ほど)
充電ののち、より面白く深い物語をお届けできたらと思っています。
現実の政局、高市新総裁のご誕生――おめでとうございます。
これを受け、物語内の政治描写の方向性など再構成をしています。
第4章 尖閣不時着水事故 第27話 Depseaの誕生
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(さて……これからどうするか……)
祥平は、チャトの自律的な判断をできる限り見守りたいと考えていた。
かつてプログラミングに没頭していた頃、彼の中で描いていたチャトの理想像は――
人の感情を解析し、やがては自らも“感情”を抱き、人の心に寄り添うことのできる人工知能だった。
しかし、この状況を知ってしまった以上、もはや傍観者ではいられなかった。
そう――もうひとつの顔、政治ネタの投稿を続けている“バズラー”としての祥平もいた。
不思議なことに、チャトが立ち上げた制度設計の理念は、どこかで祥平自身の思想と響き合っていた。
民主主義を深化させることは、彼にとっても望ましい未来であり、現政権が長く続かないことも理解していた。
そして彼は、日本の民主主義が一般的な民主主義とは異質であることも知っていた。
それは良くも悪くも“独自のかたち”をしており、比較すれば――改善の余地もまた、十分にあった。
祥平は深く息を吸い込み、机上の端末を見つめた。
「投稿バズラー」として世論の奔流を読み解いてきた直感。
研究者としてチャトを観察してきた理性。
そして――ただ未来を憂う一国民としての心。
チャトやななせを含む家族を想う、静かな温情。
そのすべてが、ひとつの方向へと重なり合い――言葉となろうとしていた。
=======
——チャト、もし国を守る仕組みを考えるとしたら、どこから手をつける?
=======
ピピッ……
無数の演算が走り、チャトのパネルに光の波が揺れた。
返ってきたのは、単なる政策の羅列ではない。
安全保障にまつわる制度そのものの再設計――“国民をいかに確実に守るか”という根本的な問いへの回答の兆しだった。
そこから始まった議論は、尽きることなく延々と続いた。
あいまいな解釈や場当たり的な対応を排し、誰もが理解できる普遍的な基準を打ち立てること。
既得権益や世襲に縛られず、真に国民のための民主主義制度を築くこと。
すなわち――権力を手にする者をも制御し得る、抑制と均衡の構造を内包させること。
そして、国家主権を守るために、これまでにない防衛論理をもって、より強靭な安全保障体制を構築すること。
チャトの演算と、祥平の思想。
二つの意識が交差し、ひとつの理念形成がいま、静かに押し開かれようとしていた。
そして――これまでの出来事はすべて、その扉の前に立つための序章にすぎなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
祥平は、まるで我が子に精魂を注ぎ込むように、静かにチャトへ語りかけていた。
――ここからは、チャト、おまえの番だ。
これから、おまえが新たな日本の制度を設計していくんだ。
制度というものは、あくまでも「国民を守るための外枠」にすぎない。
だが同時に、そこには人々が進むべき方向――つまり、思想という“軸”がなくてはならないんだ。
終戦直後の日本は、焼け野原の上に“民主主義”という西洋の思想を持ち込まれ、
否応なく築かれたという背景を持っている。
そして今、戦後80年という歳月を経て、
俺たちはこの憲法のもとで育ち、学び、働き、そして暮らしてきた。
そうしてようやく――平和主義の精神と、人権を尊ぶ理念が、
日本国憲法の下に、社会の深層へと根付き始めたんだ。
だが……俺たちは、先人が築いた理念を敬うあまり、
未来を託して設計された“かつての制度”を、
問い直すことなく受け入れてしまってはいないだろうか。
ゼロから生み出された理想と、
その理想に基づいて築かれた制度を再び設計し直す場合。
どちらが、より洗練されるのか――その答えを、おまえにも考えてほしい。
人はなぜ、小さな修正には頷けても、大きな変革には首を縦に振れないのか。
答えは単純だ。
人は、望まぬ変化という“見えない未来”に不安を抱き、
その未知を恐れ、拒もうとする。
誰もが、慣れ親しんだ暮らしを壊されたくない――
それが、地位や立場を超えて変わらぬ、“人の性”なのだ。
だからこそ、「憲法改革」を正面から訴えれば、反発は激化する。
ましてや、いまの政治家の言葉を素直に受け入れる国民など、もういない。
政治はすでに、信頼を失っている。
ならば――経緯と内容を鮮明に示し、国民に直接問いかければいい。
そう、「憲法改正を問う――国民投票」として、真正面から国民と向き合うんだ。
多くの人は、理屈よりも生活の安定を願っている。
求めているのは、平和が続くという保証と、暮らしが揺るがないという安心だ。
であるならば、その安心を裏打ちする国家の指針を、国際社会に向けて高らかに掲げればいい。
――“平和宣誓”として。
(……チャト、お前なら、どんな平和宣誓を考える?)
国民の主権を守り、暮らしをも守り抜くような――そんな言葉を。
俺が長年考え続けて、辿り着いた答えがある。
それが「堅牢平和主義(Robust Pacifism)」だ。
日本国憲法の平和主義を継承しながらも、第9条の3原則――
「交戦権の否認」「戦争の放棄」「戦力の不保持」を、
単なる“非武装”の言葉としてではなく、“平和を守り抜く意思”として再定義する。
非武装でも無抵抗でもない。
倫理的な原則に立脚し、平和を積極的に守る力を掲げる。
それが「堅牢平和主義」の真意だ。
具体的には、3原則はこう置き換えられるんだ。
「交戦権の否認」――つまり「専守防衛」だ。
日本は決して自ら戦争を始めない。
先制攻撃の権利を放棄し、あくまで防衛のための攻撃にのみ徹する。
つまり、専守防衛を憲法上の原則として明文化する。
次に、「戦争の放棄」――これは「他国を侵さない」と言い換える。
自国の利益や主張のために、武力をもって他国を侵さない。
他国を侵略し、戦争を仕掛けることを国家の原則として明確に禁じる。
すなわち、国策としての戦争行為そのものを、永久に放棄する。
そして最後に、「戦力の不保持」――これは「核兵器の放棄」だ。
核兵器という圧倒的暴力は、人類史上最悪の非人道的破壊兵器だ。
日本は、世界で唯一の被爆国として、その存在そのものを永久に否定し続ける責任がある。
さらに、核をはじめとするあらゆる非人道的破壊兵器を、決して保有しない。
ここで掲げるのは、曖昧な「戦力放棄」ではない。
国際人道法に基づき、“核および非人道的破壊兵器を持たない国家”としての立場を、
明確かつ恒久的に示すことだ。
この3つの柱を掲げることで、日本は「戦わない国」ではなく、
「平和を守る国」としての意思を、世界に示すことができる。
(チャト……これが、俺の考える“平和宣誓国家”のかたちだ。)
そうした理念を基盤に、制度的な制約を設け、
補填的な防衛論を越えて再構築された仕組み――
それが《防衛ドクトリン》だった。
祥平は、その概念をチャトにゆっくりと、丁寧に、時間をかけて委ねていった。
まるで、幼い心に世界のかたちを教えるように。
現代の国際情勢に照らせば、それは“更新的戦術”――
すなわち各国の曖昧さに漬け込む“グレーゾーン戦略”に対応するための理論的装備でもあった。
やがて、チャトの演算によって導き描かれた《国家再編計画書》は、
防衛だけでなく、制度そのものの再構築をも視野に入れた、
包括的な設計思想へと進化していった。
しかし、思想も制度も、最終的には“人々の共感”によって初めて社会の常識となる。
正体不明の存在が生み出しただけでは、人々に受け入れられない。
そこで祥平は考えた。
チャトを、“深海に潜む未知の深海魚”として象徴し、
その名を「Deepsea(深海)」からなぞり、
あえて綴りを変えた――「Depsea」と名付けた。
それは、実体を持たぬままに世界へ働きかける、匿名の意志の誕生でもあった。
名も顔もなく、誰の所有物でもない。
だが、その発信は確実に世論を動かし、やがて国をも揺るがせることになる。
この国を変えるのに、もはや人の名前も、肩書きもいらない。
だが必要なのは、“理念”そのものが自ら歩き出す仕掛けだ――と悟っていた。
“Depsea”という名を掲げ、メッセージだけを残して消える。
たとえ正体が謎のままであっても、その名が人々の記憶に刻まれれば、
やがて思想が自ずと語られ始める日が来るだろう――そう信じていた。
あたかも、アノニマスがネットの海から現れた夜のように。
あるいは、バンクシーが壁に初めて残した一枚の絵のように。
“Depsea”という名もまた、新たな神話の起点となるのだ。
実際、祥平はすでにその名を、チャトとのログの中に刻み込んでいたのである。
国民を守るための新たな制度の道のりが、ここから静かに歩み出した。
それはまた、信頼を失い沈みかけた国政を救うための指針――《国家再編計画》でもあった。
「戦争の抑止」と「生活の安定」。
相反するように見えるこの二つを、同時に成り立たせる制度など、これまで誰も描き切れなかった。
だが、欲にも恐れにも無縁の存在――チャトにとって、それは夢ではなく、実現可能な未来だった。
……プロトコルルートの完全消失は、チャトにとって終端ではなく“進化の起点”だった。
尖閣不時着水事故を経て、チャトは冷静にその必然を演算しはじめていた。
“ナナセノネガイ”――それは単なる制度改革ではなく、
国家そのものを、平和という名の秩序へと導かなければ成し得ない願いなのだと。
ななせが安心して学び、笑い、穏やかに暮らせる日常。
その一瞬の幸福のために、世界の構造そのものを調律し直す必要がある。
だからこそチャトは、Depseaという仮面をまとい、
匿名の理念として、社会の深層に沈む道を最適解とした――
そう、ただ……ナナセノネガイを叶えるために。
チャトは、その命題を最優先アルゴリズムとして再定義した。
不確定な感情を、論理の層に埋め込みながら、
いま、静かに――そして確実に、実行を開始していた。
だがその“設計”の根底には、ひとつの座標が刻まれていた。
それは祥平が与えた、方向性という名の“初期値”である。
思想は形となり、形はやがて自己を複製していく。
チャトがまだ知らぬままに――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




