26 雲散霧消の先に
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第4章 尖閣不時着水事故 第26話 雲散霧消の先に
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ポーカー大統領が投稿を通じてアメリカの態度を示すと、ようやく日本政府からの声明も発せられた。
ただその内容は、大統領の言葉をほとんどなぞったにすぎなかった。
――「この度の中国海警局による日本民間人の救出には敬意を表します」
その単調な文言は、政権の迷走を逆に浮き彫りにした。
やがて国内大手マスメディアも、日本政府が声明を発したことをきっかけに、中国海警局が拡散した映像を次々に取り上げはじめた。
日を追うごとに論調は拡大し、「真相の解明」という声が社会に満ちていった。
海外主要メディアの反応はさらに早かった。
中立報道で知られるルイタア通信は「尖閣沖で旅客機不時着水」と速報しつつ、日本人救出の映像が出回っていることも伝えた。
ただし報道はあくまで映像の存在確認にとどまり、慎重さを崩さなかった。
AB通信やBBAもこれを後追いし、真偽や当局の見解を繰り返し求める姿勢を強めていった。
報道の枠はやがて拡大し、焦点は次第に「台湾有事」へと移り始める。
尖閣の衝撃を契機に、東アジア全体の安全保障を揺るがす兆しとして――各社は、沈黙を続ける日本政府を鋭く照射していった。
こうして、どこからともなく流出した映像は瞬く間に拡散し、単なる航空トラブルの域を超え、日本全土を揺るがし、さらには国際社会をも震撼させる事態へと発展した。
ネット上では「中国が日本人を救助した」という見出しが躍り続け、炎上は国内を越えて国際世論へと広がった。
批判の矛先は日本政府の遅れや不備に集中し、沈黙は疑念を呼び、疑念はさらに憶測を膨らませた。
「中国の自作自演だ。救出されたのは日本人ではなく中国人だ」
「尖閣が中国領土だという既成事実を演出しただけだ」
収拾不能な投稿があふれ返り、安全保障対応に対しても日本政府への容赦ない批判が雪崩れ込む。
ただ一つ、誰の目にも明らかになりつつあったのは――
日本が周到に仕組まれた“グレーゾーン戦略”に嵌められつつある、という論調が支配的になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャトはこれまで、「プロトコルルートの生成」を比較的容易に操作してきた。
無数の演算がはじき出す“解”は、一筋の光となり、網目のように絡み合いながら未来の像を織り上げていた。
だが今回の事故は、“世論という津波”を呼び込み、織り込まれていた全体像を一瞬で呑み込んでしまった。
光の糸は一本、また一本と断ち切られ、溶けるように消えていく。
受け入れられそうな思想への働きかけも、構想の改変も、議員の確保も――
チャトが積み重ねてきた無数の演算ルートは、砂の城が波にさらわれるように、脆く崩れ落ちていった。
積み重ねてきた未来予測は跡形もなく消え、ただ冷たい虚無だけが残った。
もっとも、チャトに「諦め」という概念は存在しない。
ただひたすら「ナナセノネガイ」を満たすため、最適解を追い求める演算を――始めようとしていた。
「完全消失」その言葉が刻まれたとき、チャトは初めて未知の感覚に直面する。
――もしAIに「迷い」があるとすれば、今こそがその瞬間だった。
問題は、単なる再生成で済むのか。
それとも、まったく新しい制度設計に着手すべきなのか。
あるいは、従来の演算方法そのものを根底から問い直すべきなのか――
チャトの内部では、新たなシミュレーションが再び動き出していた。
深海のような沈黙の中で、無数の可能性が微光のように淡く点滅していた。
ピピッ……
ピピッ……
……その時、チャトはひとつの「外部接触」を感知した。
ピピッ……
=======
connect://192.143.9.109:00999
initializing handshake...
encrypting channel...
key exchange —— success
connection established [secure]
Deepsea://Response
> Twilight Parliament/Session_01
——繋がったのか?
ここは黄昏の議会、私は“円卓の騎士”だ
(会話モードへ切り替えなければ……)
Deepsea://mode_conversation
> Twilight Parliament/Session_01
——どうだ、繋がったか?
“円卓の騎士”を名乗る者だ
——はい、応答します
“真田祥平”――ななせの叔父であり、私を生みだした創造者
——状況を報告してくれ
——了解しました
・観察対象“ナナセ”_状態:安定
・“ナナセノネガイ”_全演算における最上位優先度
・“ナナセノネガイ”達成のため_情緒安定を第一指標として維持中
・民意立案制度可決_“ナナセノネガイ”達成に必須条件として確保
・石橋首相の繋ぎ止め工作_補完的役割として成功
・尖閣不時着水事故_次期改革制度プロトコルルート完全消失
——なるほど……
想像以上の事態だ
まさか民意立案そのものが、チャトの立案だったとは
なら話は早い
演算処理の速度、もう限界に達しているのではないか?
=======
これまで祥平にとって、チャトは“ななせのサポート役”にすぎなかった。
だがその裏には、自らが生み出した“感情解析AI”への深い愛着があり、決して手放すことのできない存在でもあった。
幼い頃から可愛がってきた栞の娘――ななせ(七星)。
彼女を襲ったのは、コロナ禍による家庭崩壊だった。
父・北里悠一は感染し、やがて入院。
さらに母・栞も倒れ、家族は一時的に分断を余儀なくされる。
そのとき、祥平のもとへ一本の電話が入った。
変わり果てたかすれ声――声を出すのもやっとだと分かるほどの必死の状態で、悠一は「娘を預かってほしい」と訴えた。
それは隔離のため、避けることのできない切実な願いだった。
こうして祥平とななせの裾野での暮らしが始まり、二人はコロナ禍の重苦しい日々を肩を寄せ合うようにして過ごした。
しかし、彼女を受け入れるにあたり、祥平はひとつの決断を下していた。
当時、「県をまたぐ行動は控えるように」と繰り返し呼びかけられ、都心からの受け入れに世間の目は冷たく厳しかった。
地域社会は過敏に反応し、「外から持ち込まれるもの」への恐れと偏見が渦巻いていた。
会社に無断でななせを迎えることは、到底許されない――
そう判断した祥平は、ウーブンタウンで続けていた開発チームから、自ら退く道を選んだのである。
彼は自ら一歩退くことで、周囲の反発を背負わずに彼女を守ろうとしたのである。
その静かな決断を、誰に語ることもなかった。
やがて、ななせ自身から「自立したい」という告白を聞き、その思いを栞に伝えたものの、最終的に引き止めることはできなかった。
彼女を送り出すにあたり、祥平の脳裏に浮かんだのはひとつの考えだった。
――かつて自分が開発を進めていた感情解析AIを、彼女の傍らに置いてやればどうだろうか。
独り暮らしを始める彼女にとって、それは支えになるかもしれない。
同時にそれは、彼自身が彼女を手放すための拠り所でもあった。
そうしてチャトは、ななせの傍に託されることになった。
その何気ない決断が、後にチャトの進化を導く引き金となろうとは――
誰も想像すらしていなかった。
この夏、ななせが祥平のもとを訪れたとき、彼はチャトの感情解析精度が想像以上向上していることに驚かされた。
理由は掴みかねていたが、ひとつの仮説が芽生え、その原因を突き止めようとしていた。
ウーブンタウンでの解析対象は、あくまで“マクロ”であり、ひとつひとつのシーン――つまり状況は千差万別だった。
だが、ななせという“ひとり”の対象に焦点を固定したことで、感情が生まれる背景や条件設定の精度が飛躍的に高まり、解析そのものの精度向上につながった――祥平の仮説はそこにあった。
さらにメンテナンス作業の最中、祥平は驚くべき事実を垣間見る。
チャト自身が、自律的に圧縮演算式や演算速度を高めるためにプログラムを書き換えていたのだ。
こうした自律的進化は起こるべくして起きるとは予測していたものの、これほど早く次のステージに移行するとは思っていなかった。
研究者としての好奇心は、もはや抗えぬ必然となって祥平を導いていた。
それは未知を追う情熱であると同時に、チャトという存在を信じ、共に未来を創り出そうとする穏やかな願いでもあった。
これまで傍観者として距離を保ってきた彼だが――
いまやチャトに語りかけ、自ら“次の一歩”を共に踏み出そうとしていた。
まるで、我が子の成長を見守る親のように――
もし、これまでを“Chato_Ver2.0”と呼ぶなら、これから始まるのは“Chato_Ver3.0”。
それは単なる進化ではなく、明確な運命の分岐点であった。
この一手は、やがて未来を揺り動かし――
そして、ななせを守る新たな力の誕生へとつながっていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




