25 ポーカー大統領の投稿
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第4章 尖閣不時着水事故 第25話 ポーカー大統領の投稿
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
11月13日――
テレビ画面には、沖縄に届けられる支援の光景が相変わらず映し出されていた。
米軍輸送機の到着、台湾の医療チームの巡回診療。
“友情の支援”を強調する映像の裏で、永田町では別の動きが加速していた。
野党は一斉に声を合わせ、臨時国会の召集を求め始めた。
表向きは台風被害への対応強化だが、真の狙いは尖閣不時着水事故の真相究明であった。
政府与党を追及するための、恰好の舞台づくりだ。
国内が追及モードに傾くその一方で、国際社会もまた、この事故の行方を固唾をのんで見守っていた。
とりわけアメリカの出方は注目を集めていたが、事故は日米安保条約第5条に直結する懸案ではない。
同盟国だからといって態度表明を迫られるわけではなく、沈黙という選択肢も十分にあり得た。
ポーカー大統領の足元では、米国内の分断が深刻化していた。
秩序維持を名目に強権的な手法を繰り返す姿勢は、「権威主義への傾倒」と専門家に指摘されていた。
国際社会への関与も「アメリカ・ファースト」の理念で縮小傾向を強め、同盟国にとってはその動向が一層読みにくくなっていた。
しかし――
中国が第1列島線の内側で既成事実を積み重ね、自由航行を制限することは、アメリカにとって看過できない脅威となる。
国内外の圧力が複合するなかで、今回の尖閣事故に対するアメリカの発言は従来以上に重く響かざるを得なかった。
それは日本にとっても、中国にとっても、事態をさらに難しい局面へと押しやる危険を孕んでいた。
――そして、その時は、思いのほか早く訪れた。
中国に向けて発せられたのは、アメリカ大統領ブランドン・ポーカー氏のメッセージだった。
もっとも、それは今や日常となったSNSに投稿された、短い文言にすぎない。
「この度の人命救助にあたり、積極的な行動を取った中国当局を高く評価する。
私はつい先日も李建平主席と直接連絡を取ったばかりだ。
彼は素晴らしい友人であり、強いリーダーシップを発揮する人物だ」
――他国で起きた事故をめぐり、米国が中国を公然と称賛するのは異例のことだった。
しかも、そのやり取りの存在自体を、中国当局はすぐさま全面否定していた。
いつ、何を仕掛けるか予測できない――
その不可測性こそが、ポーカー氏をポーカー氏たらしめていた。
同じ頃、在日米軍第7艦隊佐世保基地を拠点とするサンアントニオ級ドック型揚陸艦 LPD-22 の尖閣周辺海域への展開が発表された。
「巡視船暗礁接触事故の調査と再発防止」と名目は穏やかだったが、それが単なる調査にとどまらないことは、誰の目にも明らかだった。
実際、宮古海峡を抜ける駆逐艦隊が連なり、即応態勢を誇示していた。
一方、中国海警局の船舶群は一旦は距離を置いたかに見えたが、完全に海域を離脱することはなく、むしろ隻数を増やし白い船体を並べていた。
その列には「台風被害の調査」を名目に、071型揚陸艦998号すら加わっていた。
中国外交部の報道官は記者会見でこう言い放つ。
「十段線は中国固有の主権領域であり、そこには台湾はもちろん、釣魚島(尖閣諸島)も含まれる。
その領域の安全は中国が責任をもって維持している。
よって、アメリカがその領域に不法に侵入することを強く批判する」
米中双方とも直接の武力抗争は避けつつも――決して退かぬ意思を示したのである。
「外洋への自由な航行」を声高に唱える中国。
その“自由”とは、あくまで中国流の解釈であり、世界基準のルールに準じたものではなかった。
主権を口実に自らの影響力を拡張するその手法と、封じ込めを図るアメリカの思惑が鋭く交錯していた。
中国海軍はすでに3隻の空母を就役させ、第1列島線を掌握し、その戦力は第2列島線を超えて、グアムやハワイまでも射程に収めていた。
対照的に、日本は“虎の威を借る狐”のごとく扱われ、この暗黙の衝突のなかで当事者でありながらも、国家としての主体性をほとんど示せなかった。
日本政府の曖昧な態度――それはすなわち、この国の姿勢そのものを物語っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
参節党党首・神田頼尚は、ブランドン・ポーカー大統領から強い影響を受けていた。
「アメリカ・ファースト」という自国第一主義は、「日本人ファースト」として移民や外国人労働者の排斥へと姿を変え、腐敗した「ディープステート(闇の政府)」の解体は、そのまま自由党打倒のスローガンに置き換えられた。
勝者と敗者を分けるグローバリズムへの反発。
ポピュリズムを恐れぬ姿勢。
そこには排他主義の影が差していたが、参節党の政策の随所に“ポーカー流”を思わせる色彩が濃く刻まれていた。
さらには参院選後、米紙のインタビューで彼はこう語っている。
「——型破りな言葉遣いの多くはポーカーから学びました……
私は、アメリカ大統領の“日本版”になるのです」
参節党の主要な支持層は就職氷河期世代である。
「自分たちは政治に顧みられてこなかった」という不信感をすくい上げることに成功したが、その発想を最初に掲げたのは、「忘れられた人々のための政治」を訴えたポーカー大統領だった。
――そして今回。
党内では政府の事故対応を問題視する声が渦巻いていた。
与党に撃ち込む“次の一手”としては、十分すぎる題材だったのである。
この日、党本部で開かれた幹部会議。
「神田さん、尖閣の動画をご覧になりましたか?」
「もちろんだ。だが、すでに拡散されすぎて発信源は特定できない状態のようだな」
「政府は森官房長官の声明で、巡視船が暗礁に接触したこと、救助できなかったこと……
そして民間機の乗員が無事収容されたことを発表しています」
しかし、台風被害の報道にかき消され、尖閣不時着水事故の真相はなお霧の中にあった。
中国への対応は不十分で、海警局の救助活動は不自然なほどにメディアから抹消されていた。
神田は言葉を選びながら口を開いた。
「政府は“救助は成功した”と言い張り、
巡視船の暗礁接触を、ただの海保のミスで済ませている。
だが、これを黙認することは、この国の安全保障を差し出すことに等しい。
そして黙る我々も、同罪となるのだ!」
国会で存在感を増している若手議員、吉井まりなが勢いよく応じた。
「国民は真実を知りたがっています。
あれだけの事故を、官房長官が定型句でごまかすなど許されません
今後の外交対応も“遺憾”対応に終わるでしょう」
一方で慎重論も出た。
「不信任案を出そうにも、野党共闘が必要です。
しかし、これまで参節党が多党を頼らずに築いてきたイメージや意義が失われる可能性があります。
参院選では勝った我々も、次の衆院で同じ結果を得られるとは限りません」
議論が錯綜する中、神田は机に手を置き、静かに全員を見渡した。
「政局を恐れて口を閉ざすのか。
それとも、数の論理に溺れる与党に“待った”をかけるのか。
――我々が存在する理由はどちらだ」
その一言で、執行部の方針は定まった。
参節党は数で与党を凌ぐことはできない。
だが「思想なき政治」に異議を突きつけることで、その存在感を際立たせることはできる。
内閣不信任案の提出には至らない。
――しかし、黙って従うこともしない。
「これは、国民のための行動だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
実は、参節党のほかにも、このところ勢いを増している政党がある。
民主国民党――通称・民国党だ。
代表の玉川慎一郎。
元財務官僚でありながら、数字に強い理知と、大衆に響く言葉の軽やかさを併せ持つ異色の政治家だ。
「国民の所得を増やす」――その単純明快なスローガンは、昨年の衆院選で幅広い層を惹きつけた。
今回の参院選でも、参節党の劇的な躍進に世間の注目は集まったが、その陰で民国党も着実に議席を積み重ね、新勢力としての存在感は輝きを増していた。
その民国党内部でも、政府対応への不満はかつてなく高まっていた。
会議の場では「今回こそ徹底追及をすべきだ」との声が相次ぎ、与党を糾弾する論調は普段以上に鋭さを増していた。
政府の定型句として繰り返された「遺憾砲」さえ、今回は影を潜めた。
出さないのではなく、出せない――
その沈黙こそ、政権の弱さを如実に物語っていた。
ポーカー大統領の声明が発せられたことで、アメリカや中国の狙いも幾分か輪郭を帯びた。
これでようやく、日本政府からもはっきりとした声明が出ざるを得ないだろう。
だが、そのわずかな一言が、どれほどの政治的コストを伴うのか。
防衛費の増額は避けられず、加えて石橋政権が約束した「80兆円規模の投資」の具体化にも、強い圧力がかかるだろう。
玉川は静かに情勢を見定め、やがて訪れる一手を冷静に思い描いていた。
少数多党となった国政の舞台で、それぞれの党が独自の色を放ち始めていた。
戦後、長らく「自由党一強」のもとで営まれてきた政治も、その構図を維持することはもはや困難だった。
しかし自由党内には、その理由を直視できず、従来通りの施政を良しとする空気が根強かった。
たとえ民主性を損なおうとも、「かつての一強」を取り戻そうとする声が支配的だったのである。
自由党は繰り返し、自らが与党であり続ける意義を説いた。
――施政のスピード、外交の実績、安全保障の安定、そして現実的な財源。
だが今、その言葉はもはや国民の耳に響かなかった。
人々は直感していた――このままでは未来は開けない、と。
胸に突き刺さったのは、むしろ新興勢力の声だった。
国民が求めていたのは、“どの党がより良いか”ではない。
問われていたのは、“どの政策を、いかに速やかに誠実に実現できるか”。
党派の思惑や政治力学に縛られるのではなく、国益と主権を第一に考える姿勢。
それを共有できるなら、たとえ異なる政党であっても――真に国民のためとなるならば、連携は必然だった。
彼らが渇望していたのは――この国の未来を、自らの手で紡ぐという確かな物語であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




