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23 災害対策本部の足あと

(※ 基本は火曜・土曜の朝9時に更新。ときどき追加更新することもあります)


日頃のご愛読に、心から感謝しております。

これからも、どうぞ温かく見守っていただければ幸いです。


第4章 尖閣不時着水事故  第23話 災害対策本部の足あと


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


災害時に内閣府に設置される「災害対策本部」。

官邸の地下1階――


厚い鉄扉を抜けた先の一室には、全国から寄せられた情報が集約され、壁一面には状況図や被害報告が投影されていた。

停電に備えた独立電源と専用通信回線を備え、非常時の中枢にふさわしい緊張が漂っていた。


11月12日――


台風19号の消滅が気象庁から発表されると、防災庁は小牧基地にいた石橋首相を通じ、ただちに声明を発表した。


首相は、民間機を活用した救援物資輸送を「自らの決断」と強調した。

自衛隊や現場映像を交えて指揮を執る姿を演出し、本部長としての存在感を際立たせていた。

それは危機対応として見事な政治的パフォーマンスであり、小牧基地で撮影された映像は繰り返しニュースで流された。


復旧に向けた被害状況が矢継ぎ早に流れ込む中、机を囲む担当官たちの表情には疲労と苛立ちが色濃く刻まれていた。


やがて災害対策本部に隣接する会議室には、状況確認と称してごく少数の自由党議員が姿を見せていた。

だがその関心は災害対応よりも、党勢の維持や多党化への対応に傾いていた。

防災庁設置を自派の功績に取り込もうとする思惑があからさまに漂っていたのである。


やがて議論の流れは「双子嵐」の被害から離れ、政治的成果の演出へと傾斜した。

空気は緩み、やがて議員たちの話題は“政治勉強会”の開催場所や会食の段取りにまで及び、場違いな盛り上がりを見せ始めた。


「ここは“災害対策本部”ではなく、正式に“防災庁本部”と呼ぶべきだ」

「そうだ。指揮系統は防災庁を経なければならん」


会議室に集まった議員たちは、まるで成功の匂いに誘われたかのようだった。

やがて誰からともなく結束や団結を訴える声が上がり、室内は異様な熱気に包まれていく。

そして終いには、場当たり的な連立の可能性にまで話が及んでいった。



気象庁からの報告や物資配布に一応の目途がつき、本部内には安堵の色が広がりかけた、その時――


「尖閣諸島近海にて、民間航空機が不時着水、その後漂流状態にあるとの連絡が、海保から入りました」


報告の声に、本部は一瞬でざわめきに包まれた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


時刻は15時10分。


さっきまでの喧噪は嘘のように消え、本部には奇妙な静寂が広がった。

会議室にいた議員たちの姿はいつの間にか消え、残されているのは空の机と椅子だけだった。

担当官らは慌ただしく本部員を探し、電話で連絡を取り始めた。


しかし、本部長である石橋首相は取材対応のため小牧基地におり、他の本部員も森村幹事長とともに「防災庁設置推進」の会議で散り散りになっていた。

“官庁の縦割り”を解消するはずの防災庁を推進している最中に、肝心の首相が本部を不在にしている――皮肉な構図であった。


やがて石橋首相との連絡はついたものの、返答は「こちらに到着できるのは夕刻になる」というものだった。


その間にも新たな報告が次々に舞い込み続き、本部は再び混乱の渦に巻き込まれていく。

担当官たちは本部員到着までの間、情報を整理し続けるしかなかった。


報告の要点は以下の通りである。


=======

・不時着水したのは UAC-301。

・同機は政府要請で与那国へ救援物資を運び、その帰路に故障。

・「うちなーエアーコミュータ」本社に対し、“公文書”及び、“海保への通報”について確認済み。

・海保は救助に巡視船一隻(尖閣)、救助ヘリ(石垣)、航空機(那覇)を派遣。

・救助に向かわせた PL-82「あやせ」が船底接触により走行不能となったと報告。

・中国海警局「29-01」が不時着水現場に向かっていることを確認。


・また事故後、「よかぜ」が現場に急行。

・中国海警局への監視任務は一時的に不在となるが、佐世保・博多から新たに巡視船を派遣。

=======


ホワイトボードには整理された上記の報告が並び、太いマーカーで『尖閣民間航空機不時着水事故』と大書されていた。

その前に立つ担当官のひとりが、低くつぶやいた。


「災害は災厄の連鎖を生む……のか……」


室内に漂ったのは、つい先ほどまでの安堵とは正反対の、張りつめた緊張だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


15時45分――


海保航空機から第一報が飛び込んできた。

「現場上空に到達。……漂流するゴムボートを確認。生存者3名、手を振っているのが見える」


一瞬、本部の空気が緩んだ。


「周辺海域に、低速で移動中の損傷したPL-82『あやせ』を確認。……さらに、中国海警局所属の船舶が現場方向に接近中」

だが、その直後に続報が入る。

「無線にて海警局に『遭難者救助は日本側が主導する』と連絡したが……応答はなし。

 繰り返す、応答は一切ない。」


その報告に、室内はざわめきに包まれた。



――それから約20分後。


救助ヘリが現場に到着し、通信が入る。

「こちら『みさご2号』。現場上空に到達……しかし、中国海警局の船がすでに救助活動に取りかかっている!」


室内に重苦しい沈黙が落ちた。


「救助活動の制止、あるいは対象の奪取は――法的に不可能です。接近すれば、乱気流による二次被害の恐れもあります」


通信士の声は、淡々と事実を告げるにすぎなかった。

その報告に、本部の誰もが言葉を失う。

救助を目の前にしながら手を出せない――その無力感だけが、机を囲む者たちの胸に重く沈んでいった。


「映像、入ります」

管制室の声とともに、壁面モニターに現場映像が映し出される。


灰色の波間に、黄色いエンジン付きゴムボートに引かれる遭難者のボート。

必死にこちらへ手を振る乗員の姿が拡大され、室内に小さなざわめきが走った。


映像は切り替わり、海面を割って接近する白い船影を映し出す。

「中国海警局、船番号29-01……救助動作に入っています」


船上からは救命ネットが舷側に垂れ下がり、

揺れるボートから必死に移ろうとする人影と、それを支える船員。

そのすぐ頭上を、救助ヘリのローター音がかき消していく。


「この高度では乱気流が危険です。……一時退避せざるを得ません」


通信と同時に映像が揺れ、やがて機体は上昇した。

画面に残ったのは、救助を進める海警局の船と、遠ざかるボートだけ。

静まり返った本部で、誰もがその光景を凝視していた。

映像が暗転しても、沈黙は解けなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


やがて本部員らが相次いで到着し、担当官からの状況報告を受け始めた。

本部員――すなわち閣僚や与党幹部の議員たちである。


彼らは口々に、なぜこんな事態になったのかを問いただした。

責任はどこにあるのか、判断の誤りは誰にあったのか。

矛先は次第に、UAC301という「民間機」の投入そのものへと向けられていった。

それは政府が主導して下した決定であり、結果として外交的リスクを抱え込むことになった――


そうした非難めいた空気が広がっていた。



――18時を回ろうとする頃だった。


石橋首相がようやく本部に到着した。

疲労の色を隠さず姿を現した首相を前に、本部はただちに緊急会議に移行した。


議題は3つ。

第1に、不時着した民間航空機の事故対応と乗員の安否。

第2に、現場で主導権を握った中国海警局への外交的対応。

そして第3に、国際的批判を回避するための情報発信と世論対策である。


会議室には緊迫した空気が漂った。

「救助を妨害できない以上、中国に人命救助の功績を奪われた格好になります」

発言したのは、外務省アジア局長の長谷川であった。

本来なら土屋外務大臣が担うべき報告だったが、COP30出席のために不在。その空席を埋める形で、局長が本部に出席していたのである。


「それでも我々は“主権”を示さねばならない」

小谷防衛大臣が机を叩くように言葉を強める。


しかし石橋首相はしばらく沈黙したまま、壁面モニターに映る現場映像に視線を注いでいた。

そこには、中国海警局の船に収容される救助者の姿が静止画として映し出されていた。


やがて首相は低く、しかしはっきりと口を開いた。

「海保の船底接触ですが……なぜ、そのようなことが起きたのか――

 私は、そこを問わざるを得ません」


森官房長官が続ける。

「救われた民間人はどうなっているのでしょうか?依然として中国海警局の船に?」

「現在は、海保の巡視船に移送済みとの報告であります」

担当官が即座に答えた。


首相は淡々と告げた。

「ふむ……外交は次に考えるべきことです」


その言葉に本部の空気が一変した。

森村幹事長も何かを察したように口を開く。

「世論や報道への対応も、あわせて検討せねばなりませんな……」


それを合図に、本部員らも次々に声を上げる。

「やっと世論の動揺が収まってきた矢先に……どう説明しろと言うんだ」

「我が国の主権海域で、中国海警局に救助を委ねるなど、断じて許されぬ失態だ」

「いやはや……呆れるほかない」

議論は事態の打開策よりも責任の所在に傾き、互いに矛先をかわそうとする思惑ばかりが浮かび上がっていった。


そこで、石橋首相が場を制するように告げた。

「民間人が無事である以上、この事態を収めるには、まず海保から声明を出し、謝罪を示す――

 それが筋というものでありましょう」


重い言葉に、本部員らは一斉に頷いた。

首相はさらに続ける。

「記者クラブへは、この件について自粛を促すのが適当でしょう。

 国内向けには、民間人を無事に医療機関へ送り届けた事実を発表する。

 そのうえで、海保が暗礁に接触する事故が発生したことを公表する。

 そして外交案件につきましては――

 これは一旦、土屋大臣の帰国を待って取り組む。

 その判断で良いのではないかと考えます」



誰もが知っていた。

この事故が、政府の曖昧な声明で収束するはずなどないことを。

外交問題へと膨張し、日米安保を揺るがし、やがて国際社会に「尖閣は日本領にあらず」という既成事実を刻み込むことを。


だが石橋には、即座の決断ができなかった。

中国に――アメリカに――どう向き合うのか。

誰もが目を逸らし、責任を押しつけ合った。

仮に背負ったとしても、何事もなかったかのように収める術など、誰も持ち合わせていないからだ。


残されたのは“事なかれ主義”と呼ばれる日本特有のイデオロギー。

そこに正義を語る声はなく、ただ互いに庇い合うだけの保身の構造だけが横たわっていた。


そして誰もが、アメリカからの問いを恐れ、その瞬間が訪れないことを願った。


――だが未来を切り拓き、挑む言葉を口にする者は、最後まで一人も現れなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、

特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。

「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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