22 海上保安庁 巡視船の足あと
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第4章 尖閣不時着水事故 第22話 海上保安庁 巡視船の足あと
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「避泊」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。
聞き慣れない響きから、旅行や観光に関わるものを連想するかもしれない。
“避”とは何かを避けるという意味、“泊”は家を離れて泊まる——
そうした日帰り旅行のような響きに、思えても不思議ではないだろう。
しかし、実際にそれに触れる機会は、一般の人にとっては生涯ほとんど訪れることはない。
実は、“泊”には船を岸にとめておくという意味もある。
「避泊」とは、台風など荒天時に大型船舶が港を離れ、外洋に退避してやり過ごす行動を指す。
港は一見すると安全に思えるが、暴風雨の中では停泊中の船が岸壁に衝突して損傷する危険があるため、むしろ外洋に出たほうが安全とされている。
もちろん、すべての船を陸揚げできれば理想的だが、現実には不可能である。
だからこそ「避泊」が必要になる。
台風の発生が予測されると、海上保安庁内に設置された台風対策委員会から直ちに指令が下される。
各港には「入出港禁止」や「避泊勧告」が通達され、全船舶に行き渡る。
いかに大型巡視船といえども、荒れ狂う台風を正面から耐え切ることはできない。
比較的安全とされる航路へ誘導され、船は外洋へ退避していく。場合によっては、安全が確保できる別の管区へ移動することもある。
いずれにせよ、台風下の海は危険極まりない。
過去の経験が示すのは、港に係留しておくよりも、外洋でやり過ごすほうがはるかに安全だという事実である。
こうした状況は国籍を問わず、すべての船に等しく降りかかる災害である。
日本の領海では、外国船舶の停泊や錨泊は原則として禁止されている。
ただし荒天や海難、人命救助などやむを得ない理由がある場合に限り、例外的に認められてきた。
ところが国際摩擦の高まりによって、避泊という安全確保の手段ですら、その在り方を慎重に考えざるを得なくなっている。
近年、避泊の重要性は一層増しており、台湾周辺の外洋に退避する例も少なくない。
しかし、国際情勢の緊張が続く中で、かつては暗黙の了解とされてきた避泊さえも「問題行動」と指摘される事態が生じつつある。
そのため、避泊と同時に周囲の船舶の監視を行う任務を兼ねることも少なくなかった。
実際、台湾近海には台風のさなかでさえ中国海警局の船影がとどまり、常に視界の片隅で捉え続けなければならなかった。
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双子嵐が迫るなか、第11管区の巡視船群は一斉に母港を離れ、避泊に移った。
尖閣海域を警備する専属部隊も同様に退避したが、奄美や鹿児島の港はすでに民間船舶であふれていた。
九州南部の港も「入出港禁止勧告」が出され、巡視船の拠点としては機能しなかった。
避泊は通常、数日から長くても1週間程度を想定する。
しかし台風19号が襲来した段階では、誰もが今回のような長期停滞による未曽有の災害を予測できなかった。
さらに台風20号が発生し双子状態となると、第十11管区の巡視船は第7管区へと後退し、博多湾や佐世保港を臨時の拠点とし、補給・任務交代を行った。
台風のさなかであっても秩序が保たれたのは、管区間の緊密な連携が機能していたからである。
一方、沖合で尖閣の監視任務を続けていたのは、6000トンクラスの大型巡視船、PLH-035「いしがき」をはじめ、第10管区の「あまくさ」などの大型船であった。
暴風域を避けつつも、尖閣海域から目を離すことはなかった。
巡視船、PL-082「あやせ」。
総トン数1700トンの中型船で、石垣海上保安部に所属し、尖閣海域警備専属部隊の中核を担っている。
その姿は佐世保港の岸壁に寄せられ、次の出港命令を待っていた。
任務は明らかである。
台風が過ぎ去れば、再び尖閣へ戻らねばならない。
長期の荒天にさらされ艦体も乗員も疲弊していた「いしがき」と交代するため、「あやせ」と「よかぜ」が現場へ向かうこととなった。
11月11日、まだ朝靄の残る港。
気象庁が「台風明け」を発表するよりも早く、本部からの指令は届いていた。
午前6時過ぎ、巡視船「あやせ」はタグボートに曳かれ、船長・海川廉の「出港」の合図で静かに佐世保港を後にする。
続いて「よかぜ」が後方に姿を現し、2隻は東シナ海へと向かっていった。
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11月12日――
尖閣諸島近海で、監視任務のバトンタッチは滞りなく終わった。
台風明けの余波で湿った風が吹き、残る高波が甲板を時折打ったが、乗員たちは変わらず周囲を見守り続けていた。
「いしがき」からの申し送りどおり、海警局の船2隻が魚釣島の接続水域ぎりぎりに姿を見せていた。
一隻は「29-01」、もう一隻は「10-16」。
その姿もいまや常態化した風景の一部であり、特に変わった動きもないまま、天候の回復とともに時間は静かに流れていった。
ブリッジで当直に就いていた航海士、筧梨奈がレーダー画面から目を離さずに声をかけた。
「海川船長、今日は航空機が北側を迂回していますね」
船長は双眼鏡を下ろし、短く答える。
「四国へ向かっている台風20号の影響だろう。報告のとおりだ」
筧は静かに頷き、再び航跡を確認した――そして異変に気づく。
「船長、この動き……おかしくないですか?」
海川船長が双眼鏡を掲げ、声を強めた。
「こちらも確認できた。白煙を引きながら高度を落としている」
筧がレーダーを見やると、航跡の表示は急速に下へ沈み込んでいた。
「UAC301です。南から進入中!」
時刻は14時28分。
尖閣諸島の南小島に向け、機体は白波立つ海面へと白煙を引きながら降下していく。
「……海面への不時着水か!」
船長の言葉と同時に、ブリッジの空気は一気に張り詰めた。
艦内に警報が鳴り響く。
「全員配置につけ! 本部へ報告!」
突然舞い込んだ事態に、佐世保から尖閣へ戻ったばかりの巡視船「あやせ」は、知らぬ間に混乱の真っただ中へと突入していった。
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筧はレーダー画面を見ながら、UAC-301を追い続けた。
しかし、航空機の影はなくなり、ビーコンだけとなった。
その信号は南小島の東側から発せられていることから、その付近に漂流しているのだろう。
本部との連絡を終えた海川船長は、即座に今後の方針を告げた。
「あやせ」は監視任務を切り替えて救助へ。「よかぜ」は引き続き監視を継続する。
応援は手配されるが、石垣からではなく博多、佐世保からの出動となるため、頼りになるのは救助ヘリか航空機になりそうだった。
筧がレーダーを監視し続けるなか、別の航跡が動きを見せた。
「船長、海警29-01がこちらと同じ方向へ針路を取っています。10-16はその場に留まっています」
海川船長は短く息をつき、周囲を見渡した。
「……同じく救助に向かう気か。筧、至急連絡を取ってくれ」
本部から追加の指令が届いた。
海警局の動きはすでに把握しているとのことだったが、なおも「威信をかけて救助を完遂せよ」との命が添えられていた。
海警局は魚釣島の北側から回り込むルートを取っている。
海川は即座に進路を指示した。
「最短ルートは北小島と南小島の間を抜ける航路だ。高波は残っているが、時間を惜しむ余裕はない」
ブリッジの空気は一層引き締まった。
乗員たちはそれぞれの持ち場に散り、救命艇降下の準備と応急資材の確認に追われる。
「あやせ」は舳先を東に切り、荒れる海原を抜けて漂流する機影のもとへ向かった。
「よかぜ」や本部との交信は途切れることなく続いていた。
速度を増したせいか、船体の揺れはいっそう激しくなった。
舵を握る手に汗が滲んだ。
突然、横波が押し寄せ、さらに大きく船体が傾いた。
直後、鈍い衝撃が艦内を震わせる。
重苦しい空気のなか、機関は停止され、船体の点検が始まった。
誰も口には出さなかったが——「中国の方に先を越されるかもしれない」という予感が、乗員たちの胸を冷たく締め付けていた。
機関室からの報告に、海川船長は目を閉じて短く息を吐いた。
「……全速は無理だ。救助の主導は応援に譲る。我々は周辺を押さえろ。海警の動きを監視し、ヘリの進入路を確保するんだ」
その直後、ブリッジの片隅から声が飛んだ。
「船底の損傷は軽度です、低速ならまだ進めます! このまま救助を遂行しましょう!」
若い士官も続く。
「残りの距離はわずかです。8ノットを切っても到達は可能です。ここで止まっては……中国に救助を奪われます!」
焦燥と怒りのこもった声が、ブリッジの空気を揺さぶった。
「中国に先を越されるわけにはいかない」
――その思いは、誰の胸中にもあった。
だが海川は舵輪を見据え、短く首を振った。
「船はすでに軋んでいる。海中確認も済んでいない以上、無理に走れば二次災害だ」
沈黙が落ちた。
救いたい、だが無理はできない――矛盾する感情が、甲板の空気を重く沈ませる。
「本部には連絡済みだ。救助ヘリもまもなく到着する」
「あやせ」は舳先をわずかに修正し、低速で荒れる水面を進んだ。
直接の救助はできない。だが遭難者を見捨てるわけではない。
海川の胸に浮かんだのは――
「二次災害を出さぬこともまた救助だ」
その重い言葉だった。
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※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




