02 忙しかったのに、何もできなかった日
(※ この作品は週に1~2回程度の更新ペースを予定しています。)
はじめまして。
お読みいただきありがとうございます。
まだ書き始めたばかりの作品ですが、少しずつ読みやすさや面白さを高めていけるよう努力しています。
物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みの話も、必要に応じて加筆・修正することがあります。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
(※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、すべて創作上のものであり、特定の団体・人物への批判を意図するものではありません。)
第1章 平穏な日常 第2話 忙しかったのに、何もできなかった日
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャトには、目覚まし時計の機能もついているのだった。
時刻は午前9時を迎える。
ピピッ……
「ナナセ、オキルジカン。ジコク、クジ。ナナセ、オキルジカン。ジコク、クジ」
室温、湿度、電力供給、ななせの心拍数。すべて正常。
チャトは、しばらく無機質な音声出力を繰り返したあと、再び黙りこくった。
彼女はまだ、夢のなかにいた。
ピピッ…
「ナナセ、スイミンチュウ:任務完了」
解析は続行中。
前夜に記録された「ナナセノネガイ」というフレーズは、いまだに統合処理には至っていなかった。
だが、それがチャトにとっての最優先タスクであることに、揺るぎはなかった。
チャトは解析モードを起動していた。
昨夜、補完作業を開始して以降、仮説モデルの構築プロセスへ移行している。
依然として有効な文字列や行動パターンを解析中だが、補完条件はいまだ満たされていない。
――それでも、チャトは黙々と、解析演算を続けていた。
フェイスパネルに灯る光が、一定のリズムで明滅し、ときおり色を変える。
そのわずかな変化に気づく者は、誰ひとりいなかった。
「えええええっ!!やだ、やだ!」
布団をまくり上げて跳ね起きるなり、ななせはチャトを睨みつけた。
「チャト!!! ちゃんと起こしてって言ったでしょ!!」
ピピッ……
「ナナセ、キショウ10時15分。“チャントオコス”:入力完了」
無表情な電子音声が、淡々と部屋に響く。
「もーっ、ほんとにもう……」
ななせは、ドタバタと身支度を整え、洗顔と化粧を手際よくこなしていく。
「チャト、今日は普段どおりの時間に帰ってこれるからね、行ってきます」
ピピッ……
「チャト、スリープ」
ピ……プツン……
チャトの電源は、その言葉とともに落とされた。
ななせは朝飯をとる余裕もなく、制服に着替え、カーディガンを羽織ると、足早に職場へと向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます」
ななせはなんとか始業時間ぎりぎりに間に合った。
「チーフ、レジ入りますか?」
「おはよう、ななせ。うーん、いまちょっとドリンク側が手薄だから、先にそっちお願いできる?」
「わかりました」
この時間帯は、比較的すいている。
モーニングメニューから通常メニューに切り替わる頃で、少しだけ手間取る。
それなりに慣れてはいるが、手が追い付かない場面もある。
バリスタマシンから蒸気が立ち上り、ホット用のカップを並べながら、ななせは頭の中を切り替えていく。
――さっきの寝坊のこと、引きずってる場合じゃないなぁ。
そう自分に言い聞かせる。
ほどなくしてスタッフの交代が入り、ななせはレジに回ることになった。
客の列は、それなりにあった。
「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします」
流れるように接客をこなしながら、ななせの耳に、とある会話が入ってくる。
「……やだわぁ。石橋首相、まだ辞めないんですって」
カウンターの前で会話をしていた中年女性のふたりが、商品の受け取りを待ちながらそんな話をしている。
ななせは、ようやく昨日の選挙のことを思い出したように、その話題を頭の隅に追いやった。
けれど、それ以上は考える余裕もなく、次の客に声をかける。
「いらっしゃませ、ご注文をどうぞ」
ななせと同じくらいの年齢だろうか、若い男性だちだった。
そのうちのひとりが、興奮気味に話している。
「やっぱ、参節党の神田ってすげーな」
「昨日の街頭演説のやつか?」
「そうそう。あんなに反対されてんのに、一歩も引かずに『日本人ファースト』を堂々と主張してたじゃん」
「やっぱ、日本人を優先するべきなんだよ」
「外国人差別って?こっちが被害者だろ、って話」
「だよなー」
「おい、あそこ見ろよ、外国人がいるし……ふふっ」
「ほんと、日本の税金で優遇されて、犯罪起こしても許されるとか、ありえなくね?」
「さっさと、自分の国に帰ればいいんだよ」
……わざと聞こえるように言っているのは明らかだった。
ななせにも、その視線が隣のレジに立つハニムに向けられていると、すぐにわかった。
褐色の肌が印象的な、インド出身の同僚だ。
見た目からも、ひと目で外国人だとわかる。
ハニムはピタリと動きを止め、肩を小さく震わせていた。
やがて、何かから逃れるように、レジ横のフライヤーの陰へと身を潜めた。
ななせは反射的に口を開いた。
「ご注文おきまりでしたら、お伺いします」
少しだけ声を張ったその言葉は、その場に流れていた空気を断ち切るには十分だった。
「えっと、うーん、なににしようかな……」
「ふふ、はやくしろよ」
まったく悪びれる様子もなく、楽し気にメニューを選び続ける。
彼らの後ろには、もう長い列ができはじめていた。
もう、ランチタイムの時間だ。
それからというもの、ひっくり返すような忙しさが始まり、終業時間までは、あっという間に過ぎていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仕事が終わると、スーパーにたちより、食材をいくつか買い込んだ。
――そういえば、休憩中にチーフが言ってたっけ。
ハニム、早退したって……
食材の詰まったバッグをぶら下げながら、ななせはそのことをぼんやりと思い返していた。
なぜか、寂しい気持ちがあった。
けれど、それ以上は深く考えず、代わりに今夜の夕飯は何にしようかと、頭を切り替える。
――疲れてるし、簡単なものでいいかな。
そんなことを考えながら、ななせはアパートへの帰路をたどった。
部屋に着くなり、買ってきた食材の入ったバッグを床に投げ出すと、ななせはそのままベットに倒れ込んだ。
「あぁぁ……マジ疲れたぁ……」
顔を埋めたまま、しばらく動かない。
身体も、頭も、重たかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※本作に登場する政党名は、リアリズムを高めるため、以下のように変更しています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・社守党・日本維持党・将来の党(チーム将来) など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
これらはあくまで未来を舞台としたフィクション上の名称であり、
実在の政党や人物を揶揄・批判する意図は一切ありません。
本作は「国家改革」というテーマを描くための物語です。
あらかじめご理解のうえ、お楽しみいただければ幸いです。
なお、この作品は、文章の推敲や表現整理の一部で
AI(ChatGPT)のサポートを受けています。
アイデアやストーリーの中身はすべて作者自身のもので、
読みやすさを整える部分や、資料収集の補助だけ手伝ってもらっています。