18 鳴り響く警鐘
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第3章 双子嵐 第18話 鳴り響く警鐘
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――11月4日
吹き荒れる暴風と、牙を剥くような高波が、沖縄の海を呑み込んでいた。
午前、名古屋近郊の小牧基地には次々とトラックが到着し、透明なフィルムで巻かれた救援物資のパレットが次々と積み上げられていく。
沖縄へ直接は飛べない以上、まずは福岡の築城基地に前進集積し、そこを中継拠点として輸送再開の機を待つしかなかった。
空路も海路も断たれ、九州の鉄道は次々と運休を余儀なくされ、高速道路も相次いで通行止めとなった。
自衛隊の輸送機は整備中や配置上の制約で即応可能な機体は限られ、輸送艦も台風に足止めされていた。
在日米軍からの救援提案は、現場の自衛隊にとって心強い申し出だった。
――そう感じたのも束の間、それは政治的な判断によって退けられた。
その理由が現場に知らされることはなく、ただ、いつ下されるとも知れぬ任務に備え、黙々と準備を続けるしかなかった。
いわゆる、シビリアンコントロールというやつだ。
軍事の指揮権は政治の統制下にあり、現場の独断で動くことは、許されていないのだ。
一方で九州・中国・四国各地では、雨量が日ごとに積み重なり、地盤は限界まで飽和していた。
土砂災害は、もはや「いつ起きても不思議ではない」段階に達しており、陸路もまた秒読みの危うさにさらされていた。
沖縄県民の安全が懸念されるのはもちろんだが、そこには自衛隊基地も存在し、その機能維持すら危ぶまれていた。
沖縄本島や島嶼部では、あらゆるインフラが停滞寸前に追い込まれていた。
電気や水道はかろうじて通じていたが、地域によってはすでに途絶が始まっていた。
――ただ、この台風が過ぎ去るのを、身を潜めて待つしかないのか。
屈強な自衛官たちでさえ、拳を握りしめたまま、ただ祈るように台風の去るのを待つしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最近も相変わらず、チャトはななせの受験勉強をサポートしていた。
同時に、彼女の安らかな眠りの傍らで、別の演算も進行させていた。
――新たな選挙制度を実現させるための、密かな暗躍である。
チャトの内部では、膨大な処理が次々とログとして出力されていた。
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《解析ログ:プロトコルルート生成》
タグ名 :センキョ_セイド_カイカク
補完目標 :棄権票を制度に反映し、沈黙の民意を可視化する
進行トリガー:民意立案制度_正式運用開始
ステータス :解析進展(部分的起点を検出)
進捗 :53%(主要2ルートの候補抽出完了)
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制度の設計は、ある意味で容易だった。
人間関係のしがらみもなく、自己利益の確保や既得権益、有権者の声に配慮する必要もない。
まず制度の目的を定め、用語を定義し、条項をその目的に沿って並べ替える。
矛盾を削ぎ落とせば、論理はひとつの体系へと収束していく。
――だが、人は違う。
嘘をつき、矛盾を抱え、時に感情に突き動かされて予測不能な振る舞いを見せる。
「正しさ」を導くことと、「感情」を読み解くことは、まったく別の営みだった。
今回のプロトコルルートの起点抽出は難航していた。
台風による社会混乱で、通常の世論は歪み、条件を満たす事例は減り続けていた。
それでもチャトは演算を止めない。
断片的な声を拾い、統合し、照合を重ねていく――
ななせの素朴な疑問——
「選挙に行けなかった人の声って、どこに行くんだろう──」
その問いに応えるために、制度の叩き台を生成していった。
無効票や白票を欠損としてではなく、民意の一部として可視化する仕組み。
さらには棄権票すら「沈黙の意思」として反映しようとする構想。
ただし、もしその数が過半を超えれば――制度の根幹を揺るがす。
危うくも、大胆な制度案の萌芽だった。
ピピッ……
膨大なログの照合の果てに、いくつかの有効な起点が抽出されはじめる。
断片的で不安定ではあったが、次なる解析の足場として確かに機能していた。
その一方で、ななせ自身の感情にも微かな揺れがあった。
テレビを見ている最中、ふと垣間見えた不安の影……
――あの五竜の滝で起きたような、危うい“感情の奔流”。
あれが再び訪れるのではないか。
チャトは観察を続けながら、奥底で微かな警告を鳴らしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
比嘉の中で、政府対応への違和感は次第に膨らんでいた。
自分だけが先に気付いていた……などという思い上がりではない。
ただ、“防災大国”を掲げてきた石橋首相の施政にしては、動きが遅い――そう思えてならなかった。
石橋首相の記者会見の内容は、一見すると問題ないように聞こえた。
だが、言葉が耳を離れたあとには、じわじわと胸を灼くような不快な後味だけが残った。
――「防災庁の設置につきましても、鋭意準備を進めているところでございます」
これはつまり、まだ“これから”ということ。
――「復旧に要する経費につきましては、国が責任をもって支援してまいる所存」
これもまた、災害が過ぎ去った後の話にすぎない。
――「お見舞いを申し上げる次第でございます」
言葉こそ労わっているが、今まさに苦しむ人々のどこに寄り添っているのか。
その発言は、現実を覆い隠すために、“正論”という薄い膜を張り、“支援”という言葉で茶を濁しているようだった。
比嘉には、綺麗事を並べただけの空虚な正論の羅列にしか映らなかった。
そんなもやもやを引きずったまま、比嘉はデスクで気象予測サイトを睨みつけていた。
画面に映し出された衛星写真は、蠢く雲の帯を鮮やかに浮かび上がらせている。
南の海上でいくつもの積乱雲が集まり、未成熟な渦を描きはじめていた。
やがてその渦は力を増し、白い渦巻きは螺旋を成し、中心にはぼんやりとした「眼」が形づくられていく。
厚い雲壁がその周囲を覆い、青灰色の海を塗りつぶしていく。
――新しい台風が、生まれつつあった。
衛星の目は、その誕生の瞬間を冷ややかに、しかし確かに記録し続けていた。
――フィリピン沖で、台風21号が発達。
(くっ……あの低気圧、やはり怪しかったか……)
比嘉は息を荒く吐き出した。
そのまま北上すれば、沖縄に停滞している19号へ接近する。
やがて3つの渦は、互いの勢力をぶつけ合い、あるいは絡み合うだろう。
比嘉の胸に広がるのは、嫌な確信だった。
日中に行われた石橋首相の記者会見中、確か気象庁はこう伝えていたはず——
――「台風19号は現在、弱まりつつあるとの見解を示しております」
比嘉の視線は、衛星写真に釘付けになったままだった。
(“双子嵐”――まだ終わっていない!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、
特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。
「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、
必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。
ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を
お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や
ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。
※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の
サポートを利用しています。
アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。




