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17 ツインテンペスト

(※ 基本は火曜・土曜の朝9時に更新。ときどき追加更新することもあります)


日頃のご愛読に、心から感謝しております。

これからも、どうぞ温かく見守っていただければ幸いです。


第3章 双子嵐ツインテンペスト  第17話 ツインテンペスト


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


テレビ画面から、静かなナレーションが流れていた。

画面の端には、白いテロップが浮かぶ。


【特集】“ツインテンペスト”――双子嵐ツインテンペストの誕生


気象現象を示すだけの名称すぎない。

それなのに、その響きは耳に届いた途端、人々の心をざわめかせた。

まるで災厄を振りかざす魔獣が、いま目を覚ましたかのように。

黒々と渦を巻く2つの台風が衛星映像に浮かび上がる。

その双つの眼光は、不気味なほど静かに、獲物を逃すまいとこちらを凝視していた。


——2025年10月下旬、沖縄南海上で姿を現した。


10月20日に確認された熱帯低気圧は、台風19号に発達するには時間はかからなかった。

やがてそれは、沖縄本島を抱え込むように停滞する――

“双子嵐”と呼ばれる未曽有の災害の幕開けである。


「台風19号が発生したのは10月22日。

 急速に勢力を強め、沖縄周辺に居座りました。

 中心気圧は急速に低下し、26日には940hPa、最大瞬間風速50メートルを超えています。

 続いて台風20号が10月29日に発生。

 進路は19号を追うように南東から接近、停滞に入りました。

 2つの台風は互いに干渉し合いながら、沖縄とその周辺を覆い続けています」


画面には荒れ狂う風雨の爪痕が映し出される。

屋根が剥ぎ取られた家屋、濁流に沈む道路、横転したトラック。

さらに、断線して火花を散らしながら倒れる電柱――

映像は次々と切り替わり、災害の猛威を突きつけていた。


「この“ツインテンペスト”は前例のないかたちで、

 一つの地域を“依然分断し続けている”災害です。

 発生からすでに10日が経過。

 沖縄および島嶼部への救援、物流は、深刻な遅れを余儀なくされています」


避難所に身を寄せる住民の声が流れる。

「いったい、いつになったら、わんねーらの声や届くんばー……」

「食料も水も、あとどれだけ持つか、わからんさ……」


薄暗い照明、ざわめき、押し殺した子どもの泣き声。

画面には、不安と疲労が交錯する避難所の空気が映し出されていた。


――そして、10月29日の映像に切り替わる。


東京の空は晴れていながら、どこか薄曇り。

国会前では、民意立案制度可決を喜ぶ政治家たちが笑みを浮かべ、記者に囲まれている。

避難所の緊迫感とは、あまりにも対照的だった。


ナレーションは淡々と続く。


「気象庁は11月1日早朝の会見で、

 台風19号の中心気圧は950hPa台までやや上昇し、

 最大風速も40メートル前後に弱まっていると発表しました。

 一方で20号は依然として発達を続け、

 二つの渦が互いに干渉する“藤原効果”は弱まりつつあるものの、

 進路は依然として定まらず、停滞は続く見通しです。


 『今後の展開を正確に予測するのは極めて難しい』

 ――気象庁の担当者は、そう述べています。」


最後に画面いっぱいに浮かび上がる文字。


――“双子嵐”がもたらした、大災害


「10月31日時点で、沖縄の分断は6日目に突入しています。

 地元での対応は限界に達し、政府の早急な対応が求められています。

 昨日には政府首脳会議が行われ、

 本日11月1日、このあとすぐに石橋首相から発表がなされる見通しです。


 ――ようやくです。ようやく政府が重い腰を上げました。


 さらに続いて、与野党による緊急会議も開催される予定です。

 一日も早く、この未曾有の“ツインテンペスト”が終息することを祈るばかりです。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


出勤前、ななせは身支度の手を止め、テーブルのコーヒーをすすった。

テレビから流れてくる声が、不安を煽るように耳にまとわりつく。


【特集】“ツインテンペスト”――双子嵐の誕生


その白いテロップが画面に浮かび上がったとき、ななせは、気づけばそのまま画面に見入っていた。


――10日間も続く停滞。

――沖縄の分断、救援の遅れ。


ジャケットを握る手に、自然と力がこもっていた。


(……まだ続いてるんだ)


淡々としたキャスターの声とともに、映像は切り替わる。

雨に打たれる人々、浸水した道路、立ち尽くす住民。

それは、いつもの朝のニュースを越え、現実感を奪い取る光景だった。


(――誰か……何かできないの?)


やがて専門家が、なぜ今回の災害がなぜここまで被害を拡大させているのかを解説し始める。


「ねぇ、チャト……藤原効果っていってるんだけど……藤原って何なの?」


ピピッ……


「――“藤原効果”ですね……」

ピピッ……


「“藤原効果”とは……二つの台風が近づくと、

 互いに引き合ったり押し合ったりして進路が変わる現象です。

 動きが止まることもあります。

 名前は、日本の気象学者・藤原咲平ふじわらさくへい博士に由来しています。」


ピピッ……


「じゃあ……台風がもうひとつ増えたら、藤原さんじゃなくなる……?」


時計へ目をやると、出かける時間だった。


「……大変! もう行かなきゃだ」

ピピッ……


「外気温が下がっています。上着の着用を推奨します」

「チャト、いってくるね」


リモコンに手を伸ばし――ふと止まる。

石橋首相の会見が始まろうとしていた。

彼女は最後に画面を一瞥し、ため息を落としてテレビを消した。


「――スリープ」


玄関を開けた先には、どんよりとした曇り空。

都内の閑散とした喧騒――遠くで反響するざわめきが、さきほどまでの静けさを塗り替えていく。

冷え込む北風に抗い、上着を抱きしめて身をすくめた。

それでも胸の奥には、ニュース映像の凄まじさが、なお消えずに刻みついていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


首相官邸前には、異様な熱気が渦巻いていた。

マイクが林立し、フラッシュの閃光が絶え間なく走る。

多くの報道陣が、早急な対応を迫るかのように、また政府の責任を問いただすかのように声を張り上げ、

空気はすでに混沌としていた。


その列の中に、比嘉世幸の姿もあった。

西日本通信社の記者である彼は、古びたカメラのストラップを握り直し、分厚い官邸の扉を鋭い眼差しで見据えていた。


(――沖縄からの支援要請に、いつ応えるのか……)

胸の奥に、あの時と同じ問いが再び蘇る。

――首相はどう答えるのだろう。


民意立案制度の可決から、まだ数日。

マスコミはこぞって「政治の新時代」と喧伝していた。

しかし、その熱狂はあっという間に色褪せ、早くも論調は一斉に「災害対応」へと衣替えしていた。


まるで、その時々の流行り文句を見出しに掲げることが責務であるかのように。

都合の良い言葉だけを引用し、都合の悪くなった過去は決して振り返らない――

その姿勢は、功利を追う政治家の振る舞いと、どこか重なって見えた。


沖縄・九州では甚大な被害が広がっていたが、関東以東は大きく天候が崩れることもなく、繰り返される土砂災害も、もはや日常の一部と化していた。


それは政府だけでなく、マスコミを含む被災地以外の人々も同じで、自らは安全圏に立ちながら、ただ「誰かの対応」を求めるだけだった。


石橋首相は、“防災大国”を掲げて制度整備を進めてきた。

だからこそ、今回も当然揺るぎない対応を見せる――

誰もがそう信じていたのだ。


そして、いよいよ首相の会見が始まった。

しかし、その瞳には、いつもの力強さが欠けていた。


「まず、政府の対応につきまして申し上げます。


 沖縄を中心に発生しております“双子嵐”による災害につきましては、

 被害の規模や状況を総合的に勘案し、

 政府指定の激甚災害に指定する見込みでございます。


 また、防災庁の設置につきましても、

 鋭意準備を進めているところでございます。


 復旧に要する経費につきましては、

 国が責任をもって支援してまいる所存でございます。


 あわせて、気象庁の発表によりますと、

 台風19号は現在、弱まりつつあるとの見解を示しております。


 沖縄県民をはじめ、現在もこの未曽有の“双子嵐”によって

 厳しい被災状況に置かれているすべての方々に、お見舞いを申し上げる次第でございます」


口調はいつもと変わらぬように見えたが、その声はかすかに震えていた。


(――これが“対応”……だというのか……)


災害現場からの声が、まさか官邸には届いていなかったのか――

そんな不穏な衝撃が、比嘉の胸に轟いていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、

特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。

「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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