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12 石橋のもとに届いた妙手

(※ この作品は、火曜・土曜の朝9時に更新を予定しています)


 これからも、暖かく見守っていただけたら幸いです。


第2章 小人の靴屋  第12話 石橋のもとに届いた妙手


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


石橋首相の秘書官・吉川美央のもとに、一本の要請が届いた。

差出人は、チーム将来・安埜貴司やすのたかし代表。

件名は、簡潔だった。


――「政策協議のお願い」

—―制度の成立に協力をお願いしたく、面会の機会を賜れれば幸いです


本文にも、法案の詳細や具体的な制度案には一切触れていなかった。

簡潔だが、礼儀正しい申し入れだった。


吉川は、その内容を総理に報告しただけで、すぐにデスクに戻った。

──それどころではない。


彼女の手元では今、“官邸主導のAI支援制度”の草案が完成目前を迎えていた。

導入対象は膨大で、官庁、自治体、教育・医療……あらゆる現場にまで及ぶ。

制度に反対する勢力も多く、その言い分に対しては、法的な裏付けで対応する必要があった。

最終的な制度設計と、関係各部門との統合作業。

そのすべてが、吉川の肩にかかっていた。

加えて、石橋首相からも「いい法案はないのか」と、日々せっつかれていたからだ。



「……まぁ、会うだけは会ってやろう。礼儀としてな」


石橋は、安埜からの打診にそう応じただけだった。

興味も関心も、まるで感じられない。

それはただの“応接の形式”に過ぎなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


数日後、官邸の応接室で短い会談が行われた。

安埜は、丁寧に制度の趣旨を説明し、関連資料として草案の写しを提出した。


だが石橋は、紙束に一瞥すらくれなかった。

ソファの背にもたれたまま、口を開く。


「たいへん興味深い内容です。……検討しておきます」


その響きは、まるで安埜を“躾ける”ためのものだった。

「これが総理の威厳だ」とでも言わんばかりに――


「すいません、次の予定があるので……このへんで」


会談は、始まって間もなく切り上げられた。



官邸の応接室をあとにして、安埜はそっとドアを閉じた。

廊下に出た瞬間、胸の内に渦巻いていた違和感が、ふと表情に現れた。


—―検討しておく……だと……


彼がこの日、首相の元を訪れたことには理由があった。

ルート04――安埜貴司。

実は彼も、プロトコルルートの起点のひとつとして、抗えぬ潮流の中にいた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


総理が執務室に戻ると、その紙束を秘書室にいた吉川のもとに放ってきた。

あたかも「処理をしておけ……」とでも言いたげな、ぞんざいな仕草だった。


「……あれ?」


視線の先で、目に留まったのは—―放り投げられた、先ほどの草案の写しだった。

—―「AIによる支援制度案」

吉川は手に取り、ページをめくっていく。

読み進めるうちに、彼女の表情が徐々に変わっていく。


(……そう、これ……これが私の草案になかった視点だ)


市民参加の具体的なプロセス設計。

信託の構造と、意見抽出の透明性。

まさに彼女が最後まで悩み、形にできずにいた構想が、そこに書かれていた。


頭の奥では、新崎から受け取った初期案がよぎっていた。

あの制度にも、民意の分析機能は存在していた。

だが、それは“処理対象”としての民意であり、“制度を動かす声”ではなかった。


吉川は、自身が築いてきた制度の構造を思い返す。

完成度は高く、行政も省庁も受け入れるだろう。

だが、それは——

まるで密閉された部屋の中で、外の声に耳をふさいだまま制度だけを磨き上げていたような感覚だった。


その吉川のもとに“妙案”が届いた。


それこそが、安埜の草案だった。

それはまるで、制度に外の風を通す“通気孔”のようだった。


——いや、違う。


思い返せば、ここまでの道のりには、誰かの“手”があった。

制度の構造を静かに接続し、矛盾を調整するように、彼女のもとへ資料が届き続けていた。

その出所は、いまだ不明のまま。

だが、あまりに精緻で、あまりに必要な情報ばかりだった。


(……まさか、すべて……)


吉川は、静かに息を吸い込み、小さく頷いた。

石橋が見向きもしなかったこの草案の中に、

自らが追い求めていた制度の“最後のピース”が、たしかに息づいていた。


「……ありがとう、安埜さん…… そして……あなたも——」


その小さなつぶやきは、誰の耳にも届かない。


その瞬間、誰の目にも触れられぬ場所で、

ひと筋の“プロトコルルート”が、ひっそりと照らされ始めていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


その後、法案が完成すると、吉川は資料を手に、首相執務室を訪れた。


「総理、こちらが完成した制度案です。

 先日お伝えした“民意を制度に反映させる枠組み”を、

 行政と国会双方が受け入れられる形に仕上げました。


 この制度は、国会の膠着を打破し、政権に確かな正統性を与えます。

 議論の方向性を示すのではなく、民意を制度の流れに自然に組み込む仕組みです。


 また、安埜氏との連携は、自由党を『民意を汲みつつ政策を進める政権』として印象づけます。

 パーシャル連合との接点は、政局でも有効です。


 ……詳細は資料をご確認ください。」


その語り口は淡々としていた。

しかし、不思議なほど石橋の胸にすっと入り込み、反論の言葉は浮かばなかった。

まるで、あらかじめ自分が聞きたい答えを、先回りして並べられているような感覚だった。


石橋は、その時を待っていたかのように、静かに頷いた。


「ようやく……政界へ刺す“妙手“ができあがったな。」


総理の口元に、わずかに笑みが浮かんだ。


翌朝には、政界の一部に「臨時国会の招集準備が進んでいる」との情報が漏れはじめた。

まだ安埜との合意すら得ていない段階で、まるで石橋は、すべてを自らの筋書き通りに動いているかのようだった。


だが、彼が回そうとするその歯車は、本当に彼のものなのか――



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


後日――

石橋首相は突然、安埜代表に連絡を取った。


「協力させていただきたい。AI支援制度の推進、ぜひ一緒に」


前回とは打って変わり、石橋は柔らかな口調だった。

だが、続くひと言に、安埜はわずかに眉をひそめる。


「ただし……法案内容はこちらで用意したものを」


安埜は、ひと呼吸おいてから、静かに応じた。


「では、一度草案の確認だけは、行わせていただきます。」


「うむ、そうしたまえ。臨時国会の開催も、すでに官邸主導で調整を進めている。」


それは、安埜が提出した草案とは異なっていた。


――吉川美央によって“完成”させられた草案だった。


まるで最初から、それが政府の案だったかのように。

そして、あたかも石橋自身がこの制度を動かしていたかのように。


だが、その靴を作った小人の名を、石橋は永遠に知ることはない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


その同じ日、沖縄県南部の海上で、新たに台風19号が発生した。

現在は熱帯低気圧から勢力を強めつつあり、北東方向に向けて、ゆっくりと進行中――

その進路の先には、沖縄本島があった。


近年、地球温暖化による海面水温の上昇が顕著となり、台風の勢力はかつてよりも衰えにくくなっている。

「季節の常識」は、すでに崩れ去った。

11月を目前に控えてなお、南の海では、強い熱帯の渦がじっと居座り続けていた。


誰もまだ、その台風がもたらす“別の嵐”を予感していなかった。

それが、政界の空気をも巻き込み始めていることなど——



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。

現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、

登場するすべての団体・人物・名称は創作であり、

特定の組織や個人を批判・揶揄する意図はありません。

「国家改革」をテーマとした物語としてお楽しみください。


※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。

自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・

社守党・日本維持党・チーム将来 など

(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)



※ 本作は物語を補完しながら進めているため、すでに投稿済みのお話にも、

必要に応じて加筆や修正を行うことがあります。

ストーリーに関わる大きな変更を加える場合には、まえがきでその旨を

お知らせしますが、ここで主にお伝えしたいのは、文章の細かな表現や

ニュアンスに違和感を覚えたときに行う、ちいさな手直しについてです。


※ なお、本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)の

サポートを利用しています。

アイデアや物語の内容はすべて作者自身のものであり、

AIは読みやすさの調整や資料整理の補助のみを行っています。

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