プロローグ
「校長!」
ドタドタと足音を響かせながら中年男性が扉をノックもせずに入って来た。
校長と呼ばれた女性は、特に驚いた様子もなく応対する。
「どうなされましたか? 教頭」
教頭は荒い息を整える間もなく、ぜぇぜぇと校長の机の前までやって来て机にバンッと手を置いた。
「どうもこうも! あの生徒っ……半年前に我が校に編入して来たばかりの彼をっ……なぜ、卒業試験に行かせたのですかッッ?!」
「何か問題でも? 素行に問題は無いと思いますが」
校長のあまりの落ち着きっぷりに教頭は目をぱちぱちと瞬きしながらも首を横に振って更に続ける。
「素行の問題ではありません! いや、過去の経歴が不明なのはこの際置いておいて、成績の問題です!!」
「……成績、ですか?」
「そうです! 彼の成績は全て赤点まみれで、卒業出来るレベルではありません! まだ授業を受けさせるべきなのです」
「同級生皆んなが卒業したら寂しいじゃないですか」
「そもそも、何故一年から入学させなかったのか疑問だったのですよ、十年前に魔王を倒した英雄に似ているから特別扱いしている訳ではないでしょうね?!」
「大丈夫ですよ、そんな事はありません。そもそも何故、英雄が出て来るんです?」
「知ってますよ? 貴女は十年前、その英雄のパーティに居たという事を!」
校長は手をパンと笑顔で叩いた。
「まあ! よくご存知で。魔王軍との戦争での関係者しか覚えていないでしょうに」
「………話を戻します。とにかく、彼の剣術クラスでの成績ではもっと授業を受ける必要があると思います」
「実践で発揮する可能性もありますよ? それに、もうパーティを組んで旅立って行きましたし、変更は出来ませんよ」
「どこからその自信が…? 周りの生徒に贔屓だと思われても仕方ないですよ? 卒業試験は成績や実力を認められて初めて受けられるものなのですから」
教頭はため息を吐きながら「失礼します」と踵を返した。
「大丈夫ですよ。彼女たちなら」
扉に手をかけようとした教頭が止まる。
「………ちなみに、どのパーティに?」
「U班です」
「なあッ?!」
教頭は血相を変え、再び校長の机の前まで速足でやって来る。
「考え直してください!! そのパーティだけは———っ」
「ですから、既に出発しましたってば」
「校長ぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉおおぉおおおおおおおおおおぉおおおおぉぉぉおおおおぉおおぉぉぉ!!!」
教頭の叫び声は校長室だけでなく、フロア中に響き渡ったのだった。