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勇者と魔王は冒険に出かけた

作者: 恵京玖

 幸せの国を脅かす魔王を倒すため、勇者は夜のように闇深い森を超えて、草も生えない岩石でいっぱいの荒野を登り、かつて火を噴き人々から恐れられていた山の山頂に向かいました。


 幾日もかけて歩き、ようやく山頂にたどり着くと魔王が一人佇んでいました。


「待っていたぞ、勇者!」


 魔王は不気味な笑みをしていました。彼の姿は額に角を持ち、顔半分が蛇の鱗のようになっていて、右腕も竜のような鋭い爪と鱗が付いていました。

 あまりにも恐ろしい姿に勇者は怖くなりましたが、それでも勇気を振り絞って剣を持ちます。

 

 そして勇者は剣を振り上げて、魔王を切りました。


 魔王は全くと言っていいほど何もしませんでした。ただ、ただ、勇者の剣を切られました。

一方、切った勇者も不思議でした。魔王を切ったのに、ただ空に浮いた布を切ったような感じだったのです。

 切られた魔王は真っ黒な煙に包まれた後、小さな男の子が出てきました。男の子はうずくまって、泣いていました。


 不思議そうに勇者は男の子を見ていましたが、自分の姿に異変が起きた事に気が付きました。


「……自分の腕が竜の爪になっている」


 驚きながら自分の手を見ていると、厚い雲が割れて光が差し込みました。まるで魔王を倒したのを祝福しているようでした。




***

 勇者は魔王を倒したので、自分の国に帰る事にしました。もちろん泣いている男の子も一緒に連れて。

 男の子と一緒にいたので、長い時間かけて帰りました。


「僕を置いて行ってもいいよ」


 男の子はそう言いますが、勇者は置いて行こうとはしませんでした。


「ここは危ないからね。僕の住む国は安全だから」


 毎日、旅するたびに男の子と勇者は仲良くなっていきました。

 草も生えない岩だらけの荒野では、男の子は指をさしてこういいます。


「あの岩、犬みたいな形している」

「本当だ」


 更に闇深い森にへ行っても、男の子は大きな葉をくり抜いてお面を作ったり、松ぼっくりと枝を組み合わせて人形を作りました。


「出来た。勇者」

「あははは、上手だね」


 勇者は魔王を倒しに行く時は重々しい重荷を心に乗せたような気持になっていましたが、帰りは男の子の一緒に帰ると心は軽く、楽しい気持ちになっていました。


 そうして旅をするうちに、勇者の国が見えてきました。




***

 勇者が自分の国に帰ると、国の様子が変でした。魔王を倒す時はみんなが駆け寄って応援されたのですが、帰ってくるとみんなは勇者を見て逃げていきます。


 とにかく王様に伝えようと勇者は行きました。だが城の兵士に止められてしまいました。


「おい! 俺は勇者だぞ! 魔王を倒したから報告したいんだ!」

「お前が魔物だろ! こんな異様な姿をして」


 兵士が仲間を呼んだので、勇者は男の子を連れて逃げました。


「どうなっているんだ!」


 勇者は怒りながら怒鳴り、男の子は怯えました。それに気が付いて勇者は「大きな声を出してごめんね」と謝ります。

 だけど男の子の表情はすぐれません。


「だけど、どうしてみんな俺を逃げるんだろう」


 そう思って、近くの広場の噴水で自分を見ました。


「何なんだ、これは!」


 勇者が驚くのも無理はありません。勇者の額には角と顔半分は鱗でおおわれている。竜の腕になった右腕は包帯で隠していましたが、自分の姿は魔王になっていることに気づき、勇者は驚きました。


「俺は魔王になってしまったのか」


 そう言って膝をつきました。




***

 勇者は男の子を教会に連れて行ってあげました。


「この姿だとみんなに恐れられるから、僕は人がいない所に行くね」

「行かないで」

「駄目だよ。みんな怯えちゃうからね。教会の人に『帰る家が無いんです』って言えば、保護してくれるから」


 悲しそうに男の子は「じゃあ、最後に……」と呟きました。


「剣を見せて」

「俺の剣か?」

「はい。持ってみたかったの」


 剣を持ってみたいというなら……と思い、勇者は男の子に剣を持たせてあげました。


「危ないから、気を付けて持ってね。……うわ!」


 男の子は突然、剣を勇者に向かって切りつけました。すると黒い煙が勇者から出て、男の子の額に角が生えました。




***

「魔王になる呪いなんだ」


 男の子は額の角を触りながらポツリと呟いて言いました。


「魔王を切ったら、切った相手が魔王になるんだ」

「じゃあ、次の魔王は俺になったって事?」


 腕を軽く傷がついた勇者がそう言うと男の子は頷いた。


「だからまた僕が切りつければ、僕がまた魔王になるよ」

「やめよう、そういう事をするのは」

「だけど魔王になったままでいいの?」

「うん、いいよ」


 そう言いながら国を出ました。

 魔王がいるとされた山ではなく、今度は海辺を目指します。


「また魔王になったら、君は一人になるじゃん。寂しかったんだろ」

「うん、寂しかった」

「じゃあ、次は二人で魔王になって冒険に行こう」


 勇者の提案に男の子は「うん」と言って勇者と手をつないで、歩き始めました。


 そうして人々が言うには、額に角の生えた男の子と顔半分に鱗が付いて右腕が竜のような爪と鱗がある勇者は、魔王のような容姿をしていましたが人々を助けながら冒険をしていったと言われています。





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― 新着の感想 ―
終わりのないループのようなお話を2人は終わらせることができたのかもしれませんね。そうであったのなら良いなぁ。
2025/01/19 22:42 退会済み
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