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薔薇と憂鬱と魔法  作者: 深也糸
第一章
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5 その後の審判

「ときに、______先ほどの騒ぎ。貴様らの非礼の数々、見過ごすわけにはいかぬ」


さんざんな惨状。大騒ぎした後、庭での騒ぎの終息に待っていたのは、物々しい審判。

謁見の間にて。臣下があまた集められた場でのこと。

大階段のてっぺんである高い場所に位置する玉座から見下ろし、ラフィンスはふんぞりかえり煽る。

「城への不法侵入および、我に対しての侮辱の数々……」

思い出しながらラフィンスの顔は苦渋に満ちてくる。

「________万死に値する」


「なによ、えらそうに!」

「おい貴様、意見するな、不敬罪だぞ」

仁王立ちでロザリンが野次を飛ばすと、槍を持ったたくさんの兵士に取り囲まれ、罪人よろしくぞんざいに床に投げ出されて彼女は激昂する。


「きゃっ!何するのよ!」

自身に対して横暴な行いをした者等とラフィンスとをキッと、睨む。

「なによ!あんな警備が手薄じゃ、簡単に他の国に攻め込まれるわよ!侵入して下さいって云っているようなものね!」

「……この女、開き直っているぞ」

椅子の脇息にもたれ、呆れ顔のラフィンス。

「正面から来ない者はみんなコソ泥だ。正式に用があるのなら、ちゃんと正面から来い。

正々堂々とな。まぁ、正門から来たとて、貴様のような輩は門前払いだがな」

ぶつくさ云う。結局、相手にする気もないくせに。


「だいたい、私はコソ泥でもないし!アデルに用があって来ただけなんだから!あなたたちがくだらないことで目くじらを立てて、おおごとにしているだけよ、くだらない!」

さも、自分が悪いのではない。こちらの不手際だと示唆されていて、歯噛みする。


「ええい、陛下に向かって口が過ぎるぞ!わきまえろ!」

兵士のひとりがロザリンとその侍女たちへと手を延ばそうとすると

「ちょっと、何するのよ!!」

ロザリンは無礼者!と声を荒げる。悲鳴に近い抗議。

「やめて、私の侍女たちに触らないで!私が命令して連れてきたの!彼女たちに罪はないわ!」

危害を加われることを察して、必死に抵抗する。

すると、キン、と空気が硬質で乾いた音を立てた。亀裂がはしる。

ロザリンの体からは怒りのオーラが立ち上る。


「そういえば、この娘は竜巻を起こし、風を操ったと聞いた」

「薔薇園の薔薇もすべてこの娘のせいで散ったと聞いた」

傍観していたサンクティルガの重臣がつづけて声を上げる。

気を付けろと一同が身構えていた、そのとき

感情のままに力が暴走し、無差別にこの場にいる人々の衣服や皮膚を切り裂く。

「うわぁああああ____________」

悲鳴があちこちに上がる。先ほどと同じ惨劇が起こる。


「かまいたちだ!!」

「止めろぉ!誰か、止めろぉ!」

「あの者をひっ捕らえよ!!」

城の中でも恐慌状態に陥っている。まずい、このままでは……。

主であるロザリンが自分たちを庇って、危機に瀕している。彼女に仕えて、忠誠を誓う侍女たちは黙っているわけにはいかない。主人を守ろうと弁明する。


「お嬢様……ロザリン様は由緒正しき侯爵家の姫君。ローゼンウッド、現王

のお妃さまの妹君であり、陛下の義理の妹君にあらせられます。そして、アデル様の従妹にも当たるお方。……ですので、私どもはどうなろうとも構いませんが、どうかお嬢様にだけは……」

「……お赦し下さい。私めの命にかえても、どうかお嬢様だけは……」

侍女の二人は床に頭を擦り付けるように深く、深く頭を下げる。

一瞬、あたりは静まり返り、風が止む。ロザリンが我に返ったせいだ。

「……やめなさい、あなた達________」

「_______やめてくれ!」


ロザリンの声を掻き消すように、その場をつんざくように、ひときわ大きく声が上がった。

王の傍らに座していたアデルだった。黙って傍観していることにとても耐えられない。

たまりかねて云わずにはいられなかった。


「この子は俺を追って来ただけだ。ここに来る前に話し合わなかったのがいけなかった。謝罪する。本当にすまなかった……」

アデルが深々と頭を下げて、非礼を詫びる。

誰もが騒ぎを忘れて、茫然と王妃に注視する。


「______身勝手であることは十分に分かっている。だけど……どうか、ここは、俺の顔に免じて、赦してやって欲しい」

さらに、切々と懇願する。

「しばらく、ふたりっきりで話をさせてくれ……」



******


城の屋上、欄干に手を掛ける。徐々に陽が落ちはじめる。

眼下には広大な草原が広がる。深い森の中央に位置したこの城は、緑の山脈に取り囲まれた天然の城壁。

アデルとロザリンは向き合う。

とりあえずは、アデルの謝罪に免じて、さらには妃の近親者という立場によって、無事釈放されたのだが……。


「戻ろうよ、今すぐ。今ならまだ間に合う。アデルは男の子なんだよ。なのに、ラフィンスの妃だなんて」

ぐっ、と手を握り拳にして、ロザリンが云い募る。

「サンクティルガは大国よ、領土だって三倍近くある!いずれ侵略されるかもしれない!」

「そうさせない為にここにいる」

ロザリンがハッ、と弾かれたように顔を上げる。

「俺が決めたことだから、口出ししないでくれ。それに、今すぐ帰った方がいい。これ以上ロザリンの身に何かあっても助けられない」

「私、アデルに助けてもらいたいなんて思ったことがないわ!」

毅然と言い放つ。自分の身は自分で守れる。並の男より余程強い。それは分かるが、まだ成人前の若く、か弱い女子であることには変わりない。


「危険な目に合わせてしまうかもしれない」

「じゃあ、私を連れて今すぐ行けばいいわ、ここから!」

アデルを追いかけてローゼンウッドからここに来ること自体、相当の強い意志と覚悟を要するものだ、だが……

「でも、だめなんだ。きみと一緒に行けない」

「……何故?ずっと、いっしょにいたじゃない、わたしたち、これからも……ずっと……これからも……ねぇ、そうでしょう?」

従妹からの懇願するような視線から、耐えきれず眼を逸らす。


「祖国を捨てて、私を捨てて、何がしたいの?兄様に……陛下に頼まれて、これからの人生をどうするつもりなの?それで、アデルはいいの……?」

「俺は、自分の意志でここにいるんだ。_____自分の王国を造るって、決めていたから」

「……そんなこと、聞いたことがないわ!」

「今まで誰にも云ったことがないから……」


そっと、眼を伏せる。秘めていた想いが溢れ出す。

「今まで兄貴達がいて、自分には無理だと思ってきた。だけど________

やっと機会が巡ってきた。ずっと思い描いていたことなんだ」

本当は鬱陶しいからロザリンを遠ざけるために云った言い訳だったと思う。

でも、不思議と口にしてしまえば、それが本心であったような気がして驚いた。


「何年かかるか、何十年かかるか、わからない……でも、必ず俺は、俺の力で、王位を奪う……!」

彼女が息を呑んだのが分かる。

「分かっただろう、ロザリン。すぐにローゼンウッドに帰れ。そして、俺のことは忘れてくれ」

「……いやよ!アデルは簡単に云うけれど、ひとの心はそんなに簡単なものじゃない!

帰れと云われても帰らないから!忘れてくれと云ったって、忘れられるはずなんかない!ずっとずっといっしょにいたし、これからだって……!」

「……でも、決めたことなんだ……。ロザリンの気持ちに応えることもできないし、俺の心は変わらない。」

「いやだ!……いやよ!絶対にいや……!」

「______ロザリン……」


すぐ傍にいるはずなのに、ふたりの距離が不自然に遠く感じられた。

いつもなら、ロザリンが落ち込んでいたり元気がなかったりすると、やさしく髪を撫でてくれる。……はずなのに。やさしく肩を抱いてくれない。抱きしめてもくれない。

ただ、風が強かった。風にあおられ、長い髪がなびく。


……泣かない、泣かないから。と自分に言い聞かせ、強がって、堪えようとするロザリンの眼には涙が浮かんでいた。

オレンジ色の夕日が落ちる。悲しくなるほどきれいな夕日だった。

……だって、そんなの、協力するしかないじゃない……。アデルのためならどんなことだってするって決めたもの。


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