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薔薇と憂鬱と魔法  作者: 深也糸
第一章
12/64

12 王妃と首飾り 2

_______なんで邪魔するんだよ!あんなやつ最低だ!


苛立ち、逃げ出すように退出した。アデルがさっきの宝石を献上した人物であるマリウスを探している途中。城の廻廊で先ほど魔法の講義を行っていたルシアンに偶然出くわした。

やはり、ひときわ眼を惹くというか、華美な人物である。


「あ、あの……先生」

控えめに、そして少し興奮気味に声を掛ける。

アデルを見ると、ルシアンは驚いたように眼を見開く。


「きみは?」

「さきほど講義を受けていた者です。すみません、急に声を掛けたりして」

「いや、構わないよ。何の用?もしかして、さっきの講義の質問かな」

ええ、はい。とアデルは頷く。


「あの、見つけたんです。自分にぴったりかも知れない石が。どう思いますか?」

「あ、形から入るタイプなんだ。______それで、その石は?」

「今、現物がないんですけど、でも素晴らしい石なんです」

「そう。是非とも見てみたい。また手元にあるとき会ってくれないか?そのときにアドバイスしよう」

ありがとうございますと、礼を云うと、ルシアンが問い掛ける。


「____ねえ、きみ。魔法は好き?」

「はい。でも、わかりません。自分には特別な力があるわけじゃないから。……でも、これから自分に必要なものだと思うので、吸収したいという気持ちはあります」

アデルは少し迷いながら正直に伝えた。


「……そう。もし、よければの話だけれど、魔法に興味があるのなら、月に一二度、郊外で今日のような魔法の講義を行っているから、来られてみてはどうだろうか?」

「…えっ、俺がですか」


アデルの戸惑っているような表情を見つめながらルシアンが言を継ぐ。

「魔術の門戸を広げるためにやっていることだから、お代は無用だよ。生徒は全員、黒いローブを被って、覆面で講義を受けるんだ。ひとには様々な事情があるからね。生徒の身分、格差、垣根を無くすためにそうしているんだ。_____そうすれば、誰もが思う存分授業が受けられる」

「それじゃあ、金銭に余裕のない人には助かりますね」


いいや、とルシアンは緩く首を振る。「身分の低い者より、高貴な身分の者がお忍びでこっそり来る場合が多いんだ」

「驚いた。それは、意外ですね」

「ふふ、そうでしょう」

いたずらに笑った後に、ふと、ルシアンが真顔になる。

「きみによく似た人を見たことがある」

意味深に顔を近づけて、囁く。逆光に重なり、アデルの方にも影が落ちる。


「こんなに美しい人を一度見たら忘れないはずなんだけど、でもどこかで見たんだ」

「え」

「……思い出せないけれど、確かにきみに似ていた」

思わせぶりにそう繰り返す。


なるほど、そうか……。このひとは人たらしかもしれない。

質問が終わり、ルシアンと別れた後、ラフィンスはこちらに向かって歩いてきた。

アデルの姿に一切気付いていないようだ。


ふたりは待ち合わせをしていたらしい。ルシアンがラフィンスの肩を抱き、何か話し込んでいる。しかも、内密な話らしく小声で何事か云い合っている。

あの貴族の娘たちが云っていた通りだ。ふぅん、本当に親しいんだ。と、なぜか面白くなさそうな顔で遠くから二人の姿を見つめていた。


*****


やっぱり、あのネックレスが気になっていた。あの宝石が欲しい。もうだめだろうけれど。諦めきれず、城の中を探し回ったかいがあって見つけた。


「お待ち下さい!」

ドレスの裾をつかみながら後を必死に追いかけ呼び止めると、マリウスが振り返り、虚を突かれたような表情を浮かべる。


「ああよかった!まだ帰ってなくて!その首飾りを譲っていただきたいのです!」

「さきほど、いらないと申されたではありませんか?」

「ラフィンスが、いえ、あいつ、いや、王、陛下が勝手に決めたことです。私はひと目見たときから宝石の美しさと輝きに惹かれて、どうしてもその品を戴きたいのです。どうか、どうか、お願いします!」

必死で頼み込みながら、ボロが出ないように口調も改めなければならない。ああ、難しい。


すると、使者__________マリウスはやわらかく微笑みかける。

「ふふっ、よろしいですよ。元々は我々が献上した品物ですから」

その言葉を聞いて、心底ホッとする。よかった。勇気を持って伝えてよかった。

「まぁ、とても助かります」

「ただし、私ののぞみもひとつ聞いていただきたいのですが」


含みを持たせた言葉に、アデルはおずおずと尋ねる。

「何ですか、私にできることであれば何でも云って下さい」

「では、くちづけを」

「!」


……こいつ!

マリウスの要求に面喰った。

熱い視線を送っていた。色目を遣っていた。ラフィンスの云っていたことは誤解ではなかったのだ。

あわよくば、と思っていたのだろう。あのときラフィンスが余計なことを云って追い返さなかったら、今こんなことをする必要もなかったのに。くそぉ。


数秒間考えた後。しょうがない。背に腹は代えられない。と、ふてくされながら渋々応じる。

__________そうだ、深く考えるな。一瞬だけ我慢して要請に応じればいいだけのこと。

なんとか、自分を抑え込んで、眼を閉じて、相手のそれへと重ねた。


唇が合わさると、にやり、とマリウスがほくそえむ。

途端。ドサッと床に倒れ落ちる。アデルは意識を失った。



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