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プレリュード

 あたしは懐かしい夢を見ていた。


 夏の日差しに輝く噴水の向こうから、あなたがやってくる。

 真っ白なつば広の帽子と、下ろした長い髪。

 手を振るあなたに、あたしも思い切り応える。

 駆け寄ってくるあなたの、満面の笑みを覚えてる。


 それからあたしたちは、人気の通りをそぞろ歩く。

 ぴったりと寄り添って、腕を絡め合って。

 次はどこへ行こっか、なんて言いながら。


 男の子たちはみんなあなたに注目する。

 それがあたしには誇らしい。


 今のあたしは、あなたの引き立て役。

 でも構わない。

 今はあなたは、あたしのものだから。 


 誰かがあたしたちの前に立ちはだかり、ニヤつきながら何かを言ってくる。

 あなたは、にっこりしながらも首を振る。

 でもそいつは引き下がらない。

 あたしはその男を押しのけて、あなたを連れ出そうとする。

 でも気づくと、脇にも後ろにも大きな男たちに囲まれている。

 あなたの手を握りしめて、逃げ出そうとするあたし。

 後ろから伸びた手が、あなたの髪を掴む。


 帽子ごとあなたの髪はすっぽ抜ける――だってウィッグだから。

 その下からは、短く切り揃えられた金髪が現れる。

 ウィッグよりも綺麗なツヤの、ゆるいウェーブ。


 周りの動きが止まる。

 その隙にあたしたちは走る。

 走って走って、どこかの壁を曲がってやっと落ち着く。


 被り物をなくして、あなたは眉を下げる。

 平気よ、とあたしはヴェールを差し出し頭に掛けてあげる。

 そっか、とあなたもあたしに同じヴェールをかぶせてくれる。

 真珠のように柔らかく淡い、虹色の光沢。

 あたしたちの装いも、いつの間にか真珠色のドレスになってる。


 それなら次に行く場所は決まってる。

 あたしたちは、手を繋いで教会を目指した。


 この道の次だっけ。

 違った、その次だっけ?

 何でだろう、歩くほどに教会が見つからない。


 振り返ると、あたしの手の中にはあなたの白い手袋だけ。

 あなたの姿がない。

 どうしたの。

 呆れて帰っちゃったの?


 あたしは悟る。

 あなたはもう、あたしのわがままには付き合ってくれない。


 あなたはとっても遠いところに立っている。

 気がかりそうにあたしを見ている。

 見捨てられてはいない、それだけが救い。


 あたしは立ちすくんだまま、ただ涙があふれてくる。

 伝えそびれたけれど、叶わなかったけど。

 でもあたし、本当にあなたと結婚したかった。


 大好きなあなたと。


 女の子のあなたと。

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