依頼
怪異。
それは、幽霊、魔術、超能力、悪魔、鬼、天使、神……。科学では説明不可能なもののことを言う。
そして、現代にも、怪異は存在している。
そこは、綺麗な部屋であった。
見た感じ、学生の部屋だ。だが、机の上には、使われた形跡このあるものの、消しかすの一つもない。また棚の中も、まるで本屋のように順序よく並んで置いてある。
そして、そんな部屋のベッドには、部屋の主である少女が横になっていた。
その者の肌も髪もまるで天使のように白く、美しかった。
こんなにも完璧な部屋、そして姿。さぞかし真面目で、完璧な者なのだろう。
「……眠れない」
そんな彼女にふさわしくないクマが目の下に出来ていた。
きっとその元凶は部屋の外にあるのだろう、いや、絶対に部屋の外にあると断言できる。
というのも、常に部屋の外からは、グチャ、グチャ、ぐちゃぐちゃ!とまるで肉が掻き回されているような不快な音が鳴っているのだ。
「もう、寝れない!!」
そう言って、彼女はベッドから跳ね起き、立ち上がると、部屋の外を出て、階段を降り、廊下を歩く。
進むたびに、その不快な音は近くなっていく。
そして、一つの扉の前に立つ。
コンコン、とノックする。
「良いですか?」
返事はない。
もう一度、ノックする。
「もしもーし!!」
返事はない。
もう我慢できない。
彼女は勢いよくドアを開け、叫ぶ。
「師匠!聞こえてますかぁぁぁぁあ!」
その部屋の真ん中には、師匠と呼ばれた一人の男がキャンパスの前に立ち、絵を描いていた。
そして、男の奥に在った、絵の題材になっているであろうそれは、人、一人分の肉塊であった。さらにその肉塊の上に、一輪の花が。
「どうした、アマウタ?まだ夜中の四時だぞ。起きるにしても、早すぎる。明日は遠出しなくちゃいけないんだ。今のうち寝ておけ」
「いや、その肉の音で寝れないんですが!」
「しょうがないだろ、まだ絵は完成しないんだから。それに、この怪異達は実に素晴らしいじゃないか!お互い、生きていくための相互関係が成り立っている!あぁ、早くこの姿を描かなければ!」
そう言って、筆を取り、再び描き始める。
肉の上に咲いている花は吸血花。
生きた動物の血肉を吸うことでしか生きられない植物であり、長い間獲物にありつけなかった吸血花は、そのまま根を数メートル、数キロとありえないほどの長さまで伸ばし、動く者全てに絡みつき、血を吸い取るという恐ろしい怪異だ。
回収した時は、村全体に根が張り付き、村に居た者、村に入ってきた者、全てを吸収していた。
そして、この肉塊。これは、魔術によってゾンビ化してしまい、死ねなくなった魔術者の成れの果てだ。
殺しても死なない。
この性質を生かし、怪異と怪異を組み合わせることで、なんとかこのように保護している。
絵を描いている男は、怪異を愛し、怪異を描く狂った芸術家としても活動している。白樹。
そして、そんな彼の弟子である天歌。
二人こそ、怪異に関するあらゆる事件を解決する専門家である。