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白梅郎君(はくばいの きみ)  作者: 桃花鳥 彌(とき あまね)
1/4

其之一


()(なん)雨に(けむ)りて 春まだ浅く

  白梅(はくばい)しとど()れて 一際(ひときわ)(せい)(えん)なり―


 遠い遠い、(はる)かに遠い、昔々のことと思召(おぼしめ)せ・・・・・・。

 都からずっと南へ(くだ)った()(なん)の地に、(チン)(ドウ)という小さな街がありました。

 これといって他と変わったところもないこの街には、(いく)たりかの人々が住み、それぞれの生活(いとなみ)に明け暮れておりましたが、ただ、ここは昔から梅の美しい土地柄で、とりわけ白梅(はくばい)(ころ)には、それはもう、見事な有様(ありさま)だったのです。

 家々の庭先にも、(きそ)って梅が植えられましたので、その時期になりますと、苗木(なえぎ)を売る露店(ろてん)のまわりはどこも人だかりで一杯、賑々(にぎにぎ)しく繁盛(はんじょう)致しておりました。

 と申しましても、商売というのは実に不可思議(ふかしぎ)なもので、黒山(くろやま)のように客が押し寄せる時もあれば、ふっとそれが途絶(とだ)えて、人の(おとず)れも無く、森閑(しんかん)と静まり返ることもあるのです。

 その折を、まるで見計らったかのように、一人の女が、ある店先に立ちました。

 質素(しっそ)な身なりではありましたが、どことなく品のある、何やら奥ゆかしげな女です。

 彼女は、目の前に並んだ幾本(いくほん)もの梅の苗木(なえぎ)を、あれこれと、見比(みくら)べておりましたが、やがて、その一番(すみ)に隠れるように追いやられた、()()えのしない一本に目を()めました。

 他の木がすべて、小さいながらも生き生きといのち(みなぎ)らせている中で、それだけが何ともひ弱で、今にも()れそうに(はかな)げなものですから、当然のことながら、わざわざそんなものを買う人などはおりません。

 なのに、なぜか女は、心魅()かれたのでした。

「あれを、(くだ)さいな」

 店の男は、彼女の指さす方を見て(あき)れ返りました。

「いいのかい?こりゃあんた、()()()()だよ!?きっと花なんか、咲きゃしない。せいぜいその前に、()れちまうのが()()さ。まったく、何だってこんなのが、(まぎ)れ込みやがったんだか!?」

 男はぞんざいにその木を(つか)み、女の鼻先(はなさき)に突き付けて見せましたが、彼女の気持ちは変わるどころか、ますますその木に引きつけられるようでした。

「いいんです。それが欲しいの」

 両親などとうに()く、さりとて頼りになる親戚(しんせき)も、ましてや夫も子も持たない()()無い身には、いかにも肩身(かたみ)(せま)そうな(あわ)れな風情(ふぜい)に、何かしら、共鳴(きょうめい)するものがあったのかも知れません。

「へえ!?変わった人だね、あんたも。実のところ、こいつは帰りに捨ててやろうと思っていたんだ。お(だい)はいらないよ!」

 男はそう言ってくれたのですが、いかに何でも、()()でもらう訳にはまいりません。

 女は、(なに)がしかの代金を手渡してひ弱な木を受け取ると、そっと大切に胸に抱き、家路(いえじ)を急いだのでした。

 (つつ)ましやかなその女は、名を、(ファン)小佳(シャオジァ)と申します。


 小佳(シャオジァ)は、街(はず)れに近い古い屋敷に、召使(めしつか)いも置かず、たった一人で住んでおりました。

 両親の生きていた頃は、それなりに裕福(ゆうふく)で、たくさんの召使(めしつか)いも(やと)い入れ、(めぐ)まれた生活を送っていたのですけれど、父と母を相次(あいつ)いで()くしてからは、強力な(うし)(だて)も兄弟も無い身を、強欲(ごうよく)親戚(しんせき)連中につけ込まれ、何だかんだ、寄ってたかって喰いものにされて、せっかく両親が残してくれた、かなりの財産の(ほとん)どを取り上げられてしまい、(かろ)うじて食べてゆける程度の本当に(わず)かなものだけが、彼女の手に残ったのでした。

 しかし、それさえもつけ(ねら)(あく)どい伯母(おば)思惑(おもわく)に、彼女は常に(さら)されていたのです。

 あれだけ多くいた召使(めしつか)いたちも、いつしか彼女を見限(みかぎ)り、一人去り二人去りして、とうとう、残ってくれる者は誰もいませんでした。

 それはさておき――

 小佳(シャオジァ)は、中庭の日当たりと風通しのよい場所を選んで、汗水(あせみず)()らして穴を掘り、そこに梅の苗木(なえぎ)を植えて、丁寧(ていねい)丁寧(ていねい)に土をかけた(あと)、充分に水をやりました。

 そしてすべての作業を終えた彼女は、(ひたい)の汗を(ぬぐ)いながら、やさしく言い聞かせたのです。

「梅よ、梅よ、大きくおなり!雨にも風にも負けないように。いつか見事な花を咲かせて、(さび)しい私を、(なぐさ)めて頂戴(ちょうだい)な!・・・・・」

 小佳(シャオジァ)は、朝夕一日も欠かさずに梅の世話をし、まるで人間にでも話しかけるように、やさしい言葉を投げかけるのでした。

 花も咲かない、と決めつけられたその木は、もしかしたら、小佳(シャオジァ)の手でこの庭に植えられるのを待っていたのかもしれません。

 そう思えるくらいにたちまちのうちに根付き、ぐいぐいと力強く足を()()って、天に向かって伸びて行ったのです。

 そして、半年も()った頃には、あの、今にも()れそうに見えた苗木(なえぎ)と同じものとはとても信じられないほどに(たくま)しい、姿の良い若木に成長しておりました。 

 小佳(シャオジァ)は、うれしくてうれしくてたまりません。

「梅よ、梅よ、あなたは何て立派で、美しいのでしょう!?いつまでも私の側にいてくれたなら、どんなに心強いか知れないわ!・・・・・」

 彼女の言葉に(こた)えるように、風にやさしく青葉を()らせながら、若い梅の木は、ますます力強く育って行ったのでした。


 そして三年――。

 どうにかして、(わず)かに残った財産までも、家屋敷もろとも小佳(シャオジァ)から取り上げてやろうと目論(もくろ)んで、理不尽(りふじん)な縁談を、それこそ矢継(やつ)(ばや)に持ち込んで来る伯母(おば)(アン)大姐(ターシェ)(さいな)みを、その梅の木だけを心の支えにして必死に()(くぐ)り、彼女がふと気づいた時には、いつしか三年の月日が流れておりました。

 若い梅は、(すで)小佳(シャオジァ)背丈(せたけ)を越えて、彼女を守るかのように(ひろ)げた枝には、はや、ふくいくと香る白い花をつけ、美しく、清らかに立ち続けていました。

 そんな早春の昼()がり――。

 (けむる)ように(こま)かく()(そそ)霧雨(きりさめ)に、何もかもがしとどに濡れて、おぼろな暖かさに包まれた、夢見るような午後のことでした。

 小佳(シャオジァ)は一人、二階の居間で刺繍(ししゅう)をしていましたが、何気(なにげ)なく、()()見下(みお)ろした門前に人影がありました。

 (しろ)(がね)(いろ)の衣装を身に(まと)ったその姿は、まだうら若い男のようでしたけれど、(ひさし)(かげ)になって、勿論(もちろん)、顔までは見えません。

 どうやら、雨宿りをしているようです。

 恐らくは、このあたりの人ではないのでしょう、まるで見覚(みおぼ)えのない風体(ふうてい)でした。旅の途中、雨に降られて、難渋(なんじゅう)しているのかも知れません。

(お気の毒に!・・・・・・)

 心優しい小佳(シャオジァ)は、すぐに刺繍(ししゅう)の手を止めて、急いで階下へ降りてゆくと、手早く(かさ)をさして門のところへ走ってゆきました。

 若者は、体の半分以上、雨に濡れながら、まだじっと、軒下(のきした)に立っています。

「あの、もし・・・・・」

 門内から遠慮(えんりょ)がちに呼びかけた小佳(シャオジァ)の声に驚いて、彼はくるりと振り向きました。

「!!」

 今度は、小佳(シャオジァ)の方が驚きました。

 それは何と、美しい男性(ひと)だったことでしょう!?

 生まれてこのかた彼女は、これほどまでに清らかで美しい異性に、ついぞ出会ったことはありませんでした。

 きりりと上がった()(まゆ)の下で、大きく見開かれた黒曜石(こくようせき)の瞳は切れ長、しかも、(まぶた)(はし)から端までくっきりと二重(ふたえ)(きざ)み、きめ(こま)やかな象牙(ぞうげ)(いろ)(はだ)の中で、ひときわ(あざ)やかに際立(きわだ)っています。

 さらに、高い鼻梁(びりょう)にはピシリと鼻筋(はなすじ)が通り、丸みを()びた愛らしい(くちびる)は、さながら花びらを連想させました。

 その、どれ一つを取ってみても、一点の非の打ちどころとて無く、(ただ)ならぬ気品(きひん)(あふ)れる見事な顔立ちなのです。

 小佳(シャオジァ)は見る見る、自分でもはっきりと解るくらいに赤くなりながら言いました。

「あの、・・・・・この雨で、さぞお困りでございましょう。見れば、少なからず()れておいでの御様子。よろしかったら、中でお休み下さいませ・・・・」

「それは(まこと)に有難いことですが・・・しかし、御迷惑(ごめいわく)ではありませんか?」

 耳ざわりの良い澄んだ声音(こわね)で、若者は問いかけました。

 その瞳がきらきらと輝いて、何とも(あで)やかです。

「いえ、決して御遠慮(ごえんりょ)には及びません。そのままでは、お風邪(かぜ)()しますから・・・」

 ひとかたならず()じらいながら、小佳(シャオジァ)は、なおも彼に(すす)めました。

「お心遣(こころづか)い、(かたじけな)い。それでは、お言葉に甘えさせて頂きましょう。雨がやみましたら、すぐにもお(いとま)致しますから」

 そう言って美しい若者は、小佳(シャオジァ)(あと)について屋敷内に入ったのでありました。


 中に入ると、早速(さっそく)小佳(シャオジァ)甲斐甲斐(かいがい)しく立ち働きました。

 まず、()(ぬぐ)いを出して来て、(しずく)の落ちる漆黒(しっこく)の長い髪を(ぬぐ)わせ、父の衣装箱(いしょうばこ)を開いて真新(まあたら)しい大衫(ターシャン)を見つけ出し、若者に着換(きが)えをさせました。

 そして、びしょ()れになった(しろ)(がね)(いろ)の衣装を火の側に()して(かわ)かし、卓子(テーブル)の前に彼を座らせて、熱いお茶を()いでやったのです。

 その(あいだ)(じゅう)小佳(シャオジァ)は、本当にいきき生き生きと(こころ)(はず)んで、幸せそうにさえ見えました。

 人のために何かをするということは、何と(うれ)しく、張り合いがあるのでしょう!!

 彼女の様子を、最初から最後まで、それは心の(こも)ったやさしい眼差(まなざ)しで見守っていた若者でしたが、やがて向かい合って腰かけた彼女に、静かに語りかけました。

「この広いお屋敷に、あなたは、たった一人でお住まいなのですね。お若い女性の身で、さぞやお(さび)しいことでしょうけれど、あなたには、少しも暗いところがありません。とても素晴(すば)らしいことだと思います」

 真摯(しんし)な瞳でまっすぐ小佳(シャオジァ)を見詰めながら、彼はこう言いました。

 その目があまりに美しく、また(まぶ)しくもあったのですが、小佳(シャオジァ)は不思議に顔を()らさず、彼の視線を受け止めました。

 なぜそうすることができたのか、自分でも解りませんが・・・・。

「いえ、(わたくし)は・・・・・」

 彼女は、(かす)かにほほえみながら答えます。

(わたくし)は決して、素晴(すば)らしくなどはございません。ただ梅の木が・・・・庭にある一本の白梅(はくばい)が、いつも私を(ささ)えてくれるのです」

 正直な気持ちでした。

 三年前に()て値同然に買い取って育てたあの木がなかったら、彼女は今頃きっと、気に()まぬ相手に無理矢理(むりやり)(とつ)がされ、(つら)い毎日を余儀(よぎ)なくされていたことでしょう。

「そうですか。それほどまでにあなたは、あの白梅(はくばい)を・・・」

 若者はひどく感じ入った様子でそう(つぶや)き、なぜか深い()(いき)をつきましたが、しばらくすると思い出したように身の上を明かしたのでした。

「申し(おく)れました。私は都から参りました(パイ)薫郎(シュンラン)と申します。呼び名は小薫(シャオシュン)で結構です。実を申せば、私も又、帰るべき家を持たぬ()()無い身。遠い血縁を頼ってこの街に来たのですが、(すで)何処(どこ)かへ引っ越したあとでした。()(あて)てもなく、その上雨に降られて心細い思いをしていたところへ、あなたが御親切に、お声をかけて下さったのです」

左様(さよう)でございましたか。申し遅れました、(わたくし)(ファン)小佳(シャオジァ)と申します」

 彼女も又、彼に自分の名を告げました。

小佳(シャオジァ)・・・・美しい名ですね」

「あなたの方こそ。素敵(すてき)なお名前ですわ」

 二人は顔を見合わせ、そっと微笑みを()わしました。

 どうやら初対面(しょたいめん)にして、彼らは心が(かよ)い合ったようです。

 もしかしたら『宿縁(しゅくえん)』と呼べるものかもしれません。


 そうやって、時の()つのも忘れて語らっているうちに、いつの間にか、夜に近くなっていました。

 小佳(シャオジァ)は、若者が辞退(じたい)するのも聞かずにいそいそと夕餉(ゆうげ)仕度(したく)にかかり、一心不乱(いっしんふらん)(うで)()るって、やがて、もう何年も作ったことのない御馳走(ごちそう)を、幾皿(いくさら)も作り上げました。

 そして、美味しそうに湯気(ゆげ)を立てながら卓子(テーブル)の上一杯に並べられた暖かい食事を、彼にふるまったのです。

 彼女と若者は、向かい合って仲良く語り合いながら、ゆっくりと食事を楽しみました。

 心も体も、ホカホカと(しん)から温まったのは、単に御馳走(ごちそう)のせいばかりではなかったようです。

 そして、食事が終わる頃には、二人の気持ちは、ますます近づいておりました。


「こんなに楽しい食事をしたのは、生まれて初めてです」

 若者は、(うる)んだ瞳で言いました。

「私が物心(ものごころ)ついた時、周りには誰もいませんでした。母の顔すら、(おぼ)えてはおりません。父に抱かれた記憶も持たぬ私は、肉親のぬくもりというものを、まるで知らないのです。食事をする時も、いつも独りぼっちでした・・・」

 そう言った後、すぐに彼は苦笑(くしょう)して謝りました。

「つまらぬことを申しました。どうぞ、お許し下さい」

「いいえ、そんなことはございません。でも、どんなにかお(つら)かったことでしょうね」

 小佳(シャオジァ)は、この美しい若者の(さび)しさを思いやって、思わず涙がこぼれそうになり、(あわ)てて(そで)(ぐち)で、それを押さえたのでした。

 ふと気づくと、雨はもうやんでいるようでしたが、あたりはすっかり暗くなっておりました。

 若者はひっそりと席を立ち、小佳(シャオジァ)に向かって言いました。

「大変、お世話になりました。御迷惑(ごめいわく)(かえり)みず、ついつい長居(ながい)をしてしまいましたが、これにてお(いとま)致します。この御恩は、決して忘れません。何もお礼はできませんが、せめてこれを・・・」

 若者は―いえ(パイ)薫郎(シュンラン)は、左の耳に()め込んでいた(せい)(ぎょく)の耳飾りを(はず)し、小佳(シャオジァ)(てのひら)に乗せてくれたのでした。

「あの、今から行っておしまいになるのですか!?こんなに暗くなりましたのに!・・・」

 小佳(シャオジァ)は胸が()まり、我知らず、声が(ふる)えていました。

 何かしら、この若者と別れ(がた)い気がしてしてなりません。

「はい。いかに何でも、女の方お一人のお住まいで夜を明かす訳にはまいりません。人の噂にでもなれば、それこそ、あなたに御迷惑(ごめいわく)がかかりますから」

 若者は、後々(あとあと)の彼女の身を思いやり、()えて暗闇(くらやみ)の中へ去って()こうとしていたのですが―。

「行かないで下さいませ!!」

 思い()けず、(すが)りつくような小佳(シャオジァ)の声が、彼を引き止めました。

 (パイ)薫郎(シュンラン)は、驚いて彼女を見詰めます。

 その彼に向って、なおも小佳(シャオジァ)は、(おも)いのたけを(ほとばし)らせるのでした。

「行かないで下さいませ。小薫(シャオシュン)さま!!(わたくし)・・・(わたくし)、なぜだか解りませんけれど、もうずっと長い間、あなた様をお待ち申していたような気がしてならないのです。このまま、このままお別れしたくなくて・・・こんなことを口にする(わたくし)を、どうか、はしたない女だと思わないでください!!」

 彼女は、(ほお)()らしていました。

 (せつ)なくて、(なつ)かしくて、本当になぜだか解らないのですが、この若者が(いと)おしくてならなかったのです。

 もしかしたら、それは若者にとって、とても迷惑(めいわく)なことだったかもしれませんが・・・。

 でも、しかし、そうではありませんでした。

 (うれ)しいことに、彼の方も、(おも)いは同じだったのです。

「ご本心から、そうおっしゃって下さるのですね。小佳(シャオジァ)!?何を(かく)しましょう。実は、この私の方こそ、あなたと離れ(がた)く思っておりました。けれど、あなたの身の上につけ()るような気がして、口に出せなかったのです!」

 彼は小佳(シャオジァ)()け寄るなり、力一杯、彼女を抱きしめました。

「やっと・・・・・やっとお会い出来ましたのね。(うれ)しゅうございます!!」

 息もできないくらいに、それは、それは強く抱かれながら、小佳(シャオジァ)は彼の胸で泣きました。

「よく待っていてくれました、私の小佳(シャオジァ)!!」

 しなやかな腕に、より一層(いっそう)の力を()めて彼女の体を()(いだ)薫郎(シュンラン)もまた、少なからず涙ぐんでおりました。

 秘めやかに甘く、そして切ない、春の(よい)にふさわしい(ちぎ)りを()わし、その夜、二人は結ばれました。

 雨を(ふく)んでしっとりと咲き匂う白梅(はくばい)が、何と美しく、(あで)やかな夜であったことでしょう―。

 以来二人は、人も(うらや)む似合いの一対(いっつい)となったのでした。


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