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文化祭実行委員への道  作者: 松波愛
8/11

文化祭実行委員への道 8

「オギ。」私はオギを呼び止めた。

「ボタン、頂戴。二番目、ね。」

私は、オギから第二ボタンを巻き上げた。


その足で、私はまなみのもとへ向かった。

まなみは、オギが好きだった。

オギはエロイ男だったが、

ユーモアのセンスにあふれ

なかなか優しいナイスガイなのだ。


でなくては、私だって、

毎日下品な話を喜んでする

相手になんか選びはしない。


まなみはとっても、とっても喜んだ。

本当、は。

彼女が自分でもらえるのが一番いいんだけれど。

シャイなまなみにはそんなことはできなかった。

私は、まなみのそういうところが可愛かった。

彼女はオギと同じ高校には進まない。

私も、そうだ。

私はまなみとも、オギとも同じ高校には進まない。


その帰り道、私は圭一に会った。

下級生に取られたのか、

ボタンが上の二つなかった。

「あら。圭一君、もてるわね。素敵だわ?」


「みたいだな。」

圭一は人事のように苦笑した。


「オギが自慢してきた。」

圭一はさらに苦笑した。


「ああ・・・。何、あのバカ、

圭一君にそんなこと言ったの?」

わたしはピン、と来た。

第二ボタンのことだ。


オギはオギなりに圭一に

そういう意味でのライバル心を持っていた、ということか。

これはなおさら、まなみのことは言えないな。


そんなことをしたらオギが可愛そうだ。

それに、オギは圭一と同じ高校に進学するのだ。

圭一はそれを賢しげに彼に言うような男ではないが、

それでも、やはり、オギが可愛そうだ、と思った。


男の力量、として圭一が断然、オギに勝ることを

私は知っていた。

オギが劣勢なのは明らか、だった。


だから、私はオギが不憫だった。

一勝ぐらいさせてやりたかった。


それが、私に好かれた、という証を

彼が誇りに思うのなら、それはそれでいい、と思った。

そして、私は口を閉じることに決めた。


「藤咲せんぱーい!圭一せんぱーい!!」

陸上部の1年生が、目に涙をいっぱいためて

私たちのところへやってきた。


「センパイッツいっしょに写真とってくださいっつ!!」

やけに勢い込んでいる。

前のめりになりそうなくらいだった。


「なあに、圭一君と撮りたいんでしょ。撮ってあげるよ。

入んなさい。まだボタン下の3つ残ってるわよ?

3番目にする?」

私は笑った。


「あああ~ん。違う~。藤咲先輩も一緒がいいのぉ。。。」

私は苦笑した。


「ワガママなお嬢さんだわねぇ。

で。ボタンどれにする?」

私は圭一の第三ボタンに勝手に手をかけた。


「おい、藤咲、俺の意見はどうなんだ。

それに、松田さんは

ボタンなんか欲しがってない。」

圭一は苦笑した。


向こう側に居た同級生に

私たちは、写真撮影を依頼した。

1年生の陸上部員はコメツキバッタのように

何度も、何度も頭を下げて、帰っていった。


春のおだやかな風が吹き抜けた。

「藤咲。」

1年生を送った後、圭一は言った。

それだけ、言った。


「ん?」


「…。いや、何でもない。…。がんばれよ。」

言いよどんだ圭一は、その先の言葉を言わなかった。


私は予想が全く、

つかなかったわけではなかった。

彼の恥らった表情から、

彼が何を言いたいのか、読み取れた。


どきり、としたのは事実、だ。

妙に少年が大人びて見える。

私の頬も少し、紅潮したかもしれない。


彼自身、言いたい言葉があったろう。

だが…。彼はそれを飲み込んだ。

へぼいオギに決定的な先制パンチを食らわされたのだ。

おまけに、オギと私が両思いだと思い込んでいる。

何をしても逆転ゲームはありえない。

彼の中での苦しい、

カリキュレーションが読み取れるようだった。


でも、それでも、伝えたいのなら、

人は伝えるはずだ、と私は思った。

助け舟を出す気は無かった。


圭一を追い詰めすぎただろうか。

あるいは劣勢と思われがちな

オギに肩入れしすぎだったろうか。

わたしには分からない。


もしかしたら、そういう壁さえ、

どこかで、圭一なら、

乗り越えられるのでは、と

私は過度の期待を

彼に掛けていたのかもしれない。

彼も一介の男子中学生にしか過ぎなかったのに…。


圭一は、それ以上は言わなかった。

そこで幕切れだった。

私たちの駆け引きはそこまで、だった。

私は可愛げのない

強情な中学生の小娘だった。

多分、自分のやわらかな感情が芽生える場を

自分で摘み取ったのだ。

そう、この時、も。


「うん。」

「じゃ、またな。」

「そうね。送別式に。」

私たちはまた、別々に歩き始めた。


送別式の日、私は圭一と一言も話さないまま、

母校、舞浜中を後にした。


この先、私たちの航路がもう一度交わるのは、もう随分先のことになる。



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